第8話 軍議
居住まいを正すように、胸を反りなおした織田信長ウサギが、号令を掛けた。
「じゃあ、始める。一日……」
「織田信長殿。先の奇襲の討議がまだじゃ」
黒田官兵衛ハリネズに制された織田信長ウサギは、しまったというように髭を引きつらせた。だが、次の瞬間には、髭をぴんと張り、顎を持ち上げ、堂々と鼻を鳴らした。
「前世忍者アニマル軍が奇襲してきたと同時に、この中に徳川埋蔵金の隠し場所を知っている奴がいると聞いた、と叫んでおったが、わしはそやつに心当たりがある」
「まことか?」
名乗らぬセキセイインコは吃驚して羽を広げ閉じた。
「それは初耳じゃ」
武田信玄ハトは鳩が豆鉄砲を食ったようになった。
豊臣秀吉リスザルが、皆の顔を探るように見回しながら問う。
「誰ですか?」
「おまえじゃ」
即答した織田信長ウサギを、豊臣秀吉リスザルは素っ頓狂な表情で見た。
「おまえじゃ」
織田信長ウサギの指した前足が、豊臣秀吉リスザルの鼻を突いた。
「わわわわし?」
びっくりした豊臣秀吉リスザルは、飛び跳ねて一歩後ろに下がった。
驚いた皆の視線が、豊臣秀吉リスザルに集中する。皆の目は緊張している。
「ななななにゆえそんなことを?」
豊臣秀吉リスザルはわなわなと、両手を握り合わせ硬直する。
「サルは黄金が大好きじゃと、インターネットで分かったからじゃ。黄金の茶室じゃとか……」
織田信長ウサギの目が、嫌らしく細くなった。
「わわわ……」
仕舞ったというように、豊臣秀吉リスザルは震える。
「そんな大昔のことを……」
恨めしそうにぼやいた。
「じゃが、わしは知っておる」
前方を向いたまま、織田信長ウサギの顔の横に付く片方の目が、隣に座る豊臣秀吉リスザルに向かってウインクした。
「サルは隠し事などせぬ。なぜなら、サルはサルじゃからの」
織田信長ウサギは愉快そうに髭を波打たせた。
「冗談にも程があります」
豊臣秀吉リスザルは肩を落とし嘆いた。
「それに、前世武将アニマル軍の中に、隠し事などするものはおらぬ」
ぴんと髭を張った織田信長ウサギは、断言するように強く鳴いた。
「それはそうと、徳川慶喜殿や埋蔵金を埋めたものの転生アニマルは見つかっておらぬのか?」
名乗らぬセキセイインコは皆を見回した。
「見つかっておらぬ」
間を置いて、織田信長ウサギが答えた。
「見つかっていないのは、名乗らぬ転生アニマルとして生きておるか、まだ生まれ変わっておらぬか……」
考え込むように、黒田官兵衛ハリネズミが付け加えた。
「なぜ」
大きく鳴いた保科正之アライグマに、皆の視線が一気に集まった。
「アニマルなのに、なぜ埋蔵金を欲するのですか?」
「そうじゃ」
今気付いたといわんばかりに、織田信長ウサギがはっと鳴いた。だが、すぐに冷静を装って、ごまかす。
「保科正之。良い質問をした」
「殿は、そんな疑問、もったことないんでしょ?」
ひそひそと豊臣秀吉リスザルが、織田信長ウサギに耳打ちした。織田信長ウサギは素知らぬ表情だ。
「転生アニマルは、アニマルとは違う。じゃから、金があるとなにかと重宝する」
言い放つように羽を鳴らした名乗らぬモンシロチョウを、ぎろりと睨んだ織田信長ウサギが思い当ったというように髭をぴんと張った。
「今はインターネットの時代じゃ。置き配というものもある。わしはこっそり小姓のクレジットカードを使って、SDGsのニンジンを買っておる」
「殿も食いしん坊ですね」
にやにやと豊臣秀吉リスザルがひそひそと鳴いた直後、保科正之アライグマが感極まった表情で手を打ち合わせた。
「SDGsとは、さすがです」
織田信長ウサギは呆然とした。他の皆も呆然としている。そんな様子など目に入っていないのか、気にしていないのか、保科正之アライグマは再び手を打ち合わせた。
「さすが、殿です」
はっとしたように織田信長ウサギが、一層胸を反らした。
「じゃろじゃろ」
ご満悦な表情で髭を波打たせる織田信長ウサギだが、なんでそこまで感動されるのか、今一理解していない。他の皆もそうだ。
「織田信長殿」
逸れた話を戻そうと、黒田官兵衛ハリネズミが一刀両断するように鳴いた。一斉に皆の視線が集まる中、居住まいを正すように顎を持ち上げると、意見を述べる。
「徳川埋蔵金や前世忍者アニマル軍の動向など、いろいろと不明な点が多く、調査する必要があると思われる」
「じゃな」
織田信長ウサギの返答は早かった。黒田官兵衛ハリネズミの勘は鋭い。そんな彼が何かを感じとっていると悟ったからだ。また、自らも胸騒ぎを覚えているからでもあった。
一層胸を反らした織田信長ウサギは、凜然と鳴いた。
「その調査は、黒田官兵衛に委ねる」
「はっ」
黒田官兵衛ハリネズミは深く頭を下げた。そのままの状態で、力強く鳴いた。
「情報を集めるには、軍資金が必要じゃ」
調査には、転生アニマルやアニマルを動かす必要があり、そのためには、彼らが要求する好物を用意する必要があるからだ。
「そうじゃな」
織田信長ウサギは考える素振りをした後、地面に落ちていた枝を長い耳で拾い上げた。次の瞬間には、疾風のごとき速さで飛び跳ねて駆け、立花宗茂プレーリードッグに向かって枝を刀のように振った。
「なんでわし?」
訳が分からぬと当惑顔の立花宗茂プレーリードッグは、仁王立ちで仰け反った。そのことで一層露わになった首を、今にも切り落とさんばかりの位置で枝は止まっている。
「対価は、おまえたちの身の安全じゃ、と伝えよ」
髭をぴんと張り、長い耳をぴんと垂直に立て、目を細めた織田信長ウサギは、ニヒルに決めている。
「それから……」
片笑むと、顎を持ち上げた。
「わかるじゃろ? と付け足して伝えよ」
にやりと髭を波打たせると、枝を素早く薙いだ。
「でた。脅しじゃ」
豊臣秀吉リスザルは大袈裟に身震いして見せた。
「間違ってはおらぬ」
豊臣秀吉リスザルの隣に座っている名乗らぬタヌキが厳と鳴いた。ちらりと横目で見た豊臣秀吉リスザルがぽつりと返す。
「まあね」
高々と垂直跳びをして反転した織田信長ウサギを、豊臣秀吉リスザルは憧憬するように見つめている。その脳裏には、前世武将アニマル軍の領地に居る転生アニマルやアニマルに嘆願されれば、いらいらの表情になって後足で地面を蹴るが、親身になって助ける采配を下す姿が浮かんでいる。
元に位置に戻った織田信長ウサギが胸を反らして座った。
「格好が良かったじゃろ」
織田信長ウサギは悦に入った表情で、豊臣秀吉リスザルに耳打ちした。
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