第5話 意馬心猿の怪
――欲望に忠実な人間ほど、猿のように狡賢くなるのだ――
今日も今日とてメールは届く。
以下内容。
1.名前:aryaryaryaryaryagi
アヤカシ:心猿
心猿って知ってる?
意馬心猿って四字熟語から来てるらしいんだけどさ。
人の性欲を乗っ取るんだって。性暴行の犯人とかに取り憑いてるらしいんだけど。
でもこいつに気に入られると、逆にえらいモテるんだって。
対象生徒:
補足:チア部部長。学年人気No. 1女子
「学年人気No.1とは大きく出たな。怪力乱神、お前知ってるか?」
「知らね」
どうやらこいつは色恋沙汰には興味が無いらしい。
まあ世界の裏側に全身浸かって喧嘩に明け暮れるような奴だ無理もない。
「怪力乱神、今回はお前から接触してくれ」
「ん? まあいいけど、なんで?」
「こいつは多分、異性に強いタイプのアヤカシだからだ」
「ああ、そういう事」
怪力乱神が得心いったように頷く。
そして僕もおもむろにパソコンの前から立ち上がる。
「ん? お前もどっか行くのか?」
「調査だよ、せっかく手に入れたコネだ。使わないともったないだろ?」
「コネ?」
「新聞部だよ」
そう、遊蛾の件で僕らは新聞部にコネクションが出来ている。
こういったゴシップを扱うのに向いている輩も他にいまい。
「んじゃお互い明日情報交換といこうじゃないか」
「おう、その前にあたしがアヤカシを蹴散らしても恨み言無しな!」
「蹴散らすんじゃなくて封印しろ」
そんな事を言い合って今日は解散と相成った。
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僕は新聞部を目指す。
校舎側から見て最奥にあるそこ。
僕はその扉をガラリと開ける。
「ちょっと、ノックはマナー……ってアンタ!?」
「よお、訂正記事はどうも」
「ゆ、幽霊生徒……」
立ち上がったまま、彼女は明らかに怯えていた。
何か怖がらせるような事しただろうか?
ああ、そうか。
「そうとも君達が存在を肯定してくれた幽霊生徒だ。これでも感謝してるんだぜ?」
「ゆ、幽霊から感謝されても嬉しくないわよ! 誰か塩撒いて塩!」
塩なんぞ効くものか。
というか新聞部に塩などあるはずもなく。
「まあ落ち着けよ。僕はただ情報収集に来ただけだ」
「情報収集?」
「そう、取月実穂についてだ」
「ッ!?」
その名前を出した途端に新聞部部長、日暮火奈の表情は歪んでいった。
まるで聞きたくない名前を聞ききました。
と雄弁に語っているように。
「ビンゴだな」
「な、なにがよ」
「心当たりがあるんだろ、その名前に」
日暮火奈は盛大に舌打ちをして席に座った。
「知るもんか、あんなやつ」
「知ってるから嫌うんだろ? どうした? 急にモテだしたりしたか?」
「あんたがなんでそれを……」
「これでもこの学校の幽霊生徒なんでね」
「意味わかんない」
ふてくされたように机につっぷす日暮火奈。
「あんた、うちの部活になんかしたでしょ」
ギクリ。
遊蛾の事は存在事消えたので、記憶にも残ってないはずなのだが、違和感は残っているらしい。
「さてね、情報交換でもするかい?」
話しても信じなどしないだろうが。
「お断りよ、発生源が不明瞭な情報なんて新聞部の沽券にかかわるわ」
「じゃあどうしたら聞かせてくれるんだ? 取月実穂の事をさ」
「校内裏新聞」
「ん?」
「あんた幽霊生徒の癖して知らないの。学内SNSで作られた裏掲示板みたいなもんよ」
裏掲示板とはまた懐かしい名前が出て来た。
そんなものがあった時期にも僕は存在していたし、僕から、僕というお化けパソコンからそこにアクセスした者がいた事も覚えている。
「情報提供感謝する。では失礼するよ」
「二度とくんな!」
手痛く追い出されたところで僕は本体のところに戻る事にする。
さて怪力乱神の方は首尾よく行っているだろうか?
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「はぁ? なんの情報も得られなかった?」
「いやあたしだって悪いとは思ってるけどよ」
「まあいい、元からあんまり期待してない」
しかし表舞台では噂にもなってない人気No.1とはいったいどういう事だろう。
僕は学園の裏SNSへとアクセスする。
巧妙に隠されたルートを辿っていくと。
そこには雑多な人間の負の感情が渦巻いていた。
恨みつらみ妬み嫉み悲喜こもごもである。
負の感情に「喜」がある事という事実がもう人間の醜さを描いていると言っていい。
その中でひときわ目立つ「輝き」があった。
それが、それこそが、取月実穂その人だった。
「なるほど学園人気No.1とはこの事か!」
チア部の盗撮写真の山。
それが心猿の正体だった。
――『意馬心猿の解』に続く――
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今回のアヤカシは飯田太郎さん(@taroIda)のアイデアです!
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