彼方で語らう使徒たちのひと時
芸術都市、とある一室——————————
そこには、上裸の男が一人いた。
「ふむ、実に甘美だ」
ふう、と。
満足げに吐息をひとつ、
「ここも実にいい、神殿を思い出す。なあ、そうは思わぬか、ホラガルレス」
陽光に照らされた髪をかきあげて、手を伸ばす。
すると、どこからともなく何かが飛来したかと思えば、彼の手に収まった。
それは寸尺1メートルはある針のようであり、杭のようである剣であった。
ホラガルレスの刀身や、柄の宝石に、ソラーニャは酒を注ぐ。
酒は床に
「怠惰をそこまで極まれば毒となりますよ、ソラーニャ」
そんな
ソラーニャはそこに目を向けると、ライラックの長髪をなびかせた少女が、腕を組んで彼を見下ろしていた。
注意を受けた彼は、額の指を這わせながら、
「アーセントよ、だからわたしのことはソラと呼べと・・・」
そんな苦言を吐いた。
だが、その苦情にも、少女は聞き入れることなく、話をつづけた。
「それなら成果のひとつでもあげなさい、話をそこからです」
「そう固く考えるでない。ほら、この前も魔女の手から助けてやったではないか」
ソラーニャの発言に、少女は眉を曲げ、頬をむくれさせる。
表情に可愛げのある怒りを滲ませて、
「勘違いはしないように、ハンデを与えたまでです。音を奏でれば私が勝っていました」
「あんなギリギリで人の形を保てた有り様で良く言うものだな」
ソラーニャの追撃に、少女は「とにかく!」と話を逸らした。
「
「
「全く、あなたという人は・・・」
あまりにも堂々と開き直るものだから、少女も討論に意味はなく、勝ち目がないと悟り、呆れと共に扉を開いた。
「さあ、そろそろ動く時です。我らの責務を果たしますよ」
扉の先から吹き抜けた涼風が合図となり、ソラーニャも重い腰を持ち上げた。
一つの伸びをして、彼女の下へと向かう。
「そろそろ蛇の相手も飽きてきたところだ。今度はどこだ?北の鳥か、南の亀、はたまた西の獣か?」
久方ぶりの闘争を前に、興奮を抑えた様子のソラーニャは、わずかな冷笑を浮かべて「それとも・・・」と言葉を続ける。
「託宣のもと、姿を現したという我らが
矢継ぎ早に言葉を並べるソラーニャは、相手の回答を待つ。
まだ答えも出ていないというのに、彼はその父祖を前に、己が武力に心酔する。
「後付けの神性とはいえ、神は神だ。相手にとって不足はない」
その言葉と共に、ホラガルレスを引き寄せて、腰布に引っ掛けた。
そのように意気込んだソラーニャではあったが、どうやら今度の責務は・・・。
「いいえ、あなたが殺した同胞探しです」
ただの人探しであった。
そうして神の手足、〝
◇ ◇ ◇
鉱山都市、何の変哲もない街道—————————
鉱山都市とは、その名の通り、鉱物を支えに発展した都市である。
森を望める南方以外の三方では、取り囲まれる山々が望める。
都市にとっては、あれが資金源であり生命線だ。
しかし、鉱物だけで生活は成り立たない。当然、食も発展している。
鉄火場の騒音を背景に、街道を歩む二人の少女。
肩や小動物のように、ちびちびと数刻前に勝った焼き菓子を口に運ぶ、
「うまいか?プレッタ」
そんな食に
「うん、おいしいよ。ナギちゃん」
聞かれた彼女は、特に感情の読み取れない声音で回答するが、その頬は少し朱色に染まっていた。どうやら、言葉に偽りはないようだ。
「おっと・・・」
紫の少女、その足元が揺れる。
前方不注意、手元の美味に
そんな彼女を、甲冑の少女は抱き留める。
「危ない危ない、気をつけろよ、プレッタ」
紳士のように告げる蒼色の少女であったが、その受け取りては頬を膨らませると、
「もう、過保護すぎだよ。そこまでしなくても転ばなかった。でもありがとう」
「ははっ、手が多い事は悪い事じゃねえよ」
気さくに告げた甲冑少女のナギ、だが紫苑の少女のプレッタは不満が収まらない。
街道を歩む足取りは軽やかではあるが、その口からは自身の理想を表す
「私は普通の女の子でありたいの、こんなお姫様みたいな扱いは窮屈だ」
「悪いな、これも
だが、その望みはナギのわがままによって却下された。
「もう・・・」と告げるプレッタであったが、明確の拒絶の色は、表情には見られなかった。
そんなプレッタに、ナギは手を伸ばす。
「さあ、行こう。私たちの責務に。それが終わった後に、じっくりと普通の暮らしをすればいい」
「・・・・うん」
そうして二人の〝八傑〟である少女たちは、己が使命に向かった。
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