前世武将アニマル軍

月菜にと

第1話 奇襲(前世忍者アニマル軍)

 月が雲に隠されて暗闇に包まれた。


 前世武将アニマル軍の陣屋は、公園の一角にある雑木林の中、陣幕のような木々に囲まれた開けた場所にある。


 目を凝らすと、地面で車座になる十匹の影が見えた。その中の一つ、長い耳の影が、ぴくぴくと動いた。直後、タンタンタンと後足で地面を蹴り、警戒音を鳴らす。


曲者くせものじゃ」


 長い耳の影が一喝するように、転生アニマル音を鼻で鳴らした。転生アニマル音とは、転生アニマルにしか出せず、転生アニマルにしか聞き取れず、転生アニマル以外のヒトなどには聞こえない、特別な周波数の音だ。転生アニマルとは、前世の記憶と共存するアニマルのことだ。


 長い耳が地面に置いてあった武器を取った。他の影も、地面に置いてあった武器を取ると、身構えた。武器は、軍議に参加しているときは、傍らに置いている。だが、軍議以外は、陣屋近くの木のうろや地面に穴を掘ったりして隠している。


 陣幕のような木々が音を立て始めた。風は吹いていないのに、木々が激しく揺れだしたからだ。


 身構える影に近い木の枝が、大きくしなった。


 ビュウと空気を切り裂く音が、上下から同時に響いた。


 下から放たれた矢が、上から鞭のように打ってきた枝を、射貫いた。直後には、影の中で一番大きな影が飛び跳ね、射貫いた枝部分を前足で叩いた。枝が折れ、地面に落ちる。


 ドサリという音が響くと、雲に隠されていた月が出てきた。


「前世武将アニマル軍。この中に、徳川埋蔵金の隠し場所を知っている奴がいる、と聞いた。そやつは、すみやかに、白状せよ」


 折れた枝の木の背後から、キツネが姿を現わした。キツネの両耳の間には、クモ糸で作られた網が見える。その張られた網の中央には、二センチほどの大きさのジョロウグモがいた。


「おぬしらは、前世忍者アニマル軍か?」


 鼻を鳴らして詰問したのは、刀を片方の長い耳で握るようにして持つ、前世武将アニマル軍の織田信長ウサギだ。泰然自若、堂々と胸を反らして前足を揃え、尻を地面について座っている。つやつやした灰色の毛並みに、額から鼻と口元は白色のミニウサギ(雑種)だ。


「そうじゃ」


 ジョロウグモは奏者のように、キツネの両耳の間に張っている網のクモ糸を弾いて、転生アニマル音を鳴らして答えた。


「おまえは誰じゃ?」


「名乗らぬ」


「ふん。名乗らぬジョロウグモか」


 織田信長ウサギは蔑むように鼻を鳴らした後、名乗らぬジョロウグモから視線を落とした。


「下にいるおまえは誰じゃ?」


「わしらは皆、名乗らぬ」


 名乗らぬジョロウグモが、クモ糸を弾き鳴らして答えた。


「ふん。答えもせぬ、名乗らぬキツネか」


 織田信長ウサギは面白くなさそうに鼻を鳴らしながら、名乗らぬキツネを見つめた。


「白状せぬなら、尋問していく」


 名乗らぬジョロウグモが、クモ糸を弾き鳴らした。名乗らぬキツネが、前世武将アニマル軍の面々を睨んでいく。


「では、始める」


 名乗らぬジョロウグモがクモ糸を弾き鳴らすと、すっと名乗らぬキツネが仁王立ちになった。前足が呪文をかけるように動いたと思いきや、近くの木が再び、風も吹いていないのに、激しく揺れ出した。その枝が大きくしなったと思いきや、落葉の季節でもないのに、その枝の葉が一斉に落葉した。落葉といっても、枝が投手のようにしなった為、大量の葉は速球となって放たれた。まるで手裏剣のように、前世武将アニマル軍に襲いかかる。


「これが噂のキツネの操術か」


 肝を冷やすように口から転生アニマル音を鳴らしたのは、前世武将アニマル軍の黒田官兵衛ハリネズミだ。非常に驚いているが、つぶらな瞳は嬉しそうに葉の手裏剣を捉え、逆立ちしたり、仁王立ちになったり、身をくねらせたりして、意気揚々と、葉の手裏剣を背中の針で打ち落としていく。手応えのあるいくさにわくわくしているのだ。このわくわく感は、黒田官兵衛ハリネズミだけではない。前世武将アニマル軍の皆がそう感じ、仰天しながらも楽しそうに戦っている。


 別の枝が大きくしなった。大量の葉の手裏剣が襲いかかる。


 前世武将アニマル軍の名乗らぬセキセイインコは、華麗に飛び回りながら葉の手裏剣をかわしたり、くちばしにくわえている名乗らぬセキセイインコ用の槍で葉の手裏剣を打ち落としたりしている。そんな果敢に攻める水色の体に向かって、枝が鞭のようにしなって打った。刹那、急反転でかわす。かわせたように見えた。だが、枝から出てきた枝に捕獲され、名乗らぬキツネの足元に放り投げられた。


「一匹、やられたか」


 ぼそっと鼻を鳴らした織田信長ウサギは、威風堂々と胸を反らして座ったまま、皆の戦いを眺めている。迫ってきた葉の手裏剣は、片方の長い耳で持つ刀を、悠然かつ機敏に振って打ち落としている。耳であるにも関わらず見事な刀さばきなのは、耳を手指の代りとして器用に動かせるようにきたえ抜いたからだ。このことは、ケージから出るのも、城(飼い主の家)から抜け出すのも、お茶の子さいさいということだ。


 名乗らぬキツネは、足元に転がっている名乗らぬセキセイインコをくわえると、顔を振った。


 失神していた名乗らぬセキセイインコは目を覚ましたが、すぐに置かれている状況を悟り、全身を硬直させた。


「徳川埋蔵金はどこにある?」


 名乗らぬジョロウグモが、クモ糸を弾き鳴らして尋問した。


「わしは知らぬ」


 名乗らぬセキセイインコは、口から転生アニマル音を鳴らして答えた。


「そうか」


 ぽつりとクモ糸を弾き鳴らした名乗らぬジョロウグモは、腹先の糸いぼからクモ糸を出すと、すっと名乗らぬセキセイインコの首まで下り、毒牙で噛み付いた。


 気絶した名乗らぬセキセイインコを、名乗らぬキツネは地面に置いた。

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