第4話 攻防

「なんじゃあれは?」


 羽をこすり合わせて転生アニマル音を鳴らしたのは、モンシロチョウだった。木の枝にとまって、五匹が並び置かれている地面を、不思議そうに眺めている。


「ここは前世武将アニマル軍の陣屋のはずじゃが……何が起こってるんじゃ?」


 首を傾げるように羽を鳴らしたモンシロチョウは、突如動き出した枝に驚き、舞い上がった。ふわふわ舞いながら、枝から放たれた葉の手裏剣や、地面から伸び出てくる根を眺めた。


「あのキツネ、おもろいの。耳の間に蜘蛛の巣が張られておる」


 枝にとまったモンシロチョウは、愉快そうに羽を鳴らしたが、すぐに舞い上がると、上昇気流を捉え、もっと上空に向かった。高い位置から見下ろしながら、ふわふわと優雅に舞い、観察しながら考え込む。つと、閃いたいうように、自らの前脚を見た。次の瞬間には、下降気流を捉え、流されるようにして舞い落ち、枝にとまった。


「からくりがわかった。あのおもろいキツネは囮じゃ。ならば、どこにおるんじゃ?」


 きょろきょろと捜しながら羽を鳴らすモンシロチョウは、自らと同じチョウもくを見つけた。


「捉えた。あそこじゃ」


 ふわりと舞い上がったモンシロチョウは、打って変わってスピード感のある舞いっぷりで、夜の帳に紛れて木の幹にとまっている名乗らぬアゲハチョウに向かって行った。


 操術に集中している名乗らぬアゲハチョウは、気付く気配もない。モンシロチョウはすんなりと幹に接近した。


「ドラミングで木を操るとはな」


 名乗らぬアゲハチョウの横にとまって羽を鳴らしたモンシロチョウに、さも驚いたと言わんばかりに振り向いた名乗らぬアゲハチョウは、ぴたりとドラミングをやめた。それと共に、木の動きは止まった。枝はしならなくなって葉の手裏剣はおさまり、枝の鞭もなくなり、地面から伸び出てくる根もなくなった。


 次の瞬間には、モンシロチョウは名乗らぬアゲハチョウの上に乗っていた。鍛え抜かれた六本の脚で名乗らぬアゲハチョウを押さえ付けている。


「おまえは何者じゃ?」


 詰問するようにモンシロチョウは羽を鳴らした。


「おまえこそ何者か?」


 名乗らぬアゲハチョウは答えぬままオウム返しで羽を鳴らした。


「おまえは何者じゃと聞いておるのじゃ」


 怒りに満ちたように荒々しく羽を鳴らしたモンシロチョウは、押さえ付ける六本の脚に一段と力を込めた。


「わしは前世忍者ア……」


 答える名乗らぬアゲハチョウが羽を鳴らし終わらないうちに、モンシロチョウは名乗らぬアゲハチョウの体を、六本の脚でしっかり掴むと、ハンマー投げのように振り回して脚を離した。


 投げられた名乗らぬアゲハチョウは、名乗らぬキツネの両耳の間に張られている名乗らぬジョロウグモの網に引っ掛かった。


 驚いた名乗らぬジョロウグモが硬直した。


 操術が破られたことを悟った名乗らぬキツネの行動は早かった。高々と飛び跳ねて反転すると、疾風のごとく駆け、木々の奥の暗闇に消えていった。


「チョウ目は、食草を見分けるために、前脚で葉を叩き(ドラミング)、そこにある化合物を感じ取っておる。その行動を極めたことで、ある特別な化合物で植物を操れることを知り、操術という技を生み出したんじゃろう。何度もチョウ目に生まれ変わっておるからできた技といえるが、試行錯誤を重ねたことじゃろう。その点においては、あっぱれといわねばなるまい」


 枝にとまるモンシロチョウは、前世武将アニマル軍の動向を眺めながら羽を鳴らし、一休みしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る