第18話 【ブローカー】のお仕事2―後編―

「まずはお互いの目的から話し合っていこうかぁ」


 俺はソファに座って元第弐騎士団長のハイドと話を始める。目の前の机には紅茶とお茶請けが置かれており、対面のソファアにはハイドと踊り子のような服装をした美女が一人座っている。

 では、もう一人はどこへ行ったのか。そのもう一人は、信じられないことに俺と同じソファに座っているのである。


「隣国から輸入されたギルギリという茶葉を水出ししたものです。お口に合うと良いのですが。」


 彼女は俺に紅茶を入れた後、一仕事を終えたかのような雰囲気で俺の横に座ったのである。どうやらハイドは彼女に俺の紅茶入れ係を任命したらしく、横から離れようとしない。……できれば離れてほしい。だって、紅茶を入れるために少し前かがみなった際、真っ白で大きな双丘が視界に入ってしまうんです。少しだけ興奮してしまうのは男の性ってやつでしょ……?



 まあ、今からは完全に仕事だから、感情は殺すことになるし別にいいんだけど。



「私たちの目的は、第四階位精霊持ちの人間を見つけ彼らを保護することです。そのために現在はエリアの各主に定期的な戸籍作成をお願いしています。もちろんそれ相応の謝礼はするつもりではあります。そちらの目的は何でしょうか。」


「俺の目的はぁ、女に囲まれた平穏な生活だなぁ。こんな感じで豪華な部屋で美人な女を抱きながら悠々自適に暮らしたいのさ。となると、この商談は上手くまとまりそうだな。」


「みたいですね。同じ手段を通して両方成立させることは可能なので、商談は成立しそうですね。強いて問題となる点を挙げるなら、第4階位精霊持ちの美人が現れた時くらいでしょうか。」


「そうだなぁ。まあそん時は美人度によるが、基本は譲ってやるよ。無理言ってんのも分かってるしなぁ。」


「そうですか。ちなみに、戸籍の作成はそちらだけで行えますか?もし不安でしたら私たちがやりますが、いかがいたしましょうか?」


「できれば頼みたいなぁ。お前らが俺の手足は殺しちまったから人手が足りねえんだよなあ。」


「それは大変失礼いたしました。ではその代わりと言っては何ですが、戸籍作成の方は我々が行うとしましょう。」


「がははっ!話が分かるじゃねえか【ブローカー】よぉ。あと高い衣服や絵、甲冑、ベッドなんかも仕入れてくれるとありがたいなぁ。なにせ下界の人間は貴族街には入れねえし、かといって俺は指名手配犯のようなもんだから入れねえ。つまり、高い物を買うのが難しいんだよぉ。これもどうにかしてくれるかぁ?」


「分かりました。ただ約束は守ってくださいよ。戸籍作成の際は我々が派遣した人員の指示に従うこと。第四階位精霊持ちがいた場合は我々に譲ること。守ってもらえますか?」


「もちろんだが、美人な四階位は場合に寄るぞぉ?」


「そのことですが、少し考えてもらいたいのですよ。もし私がこの場から立ち去って組織にあなたのことを報告したらどうなると思いますか?国中の捜索が再開されて自由気ままに生きられなくなりますよ?そんな私に、これ以上の譲歩を望むと。そういうことですか?」


「……はああ。なんか上手いこと全部要求が通ってると思ったら。まあいいさ。それくらいはくれてやるよ。美人局にも使える工作員は少ないだろうしなぁ。」


「お気遣い痛み入ります。では早速簡易契約書を作成しましょうか。君、ペンと紙を持ってきてくれるかい?」


 隣にいる女性に紙とペンを持ってこさせ、簡易的な契約書を作成する。記載する内容を簡略化すると以下の4点。


 【ブローカー】の属する組織から派遣される人員により戸籍作成を進めること。その際協力を惜しまず妨害をしないこと。

 下界に第四階位精霊持ちの人間がいた場合、【ブローカー】の属する組織に譲り渡すこと。

 【ブローカー】の属する組織は、ハイドが欲する高級品を買いそれをハイドに買値で売ること。

 【ブローカー】の属する組織は、ハイドに関する情報は組織外に流出させないこと。

 

「【ブローカー】の属する組織、か。なるほどぉ。まあ妥当だな。組織名は書けねえだろうし、能力の高いお前さんなら組織が急に捨てる可能性もなさそうだしなぁ。」


「ご理解していただきありがとうございます。では、ここにサインをお願いします。」


「はいよぉ。……っと、これでいいか?」


「はい。ありがとうございます。ではこちらが控えです。なくさないようにお願いしますね。」


「当たり前だな。……さて、今晩は俺らと飲み明かすかぁ?」


「いえ、組織に報告しなければいけないのでこれで失礼します。……ああそうそう。ハイド、また模擬戦してくれるか?」


 ソファから立って部屋から出る前に、砕けた口調でハイドに話しかける。今は見かけ酔っ払いのじいさんだが、間違いなく俺の師匠とも呼べる人間のうちの一人なのだ。見た目と実力の乖離が甚だしいにもほどがあるが。


「もちろんだぜレイ!俺の“裏白”を習得しているかどうか、確認してやるよぉ!」


「ありがとう。それじゃ、またな。」


「おう。」


 これで今日の仕事は終了。いやあ今日もいい仕事をした。別にだましたわけじゃないし、WinWinの関係だから問題ないよな。

 彼は自由を得て、高級品も得られる。俺は下界の戸籍が作成できて第四階位精霊持ちの人間を手に入れられる。



 ただ、よく考えれば彼の方が大損をしている。


 自由を得たと思っているかもしれないが、それに関しては彼が墓穴を掘っただけである。だって俺、彼がハイドだって気付かなかったし。

 それに、俺が属する組織というのは何も一つじゃない。クロエと組織を作れば、彼女も戸籍作成に関われるのである。これで彼女は高級品を仲買いするだけで、彼女主導で戸籍作成が進められるのである。

 さらに、戸籍作成の際には個々人と会って話すこともできるだろうから、下界更生の際に第5エリアからの引き抜きも可能だ。これを妨害しようとしたら契約違反であるからできないだろう。まあ早くに治安を維持できるようになるのだから感謝してほしいくらいだ。

 最後に俺の属する裏の組織は何のリスクもなく第四階位精霊持ちを手に入れることができる。だって俺がハイドのことを組織に報告する義務はないため、俺が黙っていたら組織は何も知らないままなのである。



 ノーリスクハイリターンとはまさにこのことだ。今日は上出来だ。



 クロエにカッコいい戦闘シーンはあまり見せられなかったけど、満足してもらえたかなあ。




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