第5話 軍議
「タヌキ。あそこの五匹に解毒薬を」
鼻を鳴らして指図した織田信長ウサギは、胸を反らしたまま片方の長い耳で前方を指している。
「はっ」
頷いた名乗らぬタヌキは、素早い動きで雑木林の中へ入っていった。
「それにしても、命知らずの奴らじゃ。こんなおもちゃじゃなく本物の刀だったら、みな、ここの肥やしになっとったわ」
苛々と鼻を鳴らした織田信長ウサギは、鼻で笑うように髭を波打たせ、片方の長い耳で持つ刀を、斜めに切り下ろすように振った後、足元の地面に置いた。
「殿。どうやって操術を破ったのです?」
豊臣秀吉リスザルが興奮したように鳴きながら、織田信長ウサギの隣に座った。
「さあな」
面白くなさそうに鼻を鳴らした織田信長ウサギが枝を仰いだ。ずっと何か居ることには気付いているが、その正体の主は見えていない。
豊臣秀吉リスザルが釣られるようにして仰いだ。
「何を見てるんじゃ?」
豊臣秀吉リスザルの隣に座った黒田官兵衛ハリネズミが、訳も分からぬまま仰いでみる。その隣に着地した武田信玄ハトは雑木林を見遣った。
「タヌキ殿が帰ってきたぞ」
武田信玄ハトが大きく鳴くと、皆の視線が雑木林から出てきた名乗らぬタヌキに向いた。
薬草に詳しい名乗らぬタヌキの口には、解毒作用のあるドクダミ(薬草)がくわえられている。気絶している五匹の下に駆け寄ると、ドクダミを地面に置き、車座になりかけている前世武将アニマル軍を見た。
「豊臣秀吉殿。手伝ってくれ」
呼ばれた豊臣秀吉リスザルは、名乗らぬタヌキに駆け寄った。
名乗らぬタヌキは、豊臣秀吉リスザルにすべきことを伝える。タヌキの前足(手)は、イヌの前足と同じで、握ったりできないからだ。
「わかった」
頷いた豊臣秀吉リスザルは、地面に置かれているドクダミの茎から葉を一枚もぎ取ると、汁が出るくらいに葉を握り潰した後、気絶している名乗らぬセキセイインコのくちばしを開きながら、握る葉を中に押し入れた。同じように、ドクダミの葉を一枚もぎ取って握り潰すと、前田利家シマリスの口の中に押し入れた。このように、一匹ずつ、全五匹の口の中に、握り潰したドクダミの葉を押し入れる。体の大きい毛利元就イヌには、ドクダミの葉を三枚使用した。
「すぐに目覚めるじゃろ」
満足げに鳴いた名乗らぬタヌキは、豊臣秀吉リスザルに深々と頭を下げると、颯爽と武田信玄ハトの隣に駆け寄り座った。
豊臣秀吉リスザルは、ドクダミの汁がべっとりと付いた手を、地面に擦りつけて拭い取った。
「秀吉?」
うっすらと目を開いた前田利家シマリスが、弱々しく鳴いた。気付いた豊臣秀吉リスザルは微笑むと、踵を返して駆け戻り織田信長ウサギの隣に座った。
気絶から目覚めた五匹は、ゆっくりと立ち、気合いを入れるように大きく体を揺さぶった。だが、表情は重たく、面目なさそうだ。
覚悟を決めたように毛利元就イヌが駆け出した。名乗らぬタヌキの隣に座る。後を追ってきた伊達政宗ネコが、毛利元就イヌの隣に座った。その隣に、駆け寄った立花宗茂プレーリードッグが座り、その隣に名乗らぬセキセイインコが座り、その隣に前田利家シマリスが座って、完全に車座になった。
車座になるのは決まり事だが、その位置は決まっていない。だが、織田信長ウサギの隣には、必ず豊臣秀吉リスザルが座っている。
「なぜ一匹も捕獲できんかった?」
苛々と鼻を鳴らす織田信長ウサギが、皆を睨みながら後足で地面を蹴った。
「殿が捕獲したらよかったのでは」
皆が黙りこくる中、豊臣秀吉リスザルがぼそっと鳴いた。
「何か言ったか?」
織田信長ウサギがぎろりと睨んだ。すっと視線を逸らした豊臣秀吉リスザルは白を切る。
「いいえ」
途端に、織田信長ウサギの前足パンチが炸裂した。豊臣秀吉リスザルは殴られた腕を摩りながら首を竦めた。
「いらいらするな」
いつの間にか、織田信長ウサギの額に、モンシロチョウがとまっている。羽を鳴らした後、織田信長ウサギをなだめるように、額を羽でなでた。
「やめろ。
荒々しく鼻を鳴らして髭を波打たせた織田信長ウサギは、モンシロチョウを前足で叩こうとした。
「短気は損気じゃよ」
ぽつりと羽を鳴らしてモンシロチョウは逃げた。
「ふん。名乗れぬモンシロチョウに言われる筋合いは……」
鬱陶しそうに鼻を鳴らした織田信長ウサギが、はたと気付いた。
「……ない」
続く単語を鼻で鳴らして、豊臣秀吉リスザルの肩にとまったモンシロチョウを見た。
「またチョウ目に生まれ変わったのか?」
さも愉快そうに、織田信長ウサギは鼻を鳴らした。
「織田信長殿もずっとウサギ目ではないか」
名乗らぬモンシロチョウは、お返しするように憎々しく羽を鳴らした。
「早い生まれ変わりで」
「今回も名乗らぬ気じゃな」
「キアゲハ殿からモンシロチョウ殿になってのお帰りじゃ」
「再入隊、待っておったぞ」
前世武将アニマル軍の皆々が嬉しそうに騒いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます