第12話 小姓(伊達政宗ネコの飼い主)

 窓に鍵を掛けるまで、目覚まし時計のようなトラキチに、毎朝六時半にネコパンチで起こされていた。


 昨日まで、寝坊できていることが嬉しかった。


 でも今日は、朝六時半に起き、一時間以上も漫画を読んでいる。といっても、集中できないから、頁は進んでいない。


「朝食、置いとくよ」


 母の声に、待っていたと飛び起き、ドアに駆けつけ、勢いよく開いた。


「トラキチは?」


 母がびっくりしたといわんばかりの顔付きで見つめてくる。面と向かって話すのは一ヶ月ぶりだからだ。


 しばし黙っていた母が、落ち着きを取り戻したような、腹を括ったような、そんな顔付きになった。


「おまえが拾ってきた野良猫だから、おまえが言ったように、あれからすぐに動物愛護センターに持って行ったよ。高価なフードしか食べなかったから、ちょうどよかったよ」


 せいせいしたというような口調に、胸が高鳴って心がざわついた。次の瞬間には、階段を駆け下りていた。玄関から飛び出すと、自転車に跨がった。動物愛護センターまで、自転車だと行きは一時間ほどだ。行きはというのは、途中から坂道を上らなければならないからだ。


 勾配を自転車で登るのはきついが、冴える脳裏にはトラキチが思い出される。


 突然繰り出されるネコパンチ、机上で読む雑誌の上に載ってきて寝転がる、甘えてきたと思ったら無視する。


「トラキチ。おめえは、わがままでプライドが高くて悪戯好きで……鬱陶しいんじゃ。じゃから、居なくなって、せいせいしたわ」


 打ちまけながら、立ち漕ぎで上っていく。


「じゃけど……おめえが居ないと……寂しいんじゃ」


 最後は小声になっていた。


 目の前に動物愛護センターが見えてきた。


「なんじゃ?」


 首をかしげ、自転車から降りる。門の前に人集りができているからだ。


 自転車を邪魔にならない所に置き、人混みを掻い潜って近づき、リポーターの声に耳を傾ける。その内容に驚いたと同時に、頭の中が真っ白になった。

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