第3話
準備を開始した。
家族を皆殺しにするための準備をだ。
まず、俺は自分がどういうことができるのかを調べた。
流石暗殺者一家の長男で、身体能力が高かった。
前世では到底できないような行動ができる。
それに加えて、俺は特殊能力を持っていた。
この暗殺者一家は代々闇の精霊との親和性が高い。
闇の精霊は文字通り闇を司る精霊で、そこに闇があれば召喚ができ、多くの能力を行使できる。
そして闇の精霊にも様々あり、契約した精霊によってできる能力が微妙に異なる。
いや、やろうと思えば闇の精霊が行えることはすべてできるのだが、得意不得意があるという感じか。
例えば、洗脳能力に特化した精霊だったり、幻視、幻痛を引き起こすことが得意だったりする精霊もいる。
俺が契約した精霊は万能だ。何でもできる。不得意というものがない。
だが、それぞれの出力が低い。
よく言えばオールラウンダー、悪く言えば器用貧乏というやつだ。
だからそれらの能力を鍛えに鍛えている。
一応親以外は、おそらく正面から戦っても有利に戦えるだろう。
暗殺方法も考えた。
非常にシンプルな手段だ。だがこれが一番効果的だと判断した。
そのための準備も進めている。時間がかかるがいずれ出来るだろう。
他には準備としては、他に仕える人材がいないかどうかを調べた。一人で戦うよりも二人三人の方が勝率は高い。
だが、正直厳しそうだ。
皆、誰が裏切っても仕方ないという状況がずっと続いている為に、誰もが人を信用していない。
それでもあきらめずに探し出した。
頑張って人柄や能力を調べて配下にした。
平民から選んだ男。
奴隷から選んだ少女。
亜人から選んだ女性。
改造人間にされた少年。
皆、よい心を持った配下だった。彼らと共にならいい街も作れたかもしれない。
結果として無駄ではあった。
皆死んだ。
配下にして二三日で暗殺された。
暗殺した人物も分かっている。
だが、手を出せなかった。なぜなら殺したのは家族だったからだ。
俺の行動不振事件以来、家族は俺に対して手を出してきている。
手を出すことにし大して躊躇がなくなっている。
暗殺は攻撃する側に比べてされる側の方が不利だ。
ずっと俺のそばに置けばいいのだろうが、それでは配下にした意味がない。
配下を持つのは彼らを、いや全てを片付けてからだ。
家族に手を出す必要があるのかとも考えた。
殺害以外にも、説得、改心、支配なんかも手段もある。
俺の配下を殺したやつは論外だが、そうでないものはどうだ。
殺さなくてもいいんじゃないか? 平和的解決手段があるんじゃないか?
俺はそう思っていた。
だが、他の奴も調べれば調べるほどの殺すべきという判断になった。
彼らは別に俺の配下を殺さなかったわけじゃない。
たまたま暗殺をしていなかったというだけだ。
家族の配下は一日一悪を行っているが、俺の家族は一日一殺だ。
日ごろからハンティングと称して平民たちを殺している。
殺し方も様々。
絞殺、刺殺、溺殺、焼殺、撲殺、呪殺、斬殺、惨殺。
他にも幼馴染同士で殺し合わせたり、自身の赤子を食べさせた後に殺したりなど様々だ。
反吐が出る。
そして親は親でそれを推奨していた。
殺しの技術が上がるならなんだっていいと考えるようだった。
今日の殺しを報告する兄弟姉妹達。そしてそれをほめる親。
食事の席でよくある光景だった。
吐き気はすでにしなくなった。
こいつらは救いようのないくずだ。
そして生かしておいては必ず後から面倒になる。
生き残るためにこいつらを殺さないといけない。
時間もあまりないだろう。やるなら早いうちにしなければならない。
時がたつほどに彼らの妨害活動がひどくなっている。一度は取り繕ったが、俺の様子がおかしいことにはすでに気づいている。
妹弟たちの実力も着々と上がってきている。今ならまだ正面からでも勝てるが、ゆくゆくは厳しい戦いになるだろう。
少なくとも数年も待つなんてことはできない。
決行までの時間は短い。
そして一年後、すべての準備が整った。
暗殺の時間だ。
この暗殺一家は一年に一度、冬のある日に家族全員を連れていく場所がある。
向かう先は『黒闇牢』と呼ばれる巨大な森だ。
日中でも闇に包まれ、魔物や盗賊も寄せ付けない。
たまに入っていくものは全て文字通り闇に消えていく。
通れるのは俺の実家、暗殺者一家だけ。中には仕えるものも入れない。
俺たち一家はその中に入っていき、そしてその中心地にある『虚の聖樹』へと向かう。
この『虚の聖樹』には嘘か本当か、闇の大精霊が住んでいるといわれている。
訪れて儀式を行うのだ。
儀式といっても挨拶をしていくというだけだ。大したことはしてない。
ちなみに闇の大精霊には会えない。
ここ数百年は出現していないといわれている。本当にいるのだろうか?
そう思いながら儀式を進めていると何かが触れた感触があった。
?
何だろう?
分からない。
俺が契約している闇の精霊に尋ねても何も答えなかった。
まぁいい。気のせいだろう。
帰り道。
時刻は夕暮れ時。
黒闇牢から悪徳の街をつなぐ道にある長大な大河にかかる橋。
その橋を渡る数台の馬車。
その大橋が唐突に爆発した。
崩れ落ちていく橋、続いて落ちる馬車の列。
馬車はすぐに大河に飲まれてそして消えていった。
中に入っていたあのバケモノ共も一緒に。
「やった」
やってやった。
殺してやったぞ。
様々な準備をしたが一段階目で殺せた。
俺が勝利宣言をしたと同時に、そいつは川の中から飛び出してきた。
「そうか。お前もついに覚悟を決めたか」
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