第18話 売り言葉に買い言葉
唯香がファミレスを後にし、俺と里奈さんは元の席に戻っている。
隣り合わせで座りながらも、さっきまでの甘ったるい空気はなくなっていた。
何を話せばいいのかわからずにいると、里奈さんが困ったように頬を掻いた。
「たはは……。ごめんね、急にカッとなっちゃって」
「いえ、謝らないでください。俺のために怒ってくれたんですよね。すげぇ嬉しかったです」
「それも、あるけど……。私がシンプルに我慢できなくなっちゃっただけ、だよ」
「だとしてもです」
里奈さんは苦笑すると、チラリと視線を配ってくる。
「えっと、じゃあ勉強する? 元々、その予定だったし」
「その前に一個聞いちゃってもいいですか?」
「ん?」
「聞こうかずっと迷ってて……結局、聞かないで放置してたんですけど」
こてんと小首を傾げて、里奈さんが興味深そうに俺を捉える。
今日、里奈さんと唯香は、教室の中で口喧嘩をしていた。
その時に、気になることを里奈さんは言っていたのだ。
内容的に引っかかりを覚えてはいたものの、聞き出すタイミングを逃していて、なにより、踏み込んでいいものかわからず隅っこに追いやっていた。
だが、やはり気になる。
「俺の認識だと、里奈さんと知り合ったのは、唯香と付き合ってからなんです。けど、里奈さん言ってましたよね。最初に俺のことを横取りしたのは、唯香だって。里奈さんが俺のこと好きで、里奈さんに対する嫌がらせで唯香が俺と付き合ったって」
切り込んでみると、里奈さんはぎこちなく笑みを繕った。
「あー……うん、勢いに任せて言ってたなぁ、私……」
遠い目をしている。
「この件、すごい気になるんですけど、教えてもらえないですか?」
「んー……まぁ、拓人くんは思い出しそうにないしね。いいよ、教えてあげる」
唯香と付き合う以前に、里奈さんと接点があったということだろう。
少し前屈みになって関心を示す俺。
だが、里奈さんはピンと人差し指を立てて。
「ただ、次の期末テストで学年50位以内取れたらね」
「き、厳しくないですか……」
「そうかな」
「里奈さんの基準で考えないでほしいです」
里奈さんは学年順位一桁しか取ったことないみたいだからな。
ちなみに俺は、真ん中くらいだ。
50位以内という設定は、かなりハードモードだった。
「そっか……。拓人くんは、簡単に達成できる難易度で私との過去を知りたいんだね」
「……っ。や、やってやりますよ、学年50位!」
「そ?」
「ええ、見ててください」
売り言葉に買い言葉で、非常にハードな要求を引き受けてしまう。
くっ……。
里奈さん相手だと、つくづく、調子に乗ってしまう。
里奈さんの挑発がうまいのか、俺がチョロいのか……。おそらく後者だろうな。
ともあれ、期末テストに向けて、一層やる気をみなぎらせる俺だった。
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