第2話 攻防
葉の手裏剣は、次から次へと枝を大きくしならせる木によって、絶え間なく前世武将アニマル軍に襲いかかっている。
堂々と胸を反らして座る織田信長ウサギの片方の長い耳が、背後に動いた。と同時に、顎を上げ、不敵に片笑むように片髭を上下させた。直後には、もう片方の長い耳で持つ刀を、振り向きざまに振った。背後から首を狙って噛み付いてきた名乗らぬイタチの頭を斬ったのだ。いや、斬るのではなく打ったという表現になるだろう。3Dプリンターで作られた織田信長ウサギ用の刀だからだ。
前世武将アニマル軍が持つ武器は、3Dプリンターで作られている。前世武将アニマル軍の豊臣秀吉リスザルが、小姓(飼い主)の3Dプリンターを使い、希望する一匹一匹に専用の武器を作っているのだ。
織田信長ウサギは、名乗らぬイタチが脳しんとうを起こして地面に倒れるや否や、後足で蹴り飛ばした。
名乗らぬイタチは、木々の奥の暗闇へ飛ばされていった。
「必殺、健忘打」
にやりと鼻を鳴らした織田信長ウサギは、改めて堂々と胸を反らして座った。前世武将アニマル軍の戦いっぷりを眺めながら、片方の長い耳は背後を探る。名乗らぬイタチを蹴り飛ばした先だ。
「起きたイタチは、なんでここに居るんじゃろうと、奇襲したことを忘れ、ふらふらと城に帰っておる」
独り言ちる織田信長ウサギは、にやりと片髭を波打たせてご満悦な表情になった。そこへ、豊臣秀吉リスザルが、3Dプリンターで作った自分用のヌンチャクで、葉の手裏剣を打ち落としながら近寄ってきた。
「サル。おまえは、ブルース・リーか」
鼻を鳴らして突っ込んだ織田信長ウサギは、堂々と胸を反らして座ったまま、迫ってくる葉の手裏剣を、片方の長い耳で持つ刀を振って、悠然かつ機敏に打ち落としている。
「
豊臣秀吉リスザルは興奮したように、口から転生アニマル音を鳴らしながら、ブルース・リーっぽくヌンチャクを振り回し、葉の手裏剣を打ち落としていく。
「おお、観たぞ。あれは格好が良かった」
「ですよね」
歯をむき出して喜ぶ豊臣秀吉リスザルのそばに、いつの間にか、前世武将アニマル軍の前田利家シマリスが近寄っていた。仁王立ちの前田利家シマリスは、3Dプリンターで作られた前田利家シマリス用の槍で、葉の手裏剣を打ち落としている。
「なんの映画か知らんが、格好が良いとは思えんがな」
前田利家シマリスは、豊臣秀吉リスザルを上から下へとなめるように見て、からかうように口から転生アニマル音を鳴らした。そのとき、枝が鞭のように、前田利家シマリスの頭上にしなってきた。油断していたため、危うく打たれそうになったが、すんでの所で枝をかわした。そう見えたが、枝から出てきた枝に捕獲され、名乗らぬキツネの足元に放り投げられた。
「二匹、やられたか」
苦々しく鼻を鳴らした織田信長ウサギだが、片笑むように片髭を上下させた。
「今回はちらりとからくりが見えた。かわしたはずなのに捕まったのは、枝から突如、カマのような枝が出て、前田利家の首を捕らえたからじゃ」
「徳川埋蔵金はどこにある?」
クモ糸を弾き鳴らす名乗らぬジョロウグモの尋問が響き渡った。
「知らぬ」
くわえられている名乗らぬキツネの犬歯から仰け反るようにして、前田利家シマリスは口から転生アニマル音を鳴らして答えた。
名乗らぬジョロウグモは、腹先の糸いぼからクモ糸を出すと、仰け反っている前田利家シマリスの眼前に、すっと下りた。
「おまえに用はない」
クモ糸を弾き鳴らした名乗らぬジョロウグモは、毒牙で前田利家シマリスの首に噛み付いた。気絶した前田利家シマリスを、名乗らぬキツネは、名乗らぬセキセイインコの隣となる地面に置いた。
