テオス・プレッジ behind the scenes

消えた魔法使い

とある都市の工房、その過去記録————


 初めまして、親愛しんあいなる後継とも、顔も知らぬ君よ。君がこれを読んでいるという事は、私は対応をあやまり、君はその成果を獲得したらしい。


 まずは、御礼を。

 君が私の成果を受け取ってくれたおかげで、私のに意味が生じた。


 さて、さっそくだが本題に入ろう。

 悪いが私は本をたしなむ者でもなければ、詩をうたう者でもないのでね。

 まあ、それほど我らが戦う相手が強大だということでもあるが…。


 君は〝魔女まじょ〟というものをどこまで知っている?


 魔術に長けた女性?

 男をかどわかす魔性の女?

 人々に災厄を巻く現象?

 悪魔と契約し、堕落だらくした魔術師?

 時代に排斥はいせきされた悲劇のお姫様?


 魔術に携わり、その頂きを目指さんとする君には常識であろうが聞いてほしい。

これは重要な事前準備なのだ。

 彼女とこれまで相対してきた我ら二十三のウィッチクラフト、その知識を君に正しく継承していただきたい。

 未だ解明に至らず、探求を始めた我らが数か月、早くとも数日で絶命瞬殺させられた事実をよく吟味してほしい。


 そして、君はこう結論付けるはずだ。〝高次元の魔術を操る災害〟だと。


 人の身、それも単騎で、なんの防護施設も魔術支援も用いず、これまでの侵攻をしのいだ事実が、君をその結論へ至らせるはずだ。


 概ねその思考経路に間違いはない。だがまだ足りない。


 よし、ここで整理しよう。


 まずは誘惑ゆうわくを得意とする魔性ましょう、それは違う。我らに催淫さいいんの類は効かない。他の術式から自己を守るのは初歩であり、最も得手とするのが魔術師だ。人一人の肉体を一つの世界、情報体中心と定め、干渉かんしょう強度を高めた我々には当然のことだ。


 魔と交わる者、それも違う。そうであるならば、教会がそれを捨ておくはずがない。奴らの神秘しんぴが効かなかった。それがなによりの証拠だ。


 そして災厄を巻く現象、時代に排斥された女、それこそ馬鹿げた話だ。だが事実、それが一番近い。

 片方、もしくは両方の融合ゆうごう現象。それが単純な技と力で、矮小なる我らを屠った。

 至極しごく当然で単純な結果だ。〝魔女〟と恐れられる理由にも納得がいく。

 何を言おう、私も彼女と対面するまではそう考えていた。

 結論を言おう……



 



 もっと正確に言えば、元〝魔女〟だ。

 だからもし君が〝魔女〟について調べていたのなら、それは無駄にはならない。


 元を辿れば、〝魔女〟なのだ。感情を無くした人形でもあるまい。

 彼女の精神構造を解明すれば、自ずと糸口も見えてくる。


 もう一度言うが、彼女は元〝魔女〟で、今はそうではなくなったのだ。

 彼女は身一つで我らの知識を超え、神域埒外に至った。

 しかし、この世界は一神教、大神が障害となる存在を許すはずがない。


 ‥‥我らが彼女に苦しめられている現状からわかるだろうが。

 彼女は大神をも屠り、その使徒すらも退けた。

 この世界に彼女に敵う者はもういない。


 君の探求心が風前の灯火であり、今まさに掻き消えようとしているのなら思いとどまってほしい。

 なぜなら、探求の果てはもうすぐなのだ。


 これまで読んできたものは全て、私が生きていた直前までの記憶と記録だ。

 なぜ記録できたかって?

 それはこれが私の存在と引き換えにした代替魔術だからさ。


 ここには私が彼女と交戦した三十二日間の記録が書き込まれ、その特性が記されている。


 それも最高の魔術師である私‥‥‥私‥‥わたし…。


 不味いな、自身の名すら思い出せないとは‥‥ここまでとは想定外だ。

 まあ、辻褄つじつまを合わせているのだから当然か…。


 もしかしたらこれを読んでいる君は私を知っていたのかもしれない。

 悲しいことにもう君は思い出せないのだろうね。


 しかし一縷いちるの望みが出来たからといって、一切の手加減なく挑んでほしい。

 なぜなら彼女は正しく〝高次の存在〟なのだから。

 君が思うほどより、あの〝円環〟は厄介だ。一筋縄ではいかない。


 …君が納得できるのなら、彼女の攻略手段を言おう。

 ただ『待つ』ことだ。あとは君の選択に任せるよ。


 それでは名も失った私から、名も知らぬ君への賛辞は終わる。

 その成功を祈っているよ。



 これ以降は三十二日間の戦闘記録を記載する。

・空を覆う空圧の圧縮による地盤じばん陥没かんぼつ

—————同系統の魔術による空圧の両断。こちらの残存魔力の五割の消費。

・超高度よりの高速落下。接合部からの火炎攻撃。

—————直撃。火炎攻撃による下半身の欠損けっそん。治癒魔術による欠損箇所の修復、残存魔力の五割の消費、魔力枯渇こかつ。自然回復による残存魔力の回復。戦線復帰。

・拘束魔術による肉体干渉—————・・・・・・



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