第15話 精霊と『憑依』

*ほぼ説明回です。興味のない方は読み飛ばしていただいても問題ないと思います。

*ちなみに、ここでの説明は王国での通説ではありますが真実とは限りません。主人公視点で書いているのでこうならざるをえませんでした。

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『ひゅー!仲いいねえ二人ともー!あ、兄様S45敵2人来てるよ!」


「分かってるよお!!』


 南側45度の位置、距離にして50mほど先に敵が二人。全身鎧を着ているが武器は銃という何とも滑稽な格好だ。そんな彼らがこちらに向かって銃口を向けてくる。けど、俺たちには何の問題もなかったりする。




***

 精霊とはどのような存在か。


 これを定義することは難しいが、多くの人は、簡潔にそれでいて、『虚の存在』と定義している。実体を持たないからその反対の『虚』と呼んでいるのである。

 これは技能に関してもそうである。ゆえに技能によって顕現する『大炎海』のような現象もまた、『虚』の存在と定義することができ、それらをこの世界では魔法と呼ばずに『虚法』と呼ぶ。


 また、精霊は数字が小さいほど強い階位とは別に、大きく分けると6種類に分けることができる。基本色と呼ばれる赤色の精霊、青色の精霊、黄色の精霊と、特殊色と呼ばれる紫色の精霊、緑色の精霊、橙色の精霊という6種類である。ちなみに、基本色になる確率がおよそ80%で、特殊色になる確率はおよそ20%だったりする。

 

 では、精霊の色によって何が異なるのか。


 その答えは、発現させることができる技能の種類である。例えば、赤色の精霊は『自身の強化』を司り、一時的に腕力や脚力、視力などをパワーアップさせることができる。青色の精霊は『他者の弱化』を司る。いわゆるデバフというやつである。黄色の精霊は『環境の変質』を司る。いわゆる攻撃魔法がこれに該当し、Cが持っている『火球』の技能なんかがこれに当たる。以下見やすくするとこうなる。


 赤:自身の強化(自身にのみ影響を及ぼす能力、外付け)

 青:他者の弱化(生物にのみ直接影響を及ぼすデバフ能力)

 黄:環境の変質(生物以外を変質させ周囲に影響を及ぼす攻撃的な能力)

 紫:他者の強化(自分以外の生物にのみ影響を及ぼすバフ・回復能力)

 緑:環境の弱化(生物以外を変質させ周囲に影響を及ぼすデバフ能力)

 橙:自身の変質(自身にのみ影響を及ぼす能力、肉体改変)




 次に、俺たちが戦闘態勢になるときに使う『憑依』とは何か。


 『憑依』とは、こちらの世界に顕現させた精霊を自分の体内に取り込む技法のことである。そして『憑依』を使用することで、人間のみで霊力を使用することが可能になる。


 どういうことか。


 通常技能を使用する際、精霊に自身の持つ霊力と、自身が抱く虚法のイメージの二つを精霊に与える必要がある。こうすることで精霊が主の思いを読み取って超常の現象を具現化させるのだ。


 ただ、これにはデメリットが三つ存在する。

 一つ目は、発動までに時間がかかるということだ。発動までに一回伝言ゲームをしなければならないのだからその分の時間がかかってしまうのだ。

 二つ目は、伝言ゲームが上手くいかないことがあるということだ。つまり人間が抱いたイメージ通りに精霊が技能を使用しないことがあるということである。伝言ゲームで最初の人と最後の人の答えが違うということはよくあることだろう。これが虚法を使用する際にも同様に起こるのである。

 三つ目は、霊力が無駄に消費されやすいということである。精霊は支払われた霊力全てを使って主のイメージを具現化する。例えば、MPを50払ってメラをお願いすると、例えMP3で発動できてもMP50を消費して普通のメラを発動する。つまり自分のイメージに見合う霊力の量というのが分からないがゆえに、無駄に霊力を提供しなければいけなかったりするのだ。


 もちろんこのデメリットを打ち消す方法はいくつかある。一番簡単なのはたくさん虚法を使うということだ。伝言ゲームは、赤の他人とやるより身内でやったほうが上手くいくことが多いのと同様だ。精霊と通じた回数が多いほど発動までの時間は短縮され、イメージが正確に具現化される。さらに、同じ虚法を何度も使用していればそのイメージに見合う霊力の適切な量も分かってくるため、無駄な消費を抑えることもできるようになるのである。


 そして『憑依』もまた、デメリットを打ち消す方法の一つなのである。


 『憑依』を使用することで、人間は精霊を取り込むことができる。そうすることで伝言ゲームをする必要がなくなり、発動までの待機時間が一切なくなり、イメージ通り正確に虚法を発現させることができるのである。さらに自動で霊力が消費されるので、適切な量を計算する必要もない。

 これだけ見ると、前述の方法に比べて全てにおいて優れているように見えるがそうではない。異物を体内に取り込むことになるのに、デメリットがないはずがない。


 『憑依』のデメリットは、自分の体の支配権を精霊に強奪されることがあるということだ。

 精霊は『虚』の存在であり、われわれ人間は『実』の存在である。そして『実』と『虚』は両立しえないのは不変の事実である。ゆえに『虚』の力を取り込み己の力にしようと思ったら、それ以上の『実』の力でねじ伏せるしかないのである。ただ、一般的に精霊は人間より種族的に強い。それこそ大人の人間でも生まれたて精霊には及ばない。そのため実力が伴っていない弱者が使用すると、あっという間に体の支配権を精霊に奪われ、霊力がなくなるまで無差別に暴れだしてしまう。

 

 ゆえに『憑依』は技法は国が秘匿しており、一定レベル以上の騎士か裏組織の構成員にしか教えられない。逆に言うと『憑依』を使用できる人間は、国から実力を認められ信用されている人間というわけである。


 ちなみに、どうでもいいことではあるが、この世紀の大発見をしたのは裏組織の創始者だったりする。もう230年前にお亡くなりになった方だが、ずいぶんと立派な方だったようだ。




***

 俺は『反射』技能持ちの赤い精霊を所有しており、『憑依』を使うことができる。


 俺はその恩恵を受けてノータイムで技能を使用し、自分に当たらないように銃弾を逸らしているのである。……まあ、こんなことしなくても一気に距離を詰める方法もあるのだが、今回はクロエにカッコいいところを見せなければいけないのである。いわゆる魅せプというやつだ。



 ……クロエ驚いてくれてるかなあ。



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*霊力量は同種族かつ同い年であれば例外なく同値です。霊力量が1年で1ずつ増えるとするなら、20歳の人は例外なく霊力は20で、5歳の人は例外なく霊力は5です。よく小説である幼い時から修行したら霊力が増えるみたいなことはありません。




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