第6話 意馬心猿の解
心猿の正体、それは。
「インフルエンサーだ」
「インフルエンザがどうした?」
この脳筋女は!?
「イ・ン・フ・ル・エ・ン・『サー』だ!」
「なにそれ?」
「ようはネットの人気者だよ。影響力のある人を示す」
そこで怪力乱神は首を傾げる。
「でもよ、これ匿名なんだろ? 裏SNSだっけか?」
「いや、それがそうでもない。確かにIDやハンドルネームの類は無いが、代わりにこのSNSではアイコンが表示される。他はデフォルトにしているのにコイツ、チア部の盗撮犯だけは苺マークのアイコンに設定してある」
「そいつが?」
「チア部部長、
そこで怪力乱神が握り拳を振り上げた。
「女の敵は女ってか! 燃えてきた!」
「まあやる気になってくれたなら構わないが。これで新聞部部長が嫌う理由も分かったな。お前の言う通り、女の敵、仲間を売るクズにこいつはなっちまってる」
「それがアヤカシのせいか?」
「そうだとも」
僕は大きく頷くとパソコン、僕自身へと向き直る。
今回の主戦場は電脳空間だ。
僕と相性がいい。
「今からハッキングで心猿を炙り出す」
「そんなことできんのか! やっぱすごいな幽夜!」
……こいつに褒められるのは業腹だが。
まあ受け入れてやる。
「炙り出された心猿は此処、学園倉庫奥に現れるはずだ。お前はソレを叩け」
「応!」
さあ電脳戦といこうか心猿。
インフルエンサーの鼻っ柱を叩き折ってやる。
画像データを渋々拝見。
それはロッカーからの隠し撮りなどではない。
下着姿の少女達が堂々とカメラに向けてピースを放っている。
それが内部犯である事の証左だった。
「承認欲求を満たすために仲間を売るとはな。だが」
その写真の少女、その瞳に映り込んだスマホを持つ女と猿の影を捉える。
ビンゴ!
ズームして解像度を上げる。
鮮明に映し出されたのはそばかすをつけた制服姿の少女だった。
さて、悪いな取月実穂、これも心猿を退治するまでの間だ。その間だけ、お前には悪役になってもらう。
そう、その犯行の証拠を裏SNSに拡散する!
メッセージにはこう書き加えてやった。
『苺の正体見たり!』
とな。
するとどうだ。
一気にアクセス数が爆上がりする。
表向きにはそんな情報は出ない。
しかしパソコンの付喪神である僕には知覚できる。
その写真に注目が集まっている事を。
そして加えてこう付け加えた。
『さあ心猿、これ以上、正体を晒されたくなかったら、この場所に来い、お前なら分かるはずだ』
と。
そのメッセージには大した反応は無い。
だがそれでいい。
たったったったっと駆け足の音が遠く遠くから近づいてくる。
「お早い登場だな?」
「そのくらい焦ってるんだろ」
そばかすを付けた顔の制服の少女が倉庫のシャッターの穴からこちらを覗き込んで来た。
「どうして!? 私はただ――」
「人気者になりたかっただけ? か? でもそれ君のアイデアじゃないだろ?」
「え? え? 私は、違う、私は、ワタシハ、ワタシハァァァ!?」
現れる、大猿の影、いや違う、本体、そのもの。
黒い人並サイズの猿。その鋭い眼光。剥き出しの牙。
しかし、それを前に打って出るのがこちらの女だ。
「ぶっ潰す!」
怪力乱神がいきり立つ。
「だから封印しろって」
「わーってるよッ!」
心猿と怪力乱神が殴り合う。
隣にいた取月実穂は意識を失い倒れる。
やはり主人格は心猿にあったようだ。
「これで遠慮はいらないぞ怪力乱神」
「あいよッ! あと櫻坂桜――」
殴りかかる腕が受け止められる。
しかし、それは心猿の手の平を突き抜けた。
血飛沫を上げて呻く心猿。
「相変わらず恐ろしい怪力だな……!」
怪力乱神による相手の
心猿が口から血を吐いた。
そして怪力乱神の拳が腹部を貫き、心猿が臓物を背中からぶちまけた。
「おい! そろそろやめて封印しろ!」
「おっとそうだったそうだった」
こいつ……。
まあ思い出しただけマシとする。
怪力を振るうアイツを目の前に怒らせるような言葉はかけられない。
そーっと、クールに対応するのだ。
あいつが封印の祝詞を唱えると同時に印を結ぶ。
相変わらず祝詞の内容はぐちゃぐちゃだったが印の結び方だけは美しい。
思わず見惚れるくらいには。
「っと、女の敵は七百年くらいおねんねしてな」
「お前の刑期裁定は適当過ぎる! 九尾の千年を基準にするな!」
「だって十年やそこらで出て来られたら面倒だろ」
「伝承が消えるのなんて数週間あれば十分なんだよ。それくらい人の噂ってのは立ち消えしやすいんだ」
「そういうもんかね」
怪力乱神は飽きたようにその場に座り込む。
僕は自分の本体であるパソコンの前から立ち上がり、その場を去ろうとする。
「おい、どこ行くんだよ」
「ちょっと様子見だよ」
僕はパソコンの付喪神であるがゆえに周辺のアクセス数などを感知できる。
裏SNSから取月実穂の影響、心猿の伝承が消えた事を確認する。
盗撮写真も全ての端末から削除され、僕が上げた画像も消える。
これで被害者はゼロだ。
学園内を一通り回り終えた頃には夕暮れだった。
「あと何体だ……後何体、封印すれば僕は人間に戻れる? 答えろよ」
僕の独り言に返ってくる言葉はなかった。
――『規律拘束の怪』に続く――
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