君と自転車二人乗り……にならなかったお話

 時は二年程前。まだまだコロナ禍が続いていたものの、ピークが一段落して国内旅行に行けるようになった頃です。その時私はまだ東京にいましたが「ちょっと久しぶりにあいつらに会いに行くか」てことで、大阪で飲み会を設定することに決定。


 育った小学校まで10分もしない所にある韓国料理屋で三人で酒を飲みながら、思いつくままに色々なことを語らった夜でしたが、まゆこちゃんがふと


「せっかくやし、うちの馴染みのバーに行かへん?」


 と一言。勢いのままにバーのマスターに電話をかけたかと思うと、


「閉店まであと15分やって。急げ急げ―」


 と自慢の電動チャリを漕いで急速前進。あとの私達二人は徒歩。先を走る彼女に追いすがる男二人。そんなわけのわからない構図でしたが、リモートワークで運動不足だった私が一早く脱落。


 チャリを降りてタオルを渡してくれたまゆこちゃんに感謝しつつ(いや、全力ダッシュさせたのも彼女本人なのですが)汗を拭いていると、


「真一、しんどそうやん。自転車、一緒に乗る?」


 と一言。正直なところ、


(は?)


 と思いました。いくら幼馴染……小学校の頃からの仲とはいえ、三人とも家庭を持っています。つまり、私には嫁さんが、彼女には旦那さんがいるわけで。しかも、かなもり君も一緒にいるのです。


 つーか、それ以前に道路交通法違反というツッコミを内心でしそうになりましたが、それはさておき、荷台に横に座るスタイルにせよ(といっても形状的にこっちは無理っぽかった)、後ろから抱きつくスタイルにせよ、三十後半のいい大人がするもんじゃねえぞとも思いますし、旦那さんが知ったら一体どう思うんだろうかとか色々考えが浮かびました。


 結論として、


「気にせんでええって」

「遠慮せんでもええのに」

「大丈夫やから」

「それやったら、もう少しゆっくり行くから」


 と問答をした上で妥協案が成立。先程より少しゆっくりめに自転車で走る彼女と後ろからの男二人。


 そんな絵図になったわけですが、もし彼女の申し出を受け入れていれば、夜の大阪にチャリ二人乗りの三十代男女一組+一名という、謎の構図が出来ていたでしょうね。


 まゆこちゃんと旦那さんの私生活についてはあんまり知らないのですが、その一端について後日知る機会がありました。相談ごとで彼女に電話したあとのこと。


「まゆこちゃんとこは旦那さんとどーしてるん?」

「ウチんとこは全く喧嘩しとらんよ」

「へー。そりゃ仲ええね」

「あんまりムカついたんで、一喝したことはあったけどね。そしたら旦那はすぐ謝って来たわ」


 というご返事でした。想像ですが、家庭内ヒエラルキーは、まゆこちゃん>旦那さんなんでしょうね。にしても、それは喧嘩をしてないというのではなくて、嫁が一度キレたらまずいから平謝り戦術を行使しただけなのではとツッコミたくなりました。


 実際、普段は滅多に怒らない彼女を私が一度だけマジギレさせたことがあったのですが、それは滅茶苦茶怖かったですから。なお、彼女をマジギレさせた私達の喧嘩について旦那さんと娘さんがいる席で愚痴ってたそうで、「旦那と娘は苦笑いしてたわ」とか言ってましたが、苦笑いしてたのはきっと別の理由もあるだろうな、旦那さんって感じでした。


 自転車の件でもわかる通り、ちょっとズレてるところがある彼女なのでした。

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