第14話 プロポーズ2―Sideクロエ―
「……ふぅ。」
めっっっっちゃドキドキした!!え、何?旦那様ってあんなにカッコよかったの⁉ただかわいいだけかと思ってたのに、あんな真剣な表情でプロポーズのようなことをされたら、女の子なら誰でもくらっと来るでしょ!
はああ、ダメ。私しっかりお姉さんっぽくできていたかしら。興奮しすぎてキャラが壊れていなかったかしら。嫌われてないかしら。はああ失敗したかも。いやでも旦那様の本音を聞けて嬉しかったというか、その。ああやっぱり嬉しかった!それにそれに……
「もしもーし!一人百面相するのはいいですけど、僕を無視しないでくださーい!」
「え、あ、すいません!何かお話がありましたか?」
「……。」
「どうしましたか?」
「……クロエさん。」
「……はい?」
Bと呼ばれていた少女が、普段の明るい表情と声色を急に変え、物凄く真面目な様子で名前を呼んできた。咄嗟には誰に呼ばれたか分からず戸惑ったが、誰が発したか分かったら余計に戸惑った。彼女がそんな雰囲気を醸し出すとは全く思えなかったからである。……何か真剣な話でもあるのかな。
「どうか、兄様を嫌わないでください。そしてどうか、兄様を裏切らないでください。」
「……。」
突然のことでなんて答えたらいいかわからなかった。ただ、彼女が本気でそう言っていることだけは伝わって来た。
「兄様は幼いころから人の醜い部分ばかりを見て育ってきたそうです。嫉妬、妬み、嫌がらせ、逆恨みなんて序の口で、盗み、裏切り、殺人もあたりまえの世界で生きてきたそうです。」
「……。」
「それなのに今ああして笑って普通に暮らしている。これがどれだけ異常なことかあなたには分かりますか?普通なら精神が壊れて、狂っていても自殺していてもおかしくありません。それなのに、兄様は今も気丈に振舞っていらっしゃる。これがどれほど凄いことかあなたには分かりますか?」
「……。」
私は黙って彼女の言葉を聞いていた。旦那様とこれから一生生きていくのなら、その過去については知っておかなければいけないと思ったから。
「私はあなたがどういう人かどんな過去を持っているのか分かりません。それは兄様も同じ程度にしか知らないでしょう。でもなぜか兄様はあなたを信頼している。私たちでさえ少し距離を置かれているのに、あなたは何故か信頼されている。」
「……。」
「その信頼を、決して裏切らないでください。兄様の精神はいつ壊れてもおかしくないくらいに疲弊しているはずです。もし、信頼されている人間に裏切られたら、今度こそ壊れてしまうかもしれません。……だから、もしあなたが兄様を裏切ったときには、私たちがあなたを許しません。考え得るありとあらゆる手段であなたを苦しめたのち、最も凄惨な殺し方で……
あなたを殺します。」
「ッ!」
彼女からその体からは考えられないほどの尋常ではない殺気が放たれる。その威力は普通の人間ならその威圧だけで殺してしまえそうなほどで、私も慣れていなかったらこの場で失禁していただろう。
「ふぅ。この殺気に耐えられるということは、あなたも相応の悲しい過去をたどってきたということでしょう。それならば裏切られることの辛さも身に染みて分かっているはずです。くれぐれも、絶対に、兄様を裏切らないでくださいね。」
「……はい。」
私は殺気が解除されたと同時に膝を地面についてしまう。それほどまでに気を張っていないと本当に危なかったのだ。この殺気から彼女自身にも大変な過去があることが分かる。この場にいる人間は全員何かしらのつらい思い出があるのだろう。そして誰もが他の人を心の支えとしているのだろう。人間というのは社会的な生き物でそうできているらしいから当然のことだ。
私にとって館の皆がそうであるように、彼女にとって旦那様がそれに当たるのだろう。だからこれほどまでに旦那様のことを思っているのだろう。ぽっと出の私が彼の信頼を勝ち取っているのが納得できないはずなのに、それを必死に抑えて彼の気持ちを優先しているのだ。そんなことどれだけ鈍い人でもわかることだろう。
生涯を共にするための覚悟。私にはそれが希薄だったのだ。だから彼女は私に活を入れてくれたのだろう。そんな生半可な気持ちで私の兄様と結婚するなと、敢えて嫌われ役を買って出たのだろう。私はそんな彼女の気持ちに応えなければいけない。そうでないと、旦那様の隣にいる権利なんてないのだから。
「……これまで軽薄な態度でレイさんと接してきて申し訳ありませんでした。しかし、私は彼を妻として生涯支えるつもりでいます。彼が心に傷を負っているというのなら、私が彼に寄り添い癒すことを誓いましょう。そして、彼がこれから自分の心をこれ以上傷つけることがないように、あらゆる害意や悪意から私が守ることを誓いましょう。最後に、まだまだ未熟な私は、彼と並び立てるようになるまで努力を惜しまないことを誓いましょう。これが、私の覚悟です。」
「うん。わかった。……だって、兄様。」
「……え?」
『うぅ。クロエ、本当にありがとう。俺も君と、ぐすっ、生涯一緒にいることを、誓うよ。ああ、これほどに、満ち溢れた日があったかなあ。……今日まで生きてきて、本当に良かったよ。』
脳内に直接旦那様の声が届く。これが彼女の技能なのだろうか。
…………え?……と、ということは、さっきのやつ全部聞かれてたってこと⁉え、本当に⁉は、恥ずかしすぎるぅ……。
「あーあ!奥様が兄様を泣かしたー!兄様が奥様を真っ赤っかにしたー!二人とも、悪いんだ―!」
『「お前(あなた)のせいだろ(でしょ)!!」」
「ひゅー!仲いいねえ二人ともー!あ、兄様S45敵2人来てるよ!」
『分かってるよお!!』
「……え。旦那様はこの会話をしながら戦闘してるのですか?」
「そうだよ!兄様はぐすぐす泣きながら大立ち回りしてるんだよ!あはは面白いね!一緒に見る?」
「え、あ、はい……。」
信じられない。私たちの会話を聞きながら、私たちと会話をしながら、同時に戦闘をこなしていたというの?相手は騎士崩れ擁する強者たちと聞いてたけど、それを圧倒するほどに旦那様は強いということなの?
Bと呼ばれていた彼女の技能により目の前に旦那様が戦闘している光景が映し出される。そこでは彼が2人の鎧男と対峙していた。鎧男は最近王都で流行している銃という珍しい武器を使用して遠距離から攻撃している。……のだが、そのどれもが旦那様に当たらず、弾はすべて旦那様とこの視点の持ち主を避けるかのように通過していく。
(……何が起こっているの?)
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