第11話 構成員の結婚相手―Side上司&アモ―
少し遡って、主人公が膝枕されている間の裏組織の動きを書きました。
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*午後10時、院の地下
「あまりにも遅い。アモ、少し様子を見に行って来てくれるか?」
構成員は時間厳守である。少しの時間の遅れが致命的なミスに繋がるということを誰もが身に染みて知っているからだ。
それなのに、予定の時刻から30分経っているのに知らせの一つもない。【ブローカー】が遅れたことはこれまで一度もない。何でも、『10分前集合はあたりまえ』だそうだ。とてもいい心がけだ。
そんなあいつが今日初めて遅れている。しかも大幅に。今日はあの【下界の女神】との対談だったはず。これは何らかの事件が起きたとみるのが妥当であろう。そう考えた俺は隣で暇をしているアモに様子を見に行かせることにした。
「了解です。30分後には戻ってきます。」
*午後10時20分、院の地下
「お待たせしました。」
アモが予定より10分早くに帰って来た。様子を見るにそれほど緊急な事態にはなっていないらしい。ではなぜ【ブローカー】が連絡を怠ったのかが気になる。
「それで、あいつは何をしていた?」
「んふふ。それが、ブフッ!」
アモは報告をする前に急に笑い始めた。初めは少し隠そうとしていたが、耐えきれなくなったのか今ではげらげら笑っている。
「おい!それで、何があったのだ!!」
「す、すいません。ひーひー。いやー、面白い状況になってまして。あいつが【下界の女神】に頭を撫でられながら幸せそうに膝枕されてたんですよ。あははは。」
「なんとっ!」
仕事において相手に絆されたりするのは非常によくないことだ。こんなことは大人なら誰でもわかる。そしてこのことについては【ブローカー】なら問題ないと思っていた。なぜなら彼は仕事中になると感情が一切なくなるのだ。
ゆえに少し安心してしまった自分もいる。
彼は子どもの時から感情が表に出にくい子だった。見た目は明るい子のように見えるのだが、本当はそうではないのだと話していてふと気付いたのだ。彼は誰にも心を開いていないのに、表面上はそんなことを相手にみじんも感じさせずにこなしているということに気づいてしまったのだ。私が気付いたのは偶々運が良かったのだろう。
私は彼のことが少々不気味に思うと同時に彼のことが心配になり、彼の心が壊れないように細心の注意を払って世話をしていた。むろん組織としてはその方が仕事においては良いことであったので、トップの方々はあまり関わるなと言ってきたが、すべて無視した。
私は彼が心を開くようにと、お母さんのような存在となりうる女性を何人も彼にあてがった。しかし彼は誰にも心を開くことはなかった。色事に溺れてもいいから無理矢理に感情を呼び起こそうと、美人どころにハニートラップも仕掛けさせたが、彼は一切引っ掛からなかった。いや、正確に言うなら引っ掛かりはしたのだがその後心を開くことがなかったのだ。彼女たちを喜ばせるためにやっただけで、別にそこまで興味ないんだぞといった態度だったのだ。
その後その報告を聞いたトップ連中が、何故か彼に色仕掛けを何百回と仕掛けていたようだが、それにも一切興味を持たなかったそうだ。
だから、我々はこう結論付けた。特に仕事中における彼は、『感情を一切持たずにひたすら合理的な判断しかしない人間の形をした道具である』と。ゆえに組織は彼に未成年の時から積極的に仕事を与えた。そして、彼はその全てを完璧にこなした。
だから彼は多くの人から【ブローカー】と呼ばれているのだ。ここ5年ほどにおいて、組織と依頼主の間を取り持つ仕事のほとんどを彼が担当したため、いつの間にか組織の仲介人と呼ばれるようになったのだ。
そんな彼が今女性に幸せそうに膝枕されているだと⁉ありえるのか、そんなこと。
「本当なのか、それは?」
「事実ですよ。あの堅物があんなにも心を許してるなんて、俺も初めは自分の目を疑いましたよ。ですが事実です。非常に気持ちよさそうに寝ていましたよ。」
「……。彼女は、信頼できる人間なのか?」
「それを見極めるためにあいつを行かせたのでしょ?俺に聞いてどうするんですか。」
「いやしかし……」
「分かってますよ。生涯のパートナーとしてってことでしょ?」
「ああ。」
『組織の中で最も問題となっているのはどんな問題でしょう?』と、組織の人間に聞いてみたとしよう。男女比に偏りがある、トップ連中の頭が固い、武器の自社生産ができないなど、いろんなことが挙げられると思うが、その中でも群を抜いて多いのは、『結婚できない』ということであろう。
組織の仕事は絶対秘密である。ゆえに家族にも話せない。自分がどんな職業についているかもわからない人間をパートナーに選べる人間がどれだけいるだろうか。
また、そのパートナーとなる人が敵であることも多い。いわゆるハニートラップだ。だから組織の人間は皆人間不信になり、パートナーを作ろうともしない。
それに、パートナーには相応の格が求められる。なぜなら家族が弱みになってしまってはいけないからだ。構成員のパートナーになるものは、自分の身を守れるだけの能力を持っていなければならないということだ。
そしてこれらの条件を満たしているかどうか、組織の人間が入念にチェックする。そのため、どれだけ深く愛し合っていようと、組織からNOが出れば結婚することはできないのである。
他にも理由はあるが、概ねこういった理由で構成員たちは結婚をすることが非常に難しい。一人が結婚したら、その隊全員でお祝いをするほどだ。それほど珍しく、まためでたいことなのだ。
その点、【下界の女神】はすでに格がある。そして仕事に関しても一定の理解を示してくれるだろうからこの点も問題ない。パートナーにするには最高の相手だろう。
幼いころから仕事をさせられ、感情を常に覆い隠してきた彼が、せっかく心を開きかけているのだ。彼の心の安寧のために、是が非でもパートナーは欲しいところだ。
だがまだハニートラップの可能性を捨てきれない。だからこそ調べなければならないのだ。
「アモ。全力で調査するぞ。」
「もちろんです。可愛い弟分のためですからね。」
*午前7時、院の地下
「あ”あ”あ”あ”あ”。疲れだああ。」
「お疲れ様です、アモ。君のお陰である程度彼女を調べることができたよ。」
「そうか。それで、結果はどっちになったんです?」
「現状は白と断定されたよ。しかし、要観察だそうだ。」
「よし!合格ってことですね!いやあ、ついにあいつにパートナーができたか。俺より先に作るなんて羨ましい奴め。」
「はは。私なんかもう50なのにゲットできていないよ。」
「あー、それはドンマイです。」
「まあ、私の息子同然のあいつが結婚できるんだ。これ以上に嬉しいことはない。」
「ま、そうですね。……それより徹夜で疲れましたよ。もう、あいつが来たときに死ぬまでからかってやらないとやってられないですよ。」
「はは。まあほどほどにするんだよ。」
私も久しぶりの徹夜で疲れたな。……よし、俺もあいつをすこしからかって元気出すとするか。
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