第10話 問題

「織田信長殿」


「なんじゃ」


 制された織田信長ウサギは、不機嫌そうに伊達政宗ネコを睨んだ。


 伊達政宗ネコは俯いて黙り込んだが、意を決したように頭を上げると大きく鳴いた。


「実は、わしの小姓が引きこもっててな」


「ふん。幽閉ならまだしも、引きこもりとは、嘆かわしいことじゃ」


 黒田官兵衛ハリネズミが大袈裟に顔を振った。


「伊達政宗。なぜ活を入れぬ」


 苛々するように後足で地面を蹴った織田信長ウサギが、怒鳴るように鼻を鳴らした。


「そっとしておいた方が……」


「伊達政宗。おまえはヒトじゃない、アニマルじゃろが。じゃったら、活を入れるんじゃ。それが前世武将アニマル軍のモットーでもあるぞ」


 織田信長ウサギの活に、伊達政宗ネコは恐縮するように耳を伏せた。


「で、なぜ引きこもっておる?」


「夢にやぶれたとか……」


 困り顔で答えた伊達政宗ネコとは裏腹に、織田信長ウサギはあっけらかんと鼻を鳴らした。


「夢は寝て覚めたら終わるもんじゃ」

 髭をぴんと張った織田信長ウサギは続ける。

「じゃが、また夢は見られる」


「話が食い違っておらぬか?」


 首を傾げた豊臣秀吉リスザルが、長い尻尾の先を自分の目線に上げた。確認するように、名乗らぬモンシロチョウを見つめる。


「そうか?」


 名乗らぬモンシロチョウはやんわりと否定した後、とまっていた豊臣秀吉リスザルの長い尻尾の先から、ひらりと舞い上がった。ひょうひょうとした感じで車座の周りを舞う。それを目で追う豊臣秀吉リスザルは、狐につままれた表情だ。


「さすが、織田信長殿。その結果には裏切られるかもしれないが、その努力は報われる。後々、必ず、その努力は活きてくる。と、おっしゃっておられるのですね」


 哲学好きな保科正之アライグマは、感極まったように目を潤ませている。


「そういうことか」


 保科正之アライグマを見て頷いた伊達政宗ネコは、理解できたというように前足で地面を叩いた。


「飛躍しすぎじゃないか?」


 首を九十度傾げた豊臣秀吉リスザルが呆然となった。


「そうか?」


 再びやんわりと否定した名乗らぬモンシロチョウは、豊臣秀吉リスザルの傾げた首の反対側の肩にとまっている。


「伊達政宗。活を入れてこい」


 胸を反り直した織田信長ウサギは、髭をぴんと張って凜然と鼻を鳴らした。


「はっ」

 頭を下げた伊達政宗ネコは、決意を込めて鳴いた。

「一日一悪。出陣します」

 顔を上げると、しなやかに身を捻って反転し、陣幕のような木々の暗闇に消え去った。

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