ある意味似た者同士な自分たち

 関東にある某研究学園都市の尾大学大学院で博士号を取ってから約N年間、ずっと東京でお仕事をしてきました。時折、昔の仲間と一緒に過ごしたいという思いが何度か頭をかすめましたが、いかんせんITエンジニアにとっては東京という土地は高い家賃というデメリットがあっても魅力的な土地でした。


 技術者仲間が東京に一極集中できるので交流できること。転職先が豊富にあること。そして、新しい技術を追うにしても新技術を追いかける勉強会がもっとも盛んなのは東京。もちろん、関西、特に京都や大阪にもIT企業はあるのですが、魅力的な転職先はかなり限られることから踏み切れませんでした。


 それが変わったのは皮肉にも2020年初頭からのコロナ禍。元々、週2回のリモート勤務がOKの職場でしたから完全テレワークへの移行も早いもので同年3月には実質出社禁止になりました。


 それ以後、完全テレワークになったわけですが、ふと思ったのです。あれ?もう東京にいる意味ってあんまりなくない?と。コロナ禍で会場に集まってのイベントは基本的に自粛ですから、技術者仲間と気軽に会うわけにはいかなくなりました。また、IT系職種は元々テレワークに適していたこともあって、転職候補となる会社もあいついで完全テレワークに移行。残ったのは高い家賃だけ。


 なら、京都に戻ってくれば家賃はかなり節約できる。それに、京都に戻れば、当時は兵庫にいたかなもり君や大阪にいるまゆこちゃんたちと気軽に遊ぶことができるかもしれないという思いがありました。というわけで、上司に「完全テレワークで東京にいる意味があまりなくなりましたし、京都に引っ越したいんですが……」と相談してみたところ、割と簡単にオッケーが出ました。オフィシャルに遠方への転居がOKとなるのはその数カ月後でしたが、割と勤め先はその辺が柔軟なので「遠方への転居については制度が整うまでは公言しないでください」という条件の元、無事に京都へ戻ってくることができたのでした。


 そんなわけで実は関西に戻ってきたのは、二人とまた一緒に遊びたいという単純な思いが30%くらい(割と大きい)あったりしたのですが、実際、特にかなもり君とは今年の一月から、Scratch


 https://scratch.mit.edu/


のプログラミングを教えるというのを口実に、毎月一回あって酒盛りをしながら色々なことを語ったものでした。


 さらに、夏にはかなもり君一家に我が家、それと彼の友達を交えて富士山登山&キャンプに行く予定でかなり楽しみにしていました。それが急遽変わったのが七月に入ってからのこと。上司から急遽転勤を言い渡されたのだと。しかも、転勤は八月中だから、富士山キャンプも無理になった。本当に済まないと謝ってきたのでした。


 この時の彼は珍しく、文面にすらかなり疲れた感じが漂っていたので、私の方から電話をかけて「急な転勤やけど、大丈夫か?」などと聞いたものでした。ともあれ、こうして彼は急いで博多へ引っ越しをする羽目になったわけですが「最後に一回、プログラミング教えてもらってケリつけようや」と言っていたのが少し気がかりでした。ぶっちゃけ、一ヶ月間で子ども含めた家族揃っての転勤というのはかなり無茶ぶりもいいところ。さらに、私と会う時間を作るとか無理し過ぎじゃないのか?と。


 結局、やはりというべきか、時間を作ることは無理になったのですが、代わりにというか「面倒やから観光で真一も来るか?」と誘ってきたのでした。素直に「転勤前に色々話でもしようや」とでもいいところをこういう口実をつけるところが本当に彼らしいなと思ったのですが、私としてもまとまった話をするいい機会。二つ返事で福岡に行くことになったのでした。なお、うちの嫁さんにも打診したものの、車にも電車にも弱い彼女としては長時間の新幹線移動はちょっときついらしく連れてくるのは断念。


 この辺りの経緯は近況ノートにも書いた通りです。


https://kakuyomu.jp/users/kuno1234/news/16817139557164986534

https://kakuyomu.jp/users/kuno1234/news/16817139557333144835

 

 てなわけで、重複する話はおいといて、当日に合流するときのLINEのやり取りが私達「らしい」なと思ったので、ちょっと書き残しておこうと思ったのでした。


 博多行き当日は土曜日。私は午前中は副業でのプログラミング講義が正午まであるので、それから出発。彼は彼で朝早く目が覚めてどうにも寝られなかったということで、13:46京都発のぞみ号に私が乗って、新大阪で彼が14:02に合流ということに決定。


 しかも指定席でなしに自由席でと彼が言い出すものだから、なかなかハードモードだなあと内心思いながらのスタート。


 その前後のやり取りがこんな感じです。


久【京都駅到着】午後1:36

か【自由席?】午後1:42

か【俺も新大阪着!】午後 1:43


 彼が時間通りに新大阪に来られるかが懸念だったのですが、この時点でまず最初のハードルはクリア。


久【うん】

久【乙ー。3号車16-A席にいる。ちな、B、Cは今のとこ空席】午後 1:47


 B、Cが空席はつまり彼の家族のことを考えてのことでした。でもって、


か【3号車了解!

