第16話 ファミレスでいちゃいちゃ

「あ、見つけた」

「そこなにが違うんですか?」

「こっちの塀は横の木が前で、こっち側は縦の木が前になってる」

「天才ですか里奈さん……」


 現在。

 イタリアンを取り扱うファミレスにて。


 難易度調整を明らかに間違えている間違い探しを、二人して楽しんでいた。


 前にやったときは、途中で諦めてネットで答えを見た俺だが、今回はネットに頼っていない。というのも、里奈さんが間違いを探すのが上手いのだ。


 十個の間違い全てを、工場のレール作業をするみたいに見つけていた。なにこの才能……。


「えへへ、昔から得意なんだ。こういうの」

「へぇ、凄いですね」

「ちなみに拓人くんの変化にもめざといよ」

「俺、なにか変化あります?」

「ここ、寝ぐせたってる」

「え……あれ? ほんとだ」


 里奈さんに指をさされ、右の側頭部を確認する。


 明らかに重力に反した髪があった。

 元々天パ気質で、自然と重力に逆らうことは珍しくない。困った毛根である。


 俺が手櫛で整えていると、里奈さんが口元を綻ばせた。


「拓人くん、かわいい」

「みょ、妙なこと言わないでくれますかね」

「だって可愛いって思ったんだもん」

「俺はカッコいいって思われたいです」


 頬に赤みを出しながら、プイッとそっぽを向く。


 彼女に可愛いと思われても、ちっとも嬉しくない。


「拓人くんはカッコいいよ」

「な、なんすか。この流れで言われてもお世辞にしか」

「お世辞じゃない。本心で思ってるよ」

「卑怯な先輩だな……」


 そんなこと言われたら、もう、ほんとにオチてしまう。とっくにオチている気もするけど……。


「私は、可愛いって思われたいなぁ……」


 里奈さんがチラチラと視線を送ってくる。


 その言動と仕草がすでに可愛かった。


 俺はこほんと咳払いして、気合いを入れ直してから。


「か、可愛いですよ。里奈さんは」

「なんかごめんね。言わせたみたいで」

「はい、もっと謝ってください」

「うわー、そう来るんだー?」


 里奈さんは胡乱な眼差しを向けてきた、


 くっ……。


「心の底から思ってますよ。メチャクチャ可愛いって」

「えへへ、あんがと」


 笑顔が眩しすぎて直視できそうにない。


 これ以上は精神が持ちそうにないため、俺はバッグから勉強道具を取り出した。


「そろそろ勉強しますか?」

「うん。そうだね」


 テーブルの上に英語の参考書を展開していると、里奈さんが隣にやってきた。


 案内された席が、四人用のボックス席でよかった。

 勉強する上では、向かい合うよりも、隣同士の方が捗るからな。


「ふふっ」

「え? なんか面白いことありました?」

「ううん。彼氏と放課後にファミレスで勉強とか初めてだなって」

「そ、そっすか」


 里奈さんは随分と俺に一途でいてくれたみたいだからな。


 この類稀なルックスを持ちながら、俺と付き合うまで恋愛経験がなかった。

 彼氏と、という枕詞をつけるのであれば、初めてのことばかりだろう。


 里奈さんがコツンと、俺の右肩に頭を乗せてくる。


「ちょ、り、里奈さん……?」

「ほら勉強しよ」

「集中できそうにないんですけど」

「どんな状態でも集中できる精神状態を鍛えてあげてるの」

「なるほど……」

「えへへ」


 傍から見たら、ただのバカップルだなこれ。


 と、自分の現状に苦笑いしているときだった。


 カランコロン、とベルが鳴り、来客が周知される。

 なんとなく意識がそちらに向いて、チラリと視線を配った。


「…………」

「ん? どーしたの?」


 ピタリと体を硬直させた俺を見て、里奈さんが不審げに見つめてくる。


 俺の肩から離れて、同じ方向に視線を送った。


 里奈さんの身体も固まる。


 来店してきたのは、唯香。そして、隣には知らない男がいた。


 この前見かけた時は、顔まではっきりと確認できなかったが、体格や髪の色からして恐らく同一人物。


 まさか、このタイミングで再び見かけるとは思っていなかった。

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