第3話 旧市街地へ
「結局、深山さんは守護樹については何も知らなかったな」
ガクが残念そうにため息を付いている。
依頼内容の確認後に、守護樹についてガクがさりげなく話題を振って探り出そうとしていたのだ。だけど、深山は一般的に知られている知識しか持っていなかった。
ガクは気落ちしているようだが、アオはそうでもなかったりする。だって、守護樹ってすごい存在なのだから、簡単に新たな情報などつかめるはずがないと思っているのだ。まぁ口には出さないけれど。
それを言ってしまうと、ガクが拗ねてしまい面倒くさいのだ。なまじ頭がいいだけに、行動に対して結果が伴わないとイライラするんだと思う。アオとしては、続けて行くこと、諦めないことが重要だって言いたい。だって、美優がそう言っていたから。
害緑対策ネットの外に出て、二人は目的地である樹齢五百年のイチョウを目指して歩いていた。また太陽が高い位置にあるので、汗がにじみ出てくる。
アオはいつアレチウリのような外来種の攻撃が来てもいいように、木刀を握ったままあたりを見渡す。
「いやに静かだな。虫の音さえも聞こえない」
ガクがつぶやく。
確かに、と思った瞬間、アオは足を止めた。
――ささやくような音? まるで葉をこすって会話でもしているような。
「ガク、あっちの道を行こう。近道な気がする」
数メートル先には砂利の脇道が見えていた。
目的地にはこの二車線のアスファルトで舗装された幹線道路を辿ればつくが、方向的にかなり回り道である。
「はぁ? 嫌だよ。アオの直感って当たり外れが激しいじゃん」
ガクはあからさまに眉間にしわを寄せるが、知ったことではない。こっちの方に何かいいことがある気がするのだ。呼ばれているような、なんて表現すればいいのか分からないけれど。
アオにはこういう『何となく』という直感が降ってくるときがある。ガク曰く『アオにはかつての守護樹の加護が残ってるんじゃないか』だそうだ。そんな大層なものではないと思うが。
「直感に当たりも外れもないだろ。直感があるときは必ず何かそう知らしめるだけのものがあるんだから」
「そうだけどさ。昨日はその直感のせいで酷い目にあったの忘れたのか?」
実は昨日も何かあると直感が働いて、何に対してなのか理由を探していたらクサノオウが自生していたのだ。でもこの草は毒を持っているうえ、見た目がヨモギに似ているため、気にせず手で払ったらちぎれた葉から汁が付いてかぶれたのだ。毒素が強まっていたようで、触れた瞬間から赤くかぶれ痒み出した。それに大騒ぎしていたら、休止していたアレチウリが起きてしまい、退治するのに死ぬほど苦労したのだ。
「確かに酷い目にあったけど、あれは毒草のクサノオウがあるって教えてくれてたんだと思うんだ」
「だからだよ! 危険を知らせるパターンだったら、この道を行ったら昨日より大変かもしれない」
ガクが砂利道を指し、絶対に行かないと首を振る。
「大丈夫。昨日は危険を知らせるパターンだったんだから、今日はきっと良いパターンの番だ。それに俺の直感も、何か良いことありそうな感じだし」
「本当かよ。なんで自信満々で言い切れるわけ?」
「それも直感だな!」
堂々と言い切れば、ガクは負けたとばかりに肩を落とした。
「くっ……分かった。まぁ、幹線道路が回り道なのは確かだしな」
「よし。じゃあ、砂利道を進むに決定だな」
満足げにアオは頷いたのだった。
***
「アオの馬鹿野郎! 何か今日は良いパターンだ、最悪のパターンの間違いだろ!!」
「うっせ、今話しかけんな。集中が切れたら終わる。黙ってろ!」
アオは必死に木刀で襲い来る雑草をたたき伏せていた。ガクも携帯型の警棒を延ばし、アオと背中合わせの状態で奮闘している。
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