第9話 計画立案
「それで、前半の質問が旦那様の質問で、後半の内容が依頼主からの質問ということでよろしかったでしょうか?」
一段落ついて(?)、もう少し詳しい話を聞きたいとクロエさんが言ってきたので昨日の話の続きをすることにした。のだけど。
「ど、どうしてそう思ったんですか?二つに何か差をつけて質問をしたわけではないと思うのですが。」
突然核心をついてきたのでつい取り繕うことも忘れて驚いてしまった。いや、もう取り繕う必要もないというか、手遅れというか、そんな気もするけれども。一応仕事の範囲内なのだからしっかりしなければならないだろう。
「うふふ。私は旦那様のことなら何でも分かるの。」
話を再開したが位置取り的にはクロエさんはまだ俺の隣にいる。そんなクロエさんが俺の目をじっと見つめながら俺のことは何でも分かると言う。このまっすぐな瞳で見つめられると、丸裸にされている感じがして、なんというか、その、少し幸せな気分になる。
だ、だって仕方ないだろ!す、好きな人にまだ誰にも言っていない秘密まで見透かされるって、こう、俺のことわかってもらえてるって感じがして、優越感のような信頼感のような安心感のようなそんな感情が湧いてくるんだよ。
「旦那様の、位階の高い精霊持ちを探し出して手ごまにしたいという依頼主の思いを汲みたいという思いと、旦那様個人が考える下界を立て直したいという考え。この両方を両立させるために、これらの質問をしてきたんですよね?」
「ッ!」
……全部当たってる。依頼主からの依頼は『彼女が信頼できる人間か調べてこい』というものだったが、俺は裏の事情まで調べて依頼主が『位階の高い精霊持ちを探している』という情報を得た。だから、期待以上の成果を挙げようとこの質問をクロエさんに投げかけた。
それと同時に、俺は下界の在り方にも疑問を持っていた。前世の日本という場所の記憶があいまいにではあるが残っている影響だろうか、下界という存在自体に嫌悪感を抱いていたのである。
そしてこの件を利用して、自分の計画も上手く進められるか否か、彼女を通して計ろうとした。
それを、全部見抜かれた。まだ妹たちにすら言っていないのにも関わらずだ。恐ろしい観察眼である。俺のことが何でも分かるというのもあながち間違いではないのかもしれない。
と、そんなことを考えていると、左の手に彼女の右手が重ねられる。
「うふふ。そんなに怖がらないでください。旦那様のことなら何でも分かるというのは、半分くらい嘘ですから。」
「嘘なんですか?」
「正確には、私が分かったのには理由があるということです。それは、旦那様の考えと私の考えが非常に似通っていたから、というものです。私も旦那様も下界を立て直そうと考えています。そして私たちは二人とも非常に合理的な判断をします。ですから、私ならどうするかというのを少し考えれば、それすなわち旦那様の考えになるというわけです。
ですので、この件に関しては旦那様の考えていることは何でも分かります。……けれど、他のことに関しては本当に何も知りません。非常に残念ですけれどね。」
少しだけ悲しそうな笑顔を浮かべながらそんなことを言う。確かに俺も彼女と考えが似ているなとは思った。だが、それだけでここまで的確に言い当てることができるだろうか。やはり、謙遜してはいるが彼女の観察力はずば抜けたものがあるのだろう。
ただまあ、彼女に悲しそうな表情をさせてしまったのは完全に俺のせいだろう。そもそもまだ俺名乗ってもないし。……できる範囲で、自己紹介するか。
「名前は、レイと言います。……もちろん偽名ですが。それから仕事に関しては、仲介人をしています。具体的には言えませんが。年齢は18です。これは本当です。それから魚料理が好きです。えっと、他には……」
「もう大丈夫ですよ。ありがとうございます。私のことを心配してくださったんですね。それでは、私も自己紹介します。名前はクロエと申します。年は19です。甘いものが大好物です。よろしくお願いしますね。」
「え!クロエさんと年一つしか変わらないんですか!?」
これには非常に驚いた。見た目は大人なお姉さんな感じがするため、もう少し大人なのかと思っていたのだ。
「ふふ。私の方が驚きましたよ。まさか成人なさっているとは思ってもいませんでした。結婚はもっと先かと思っていましたが、すぐにでもできそうですね。」
「く、クロエさん⁉け、結婚はまたの機会にお話ししませんか?」
動揺しすぎて早口になってしまった。……結婚はまだ早いよね。うん。
「そうですね。……それではせめて、クロエとお呼びください。」
「く、クロエ、ですか?」
「そうです!あと、敬語もなくしてください。」
「く、クロエ、これでいいか?」
「完璧です!……それでは、話を下界の件に戻しますね。下界の計画は一応私の考えているものがあります。旦那様にはそれを手伝っていただきたいと思っているのですが、まずは聞いていただけますか?」
この後クロエから、彼女がずっと前から考えていた『下界更生計画』を1時間ほど聞かされ、最終的に俺はその考えに賛同するのだった。
俺の役割は第4エリアと第5エリアを支配する男を館ごと破壊すること。
だが、俺単独で動いてしまえば組織に迷惑が掛かってしまう。そう考えた俺は、これらのことを上司に報告することに決めたのだった。
もちろん、クロエとのあれこれは内緒にすることにした。当たり前だよね。
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