女王陛下
芸術都市、女王の間——————
芸術都市の王城、その最奥。
そこは一つ一つが強い存在感を放つ煌びやかな装飾、豪勢な内装の間だった。だが不思議なことにそれら奇抜な内装は特出せず、全体で調和を保っていた。
更にその中央、
格調高い調度品が、美の化身である女王を際立てる。
女は体を捩り、足を組み替える。その動作が女王の間にいる兵士たちを魅了する。
スラッシュしたドレスの隙間から覗く濡れた質感の太腿が官能的な色香を振りまき、女王の間全体に、人語に落ちない
広間が彼女を飾るのではなく、女王が千変万化の広間を着飾っている様は、
扇情的な女王の嗜虐的な笑みで、艶やかさ一色となった広間に、少しの険呑が混じる。
女王の間の扉が開き、一人の中年騎士が現れる。中年騎士の後ろには彼と同じく甲冑に身を包んだ少女の姿が。中年騎士と少女は女王の目前に迫ると、絨毯に片膝をつき頭を垂れる。
「女王よ、命により我ら、参上いたしました。女王の美貌は他の追随を許さず、また損なわれない。御身の威光が都市を包む日も近いでしょう」
堅苦しく気が張る壮年の偉丈夫は、眉間にできた
「良い、面を上げよ。先の任務ではご苦労だったな、トラザム…兵士よ、持ってまいれ」
女王は、目前の騎士たちの顔を上げさせ、彼らの前に水晶を持ってこさせた。
水晶は騎士たちの目前に置かれると、潤滑な表面に変化が訪れた。
小さく、掌に乗る程度の水晶は二人の衛士の顔が映し出す。
「こやつらは、不遜にも我が都市を荒さんとする逆賊共だ」
「ふふ……愚かな。女王に歯向かうなど。よほど命が惜しくないと見える」
女王の言葉に、短い嘲笑を零した男騎士の眼が締まる。彼らが敵だと理解した彼は、記憶にその顔を刻み付けていた。女王はそんな中年騎士に命令を下す。
聞く者を魅了する甘い声で、相手を惑わす精神汚染を発する。
「殺すな、あくまで監視に留めておけ。それがそなたらに下す命令だ」
「始末しなくてよろしいのですか?このような有象無象の郎党など、私が一呼吸の内に死滅してみせましょう」
情炎に吐かれた凛々しき声に、口端を吊り上げた騎士は献言する。敵の顔も、正体も割れている。ならば、捕えて尋問すべきと思ったが、彼女はそれを望んでいないらしい。
「期をみて捕える。なんでも片方は衛士団の長の倅だそうだな。フフフ、またとない獲物だ。報告は怠るなよ。去る者は騎士トラザム、お前に任せる」
中年騎士は、「はっ!」と頭を垂れ、理知的にこれを了承する。
中年騎士の横にいる少女は固まり、その双眸は目前に映し出されている者を凝視していた。
「そこな少女騎士よ。残る方はお前に任せる。達成の暁には騎士の位を与えよう。命令は以上だ。下がるが良い」
突然の指名に、体を微かに跳ねさせた少女騎士は、少し高くなり始めていた頭を下げる。
「ッ!ははっ!お任せください!」
女王は受諾した少女に、話は終わりだというように頬杖を突く。
中年騎士と少女騎士はその場を後にする。すると、彼らと入れ替わる形で兵士が報告に来た。
「申し上げます!魔女の秘宝奪取に向かった兵が定刻になれども現れず、消息を絶ちました」
頭を垂れ、報告した兵士に女王は失望するでもなく、叱責するでもなく。冷静に対処した。
「…そうか、まあ良い。半分はこちらにあるのだ、奴も時間はもうあるまい」
しかし直後彼女は変貌する、聞く者を魅了する讃美歌がその間に響く。
次第に強まる弾けた喜びの声に、広間は浸食した。
その様は先程までの麗しい女王のものとは違う、幼い少女の笑いのようだった。
「待っててね!戦士の王!私の…、私だけの!王子様!」
女王は待ち焦がれる。力が街を包む時を。力は刻一刻と蓄えられ、終わりは近い。
月光に照らされたその表情は恍惚とした、非常に卑しいものだった。
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