背筋を伸ばして立った名乗らぬキツネの前足が、呪文をかけるように動いた。
「また操術じゃ」
気を付けろというように、黒田官兵衛ハリネズミが鳴いた。
葉の手裏剣を打ち落とす前世武将アニマル軍の顔が引き締まった途端、地震が起こったように地面が揺れた。直後、木の根がタコ足のように地面から伸び出てきて、前世武将アニマル軍を転ばそうとする。
前世武将アニマル軍の名乗らぬタヌキが、ホームスチールするような格好で、頭から地面に突っ込んだ。地面から伸び出てきた根に噛み付き、前足の爪で引っ掻く。
豊臣秀吉リスザルは、葉の手裏剣だけでなく、根も襲いかかってきたことで、ヌンチャクを放り捨てると、地面に置いていた3Dプリンターで作った自分用の二本の刀を両手に取った。左手で葉の手裏剣を打ち落とし、右手で根を叩く。
織田信長ウサギが胸を反らし堂々と座る地面にも、根が伸び出てきた。だが、全く慌てることなく、前足パンチで根を叩き、後足キックで根を打つ。
仁王立ちの前世武将アニマル軍の立花宗茂プレーリードッグは、3Dプリンターで作られた立花宗茂プレーリードッグ用の弓と矢で、葉の手裏剣を射貫いて落としたり、根を射貫いてダメージを与えたりしている。
「黒田官兵衛殿」
立花宗茂プレーリードッグが、口から転生アニマル音を鳴らして呼んだ。
呼ばれた黒田官兵衛ハリネズミは、何事だろうと、素っ飛んできた。
「しっけい」
詫びるように鳴いた立花宗茂プレーリードッグは、唐突に黒田官兵衛ハリネズミの背中の針を一本、強引に引き抜いた。それを矢にして弓にあてがうと、葉の手裏剣目掛けて射た。3Dプリンターで作られた矢が手元になくなったからだ。
「痛いじゃないか」
立腹で鳴く黒田官兵衛ハリネズミだが、立花宗茂プレーリードッグはお構いなしといった感じで、葉の手裏剣を睨みながら再び針を一本引き抜こうとした。
「痛っ」
驚いて鳴いた立花宗茂プレーリードッグは、慌てて手を引っ込め、見下ろした。黒田官兵衛ハリネズミが、手に噛み付いていた。
「甘噛みじゃ。大袈裟に鳴くな」
黒田官兵衛ハリネズミが嫌みたらしく鳴いた。仁王立ちの立花宗茂プレーリードッグは見下ろしながら頭を下げた。そのときだった。彼ら目掛け、枝が鞭のようにしなり打った。
「立花宗茂殿。避けろ」
逸早く気付いた黒田官兵衛ハリネズミは、鳴いて告げると、枝を避けたと同時に丸まって針の鎧で自らをガードした。
視線を下にしていた立花宗茂プレーリードッグだったが、この警告で、なんとか枝を避けることができた。いや、枝から伸び出てきた長い枝に引っ掛かった。引っ掛かったというか、ボールのように、立花宗茂プレーリードッグは、その枝に打たれ、名乗らぬキツネの足元まで飛ばされた。
「三匹、やられたか」
淡々と鼻を鳴らした織田信長ウサギだが、苛つきを発散させるように、迫ってきた葉の手裏剣を、片方の長い耳で持つ刀で俊敏に打ち落とした。
名乗らぬジョロウグモの尋問が響く中、前世武将アニマル軍の中で一番大きな体の毛利元就イヌが、しなりそうになった枝に飛びかかって噛み付いた。噛んだまま後足で枝を蹴り上げる。と、その枝は、しなるのを止め、元の位置に戻った。毛利元就イヌは誇らしげに細長い尻尾を立てたが、次の瞬間には再び、しなりそうな枝を見極め、飛びかかっていった。勇猛な全身白色のミックス(雑種)イヌだ。
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