第10話 上司との会話

「なるほど、了解した。……それで、膝枕の件の報告がないが?」


「ブフォッ!」


 組織が本拠地にしている孤児院の地下に行き、早速上司に昨日のことを報告するために上司の部屋を訪れた。で、クロエさんとのあれこれを省いて報告すると、何故か膝枕の件が上司にばれていた。なんで?


「あはははっ!あははははっ!」


 部屋の中は扉の正面に上司が一人座っていて、その両脇に机が並べてあり、二人の補助する人が手を止めることなく作業を進めていた。のだが、そのうちの一人が突然笑い出した。見た目は桃色の髪で青い目をした青年。あのアモ爺の中身である。


「アモ。もしかしてお前、見てたのか?」


「あははは!いやだって、あまりにもお前が出てこねえから心配になったんだよ。だからマスターに扮して部屋を覗いたら、そしたらお前が、いひひひひっ!あはははは!」


 ああああくそっ!何でよりにもよってこいつにばれてんだよ!というか、予定では確認に来るのはお前じゃなくて他の隊員だったろ!何でお前が来てんだよ!いやまあ俺が全面的に悪いのは分かってるんだけど!分かってるけども!


「それを何で上司に報告すんだよっ!別に報告いらなかっただろ!」


「いや、報告は必要だよ。君があの【下界の女神】にいいように扱われているかもしれないからね。偏った見方のまま報告されては、後々判断を間違う可能性が出てくる。ゆえに、その報告を怠った君には罰を与えるよ。」


「うっ。まあはい。今回は完全に私が悪かったと自覚してますので、どうぞなんなりと。」


 ちなみにこの上司、俺の父のような存在である。俺は父と母に実質捨てられ、いろいろあってこの孤児院に入れられた。その時から世話をしてくれているのが彼なのである。だから俺にとっては前世を含めて3人目の父ということである。どっちでもいいが、すごくイケメンな50歳である。


「お嫁さんにするんだったら、結婚前に私に顔見せをしに来なさい。」


「おいこらじじい!お前もふざけてんじゃねえか!というか、お、お嫁さんにするなんて、い、言ってねえだろ!」


「ふむ。アモの報告の通り、どうやら満更でもないようだな。」


「おいアモ!お前なんて報告したんだよ!」


「よしよしされながら気持ちよく太ももの上で寝てました。って報告しただけだけど?んふふ。」


「ッ!そ、その通りだけど、うぅ。と、とにかく、俺はこの計画に参加していいかの許可を取りに来たんだよ!」


 ここに来てからずっといじられてる気がする。……はあ。いやまあ俺が悪いんだけど。にしても、館ってどうやって破壊したらいいんだろ。物理で破壊もできるけど時間かかるしな。うーん。


「ああ、その件だけど、もちろん勝手にしていいよ。その方が君の奥さんの支配力が高まるからね。我々にとっても万歳だ。」


「だーかーら、まだ奥さんじゃないって!」


「……まだ?」


「ち、違う!間違えただけだっ!もう行くからな!いろいろ用意しなきゃいけないし。」


「ああ、ちょっと待って。もうすぐで応援が来るから。」


「応援?」


 俺がその言葉を不思議に思っていると、後ろの扉から二人の少女が入ってくる。一人はオレンジ髪をボブくらいの短さにカットした元気のよさそうな少女。もう一人はオレンジの髪をセミロング程度に伸ばし前髪も目にかかるほどに伸ばした少し根暗そうな少女。


 二人の顔つきは非常によく似ている。それもそのはず。彼女たちは一卵性の双子なんだから。それから、彼女たちはまだ少女であるが、俺より身長は頭一つ分はでかい。……俺って結構低身長なんだよね、この世界では一層。コンプレックスなんだよ。


「そう。彼女たちが今回君のサポートをするメンバーだよ。」


「フウです!」

「ルウです。」

「二人合わせてふるふるです!よろしくお願いしまーす!」


 元気な挨拶をしているフウと名乗った少女が、髪の短い方の少女。丁寧にお辞儀をしているルウと名乗った少女が、髪の長い方の少女。彼女たちは俺の方を見ると、顔をぱあっと明るくさせて近寄ってくる。


「おお!兄様だ!久しぶりだねー!2日ぶりかな?」

「久しぶり兄様。2日ぶり。会いたかったよ。」


「2日は久しぶりってほどでもないけどな。こいつらが俺の作戦に加わってくれるってことでいいのか?」


「そうだよ。彼女ら、特にフウの技能は便利だからね。昨日我々に内緒で女の人と一夜を過ごした悪い子を監視するには、ぴったりの技能だろ?」


 くつくつと笑いながら悪い笑みを浮かべる上司。


 フウの技能は『同調(シンクロ)』。触れた対象と感覚を一定時間同期させる能力。任意に同期や解除をすることも可能なため、非常に便利な能力である。例えば、フウが室内にいても対象が外にいれば、視覚を同期させてお互いが両方の視界を見ることができる。


 そんな技能を持った彼女を俺に付けるということは、監視の意味もあるのだろう。というかそっちがメインなのだろう、実際そう言ってるし。


「え?兄様、私たち以外の女の人と一夜を過ごしたのですか?誰ですか?どんな人ですか?一夜の間に何をしたんですか?いかがわしいこともしたんですか?何でそんなことをしたんですか?私たちじゃ駄目だったんですか?それで満足しましたか?なんなら私たちがその続きをしてあげてもよろしいですがいかがしますか?」


「ちょ、ちょっと待て。」


「兄様。私たちに隠し事をするつもりなんですね。分かりました。事情を知ってそうなアモさんに話を聞くことにします。兄様の初めてを奪った女は許せません。私の『火球』で焼死体にしてやります。」

「私も兄様の彼女さんに興味あります!私たちに内緒でやるとは許せません!アモさんアモさん!私たちに兄様の彼女さんについて教えてください!」


「よしわかった!俺があの時のことを詳しく話してやろう!」


「ああもう!!何でこいつらを呼んだんだよ!」


「ははは。楽しそうで何よりだよ。」


 結局この日は作戦を彼女らに話すことはできたのだが、上司やアモにはずっとニヤニヤした感じで見られ、彼女らには半目でじとっと見つめられながら言葉によって精神的にいじめられるのだった。



 リスクとリターンが見合ってないよ……。




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