第13話 白竜の輝鱗

 ファントムのそっくりさんと名乗る人物は、突然現れ、冒険者としての心構えを語り、突然去った。


 彼が去ったあとも、その余韻でしばらく黙っていたが⋯⋯やがて『白竜の輝鱗』のリーダー、ハイドンは全員に向けて聞いた。



「⋯⋯どう思った?」


「とんでもなく下手くそな嘘つき、ってカンジ」


 ストレートなレーナの言葉に、ハイドンは苦笑いを浮かべながら


「ああ、俺もそう思う」


 否定することなく、同意を返した。 



「全く⋯⋯『そっくりさん』なんてわかりやすい嘘を、なんでつくんだろうな」


「ね」



 ハイドンは、周囲にまだ残っている盗賊たちの死体を見る。

 どれも見事な断面だ。

 恐らく自分には、生涯到達できない領域。


 ハイドン自身もBランクパーティーを率いる者として、それなりに剣の腕前には自信がある。


 だが、彼が見せた剣術と比較すればまさに児戯に等しい。

 

 当然だろう。


 今見たのは、まさに『現代の伝説』なのだから。


「でもそれより⋯⋯なんでファントムさんは、私たちに、ワザワザ冒険者としての心構えなんて言ってきたのかしら?」


 レーナの質問に、ハイドンは少し考えてから答えた。


「⋯⋯これは、当たって欲しくない予想、というか勘なんだけど」


「⋯⋯その言い出し方、不安だわ。あなたの勘は良く当たるから、特に⋯⋯悪い勘は」


「最近、王都から離れた場所でモンスターの活動が活発化しているって問題⋯⋯」


「よく聞くわね」


「うん、それで⋯⋯一部の人間が言ってる説があるんだ」


「知ってるわ。『魔王復活説』でしょ。まもなく封印された魔王が復活する、モンスターの活発化はその前兆だって。バカバカしい話じゃない」


「ああ。俺もそう思っていた⋯⋯だけど、ファントムさんの今回の行動を考えれば、辻褄があってしまう」


 ハイドンは自分の考えを説明した。


 ファントムがこの一年、一切活動している形跡がないのは、広範囲の調査をしていた為。


 そして、彼は『魔王復活』に関して、決定的な証拠を見つけた。

 

 魔王が復活したとなれば、人類と、魔王率いる魔物との間で激しい戦いが起こる。


 だが、現在冒険者の間では、装備含め魔物との戦闘を軽んじる風潮があり、今一度彼らに危機感を持たせる為、啓蒙活動をしている、という事だ。


「いきなり魔王が復活する、と言えばパニックになる⋯⋯だから、彼は冒険者たちの実力の底上げを考えた。その一番手っ取り早い手段は、良い武器を持つこと、そう考えれば、色々と説明できるんだ」


「⋯⋯そうね。確かに彼がいくら強いっていっても、ひとりで魔王と戦うなんて無理だもんね。過去の御伽噺が本当なら⋯⋯」


「うん、だから今回の事は、魔王復活に備える為の、彼なりの準備⋯⋯冒険者たちに、装備の重要性や心構えを説いて、来るべき日に、共に戦う準備をしている⋯⋯ということさ」


 ハイドンとレーナがそれぞれの考えを話していると、それまで一言も離さなかったもうひとりの前衛がおずおずと会話に入ってきた。


「あ、あの、オラ、思うんだども」


「何だい、ドグーラ」


「あの人、ただ、あの剣さ売りたかったんじゃねぇがって⋯⋯思うんだども」


 ドグーラの言葉に、ハイドンとレーナは顔を見合わせ⋯⋯。


「ぷっ」


 とふたりで同時に吹き出した。


「ああ、ドグーラ。そうかも知れないな。うん、いや、そうだったらいいな」


「もう、ドグーラったら」



 ドグーラのおかけで、深刻な空気が弛緩したのを感じながら、ハイドンは宣言した。


「よし、この話はここまでだ。街に戻って、今回の依頼分の調査を申請しよう」


「ええ」


「それが済んだら⋯⋯俺たちも、できるだけの協力をしよう。命の恩人に⋯⋯ね」

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