  隣席確保キボンヌ!】午後 1:48


 実にタイムリーな無茶振りオーダー。内心、そういう話なら指定席にしとけば……と思ったものの、言っても仕方がない。マナー的には微妙だけど、京都→新大阪は幸い、間に停車駅なし。途中で座る人もいなかろうということで周辺が空いていることを確認しつつ席取り。


 彼は一時期、某匿名掲示板にハマっていたクチらしく、たまにこういうネットスラングを使ってきます。


久【すまん。1号車に移動(一列あいてたんで)。1号車2-D, E確保済みー!】午後 1:52

久【今のところ同列A,B,Cも空いてるんで運良ければ嫁さんも同列でいけるかも】 午後 1:52


 タイムスタンプを見ればわかるのですが、やり取りがほぼ分単位です。何故なら行き先は博多。新幹線でも3時間以上の移動になりますから、良い席が取れるかどうかは旅程の快適さを左右する死活問題。


 さらに、酒盛りでもしながらというのが暗黙の前提になっていたので、隣同士の席を確保する必要があったのでした。


 でもって、ここに来てようやく


か【よめは先に福岡行ったから俺だけやわ。気遣いTHANKS】午後1:56


 「先に言っとけやー!」と内心突っ込みたい気持ちでいっぱいでしたが、まあ彼が単に伝え忘れただけなのも理解してるし、わざわざ「気遣いTHANKS」とまで言われては突っ込む気も失せたので、さっさと気持ちを切り替えることに。


久【なるほど了解】 午後1:56

か【ちなみに何をどれくらい持ち込んでる?】

か【売店でビール物色中】午後1:56


 予想通りビールを持ち込むつもりだったかなもり君。長年の付き合いでどうせビール持って来るだろうと予測した私は事前に京都の酒屋で酒のつまみ一通り+自分用のハイボールを持参。


 無事、14:02新大阪発の新幹線で私たちは合流して乾杯をしたのでした。なお、「最後に一回、プログラミングを教えてもらう」という発言、彼としては半分くらい

本気だったらしく、新幹線にはノートPCを持ち込んでいたのでした。結局、乾杯をした後は疲れ切って博多まで彼が寝続けたために、叶うことはありませんでしたが。


 振り返ると「タイムアタックか!」と思うような合流劇でしたが、実は案外楽しんでた自分もいます。まさに時間ギリギリで素早いやり取りが必要な状況下ってのがちょっと燃えるのですよね。こういう無茶というかある意味で大人としてはアホなやりとりは大学以降の友達でもこの歳ではなかなか出来ないもの。彼もこういう非日常の冒険的なものに燃える節がありますし、似たもの同士と言えるのかもしれません。


 なお、泊まった先のホテルという名の民泊はロフトがある実質二階ある部屋だったのですが、先行して宿について私たちはロフトを見て二人して


久「なんていうか秘密基地みたいでええよな」

か「そうそう。こういうのはロマンよ」


 などと言い合っていたのでした。ちなみに、近況ノートにも書いたのですが何故か彼の嫁さんのお守りをする場面があったり、彼ら一家が新居の下見をしている間に太宰府に観光をして、でもってヨドバシで合流して家財道具の買い物が終わるまで待ったりなどしていました。


 「普通に仲の良い友達」なら、気を遣って「こっちの用事に付き合わせるのも悪いし」と言ってくると思うのですが、あえて付き合わせることにお互い何も言わないけどOKだと思ってる辺りが、自分と彼の距離感なのかもしれません。


 お互いの親を知っていて、幼少期には近い環境で育った故に、家族に近い感覚がお互い社会人になってもどこか残っているとでも言いましょうか。


 そういう意味で、フィクションにおいて幼馴染同士の関係で言われる「家族のような」というのはあながち現実でも間違っていないのですが、むしろ「家族でない」分、自分たちが継続して関係性を作ってきたという思いがあるゆえか、家族よりもある意味では仲が良い、のかもしれません。

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