第17話 【ブローカー】のお仕事2―中編―
部屋はコンビニ一つ分くらいの大きな部屋で、中には天蓋付きの大きなベッドや作業をするための豪華な机と椅子、くつろぐための大きめのソファ、銀色に輝く甲冑、巨大な絵画など、ここ下界には似合わない高価で豪華なものが所狭しと並んでいた。
そんな部屋の中にいる人間は三人。一人はこの館の主で元騎士である男。そして残りの二人は女性で、踊り子のような煽情的な服装で彼の傍に侍っている。彼らは俺が来たことに気付きつつも、ソファで酒を飲みながらくつろいでいた。
だが元騎士の男だけはすでに青い精霊を『憑依』させており、見た目に反してしっかりと迎撃態勢を整えていることが分かる。
そう、彼は精霊を『憑依』させているのだ。ゆえにうかつには突っ込めなかった。『憑依』は実力を認められた騎士や裏組織の構成員しか教えてもらえない。つまり、『憑依』が使える人間というのは、それすなわち国からのお墨付きを得た強者ということである。
「ああやっと来たかぁ。……様子を見るにあいつらでは物足りなかったと見えるなぁ。」
彼の方から話しかけてくる。少し酔っているのか語尾が伸びて威圧感のかけらもないが、間違いなく強者だ。そもそもこの王都で騎士に選ばれていた経験があるのだからその強さは折り紙付きと言っていいだろう。
「んでぇ、突っ込んでこないところも高評価だなぁ。憑依状態の相手にうかつに突っ込んでもカウンター食らうだけだもんなぁ。はははっ!その年でその観察眼と『憑依』の術を持っているたぁ、小僧、何もんだぁ?」
「……。」
俺は何も答えない。答える義理もないし、答えたところでこういうような場所では不利にしかとられないということを知っているからだ。
「なるほどぉ。小僧、もしかして裏組織ー--に属してないか?」
「……。」
ッ!何でこいつが裏組織の名前まで知っている⁉名前は国家機密レベルの情報だから騎士でも団長クラスの人間しか知らないはずだ。……ということはもしかして、こいつの元の役職は……。
「表情一つ変えないとはさすがだがぁ、かえって確信を持っちまったよ。となれば俺も無傷とはいきそうにないなぁ。」
「……ッ!」
彼はソファから立ち上がる様子はない。だが、彼がそばに置いていた剣を手にした瞬間、おぞましいほどの威圧感が俺を襲った。恐怖への耐性は高い方である俺が、思わず体を硬直させてしまうほどの威圧感。……これは技能も関係しているっぽいな。
「ほう。俺の威圧を耐えるどころか、それほど影響を受けていないと見える。だとしたらそれなりの経験があるということだが、小僧、お前今何歳だ?」
「……。」
「まあ答えてくれんわなぁ。いやしかしこんな肝の座った小僧、俺が7年前に行ったときいたか?……いや、一人いたな。おそろしく目がいい奴。お前もしかして、レイってやつか?」
「……!」
なんでこいつ俺の組織内での名前まで知っている⁉騎士は毎年組織に来るが、来るのは騎士団長の役職を担っている人間くらいだ。この王都には騎士団長が4人いるが、もしかしてやはりこいつは元騎士団長なのか?……だとしたら俺が勝てる相手じゃないぞ。
それより、7年前ということは俺が組織に属してから1年のことだ。あの頃は総合的な戦闘能力はあったが剣術がそれに追いついていなかったため、組織にいる人間に剣術を教え込まれていた時期だ。その時に教えてくれた人間に騎士もいたような気もする。気がするのだが、ほとんど覚えていない。なのに相手は覚えているという。誰だったかな。
「当たりっぽいなぁ。いやあ久しぶりだなぁ!元気してたかぁ!俺の“裏拍”習得してくれたかぁ?」
「……ッ!もしかして、ハイド卿か?」
「おぉ!俺のこと覚えてくれてたかあ!」
第弐騎士団団長。それが彼の当時の肩書である。彼は騎士であるにも関わらず、そして貴族であるにも関わらず、邪道と言ってもいい剣術を好む人間だった。しかしその腕前は他の騎士団長とも引きを取らないもので、国王陛下もこの力を認めて弐番隊の隊長に就任させた。
しかしとある事件をきっかけに彼は3年前に引退。まだまだ現役として働いていけるほどの実力はあったが、周囲の風当たりが強くなってしまったための引退だと聞いている。
彼のその後の行方は誰もつかめていなかったが、まさかここにいるとは。通りで騎士崩れというあいまいな情報しか掴めないわけだ。彼の所属する第弐騎士団は騎士の中でも偵察に特化した斥候のような騎士が多く、彼もまたほぼ暗殺者のようなスタイルで活動していた。ゆえに敵にばれずに行動するというのは息をするようにできるのである。
「あんときの小僧がここまでになるとはなぁ。チビなのは相変わらずのようだがな。」
「一言余計ですよ。で、あなたはどうして下界にいて、第5エリアを支配しているのですか?」
返答によってはこの人を討伐しなければいけない。そうなった場合俺は高確率で死ぬだろう。今の装備ではあの男に致命傷は与えられないし、相手の技能により強制的に硬直させられることも分かっている。ほぼ勝ち目はないだろう。あるとするなら外で待機してもらっているCに不意打ちで高火力爆撃をしてもらうくらいだが、はたしてどれほどダメージを与えられるか。
「返答次第ではって感じが出てるが、俺的にはお前と戦いたくはねえんだよなぁ。というわけでぇ、ここからは話し合いと行こうぜぇ。【ブローカー】さんよぉ。」
最近つけられた俺の異名も知っているということは、情報収集能力の方もまだまだ現役らしい。さすがに今回は一筋縄ではいきそうにないな。
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