第14話 女剣士と魔剣士

「弱いと思ってたゴブリンが、数集まると意外と厄介だった! そんなご経験ありますよね!」


 現状に則した冒険者あるあるを叫び、冒険者たちに武器を借り、武器がへたるとベルンさんの剣で敵を殲滅し、プレゼンする。


 最初の実演販売でコツを掴んだので、次からはスムーズだった。


 まず『営業咆哮セールスシャウト』で自分をブーストし、冒険者たちの仕事場に乱入しつつ、敵を斬りまくって剣の良さをアピール。


 最初の実演販売を含め、計三カ所で同じように繰り返した。


 ⋯⋯しかし、地道な作業だな、コレ。


 まあ、今は種を植える期間。

 焦って結果を求めてもね。


 ⋯⋯まあ、この種蒔きに二週間経っちゃったから、もうクビまで一週間しかないのだが。



 確か最後の依頼も盗賊退治だったはず。

 後回しにしちゃったから、殺されたりしてないよなあ⋯⋯と思いつつ現場に向かった。











「おっ、間に合ったか」


 盗賊団のアジトらしき廃屋の前で、八人の男とひとりの女冒険者が対峙している。


 っていうか、あれは⋯⋯。

 女冒険者は見知った顔だった。


 盗賊のひとりが、下卑た表情で言った。


「へっへっ、お嬢ちゃん。俺たちが天国を見せてやるからおとなしくしろよ。女に剣なんて似合わねぇぜ?」


「そうそう、抵抗しねぇなら優しくしてやるからよお?」


 うーん。

 俺の中の『これぞクズ!』という盗賊像を、忠実に守るかのような発言。


 それに対して彼女が言った。


「下郎が。矯正できぬほど腐りきった心根、薄汚いおまえ等の×××ごと切り刻んでやる」


 想像しただけで『ひゅん』ってなる言葉だ。

 彼女の言葉に、盗賊たちは笑い声を上げた。


「へっへっへ、俺は威勢がいい女が『ごめんなさい、ごめんなさい』って謝るのを見るのが好きだからなぁ、楽しみだぜぇ!」


「まーったく、この変態が。ま、俺も好きだけどよお。だから殺すなよぉ!?」


 盗賊の集団から、三人程が彼女を押さえ込もうと飛びかかった。


 ──刹那。


 彼女の剣が煌めき、飛びかかった盗賊たちの首が三つ飛んだ。


 そして、俺は見逃さなかった。

 ──それぞれの股間あたりも、ついでに切り刻まれていたことを。

 そんなこと、有言実行しなくても⋯⋯相変わらず融通が利かないな、彼女は。


 彼女なら、こんな盗賊なんかに遅れを取ることはないだろう。

 ここは出番がなさそうだ。

 あと、会いたくないし。

 

 一息で三人の仲間を失い、先ほどまでの表情を一変させる盗賊たち。


「な、なんだとぉ!」


「コイツむちゃくちゃ強えぇ!」


 一目でわかる彼女の太刀筋の凄さに、盗賊たちの腰が引ける。


 彼女は凄惨かつ嗜虐しぎゃく的な笑みを浮かべながら⋯⋯。


「さあ、次に×××を失いたいのは、誰? ついでに首も斬ってあげるわ」


 と言いながら歩を進めた。


 彼女の表情と腕前に、盗賊たちが恐慌にみまわれそうになった時⋯⋯。


「うるせぃ、静かにしろぉ!」


 一番後ろにいた、彼らのボスらしき人物が大声で集団を制した。


「こんな時の為に、あの人がいるんだからよぉ、慌てんなって」


「あっ⋯⋯」


「そ、そうっすよね」


「へへ、高い金払ってきた甲斐があるってもんよ。先生、先生ー!」


 盗賊のボスがアジトへと大声で呼び掛けると、浅黒い肌をした男が出てきた。


 片手に剣、片手に酒瓶を持ち、酒をあおりながら現れた男が、盗賊のボスに話しかける。


「俺を呼ぶほどの相手なのか?」


「へへ、なかなかの腕前みたいで、アッシらにゃあ、ちと荷が勝ちまして⋯⋯先生なら余裕ですよ」


「ふん⋯⋯」


 盗賊の追従に、特に興味なさげに答えると、男は虚ろな目を女冒険者へと向けた。



 なんで、奴がこんなところに?

 俺はその男にも見覚えがあった。


 魔族剣士ファルガン。

 長命の魔族種であり、二百年無敗を誇った──生きる伝説。

 





 

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