第5話 仲間たちと門番さん―Sideクロエ―
「……はあ。いい?ブロード。これは喧嘩じゃなくて話し合いを……」
「そういうことなら私にもお供させてください!力は弱いですが、技能でクロエさんをお助けしますよ!!」
エミリーがフンッという効果音が聞こえてきそうなほど自慢げにそんなことを言う。
(……はあ。あなたもなのね。)
たった今頭痛の種が一つ増えた。
そんなことはさておき。いや、そんなことで済ませてはいけないのかもしれない。側近の二人がこれなんだからもっと重要な問題であるとは思う。思うけど、今はそれどころではないのよ。
「いい二人とも。これは話し合いなの。あなたたちが行っても足手まといになるだけだわ。」
ここは嫌われてもいいからはっきりと言う。彼らは私の頭痛の種だけど、私の貴重な戦力であり仲間だから。彼らを無駄に失うなんてことは絶対に許さない。
「それに、【ブローカー】と話し合いをしている間に、他の人間がこの屋敷に侵入してくることも考えられるの。だから、あなたたちにはこの屋敷を守ってほしい。どう?できる?」
これもまた私の本音である。私がトップに立ってからも下界の闘争は沈静化していない。少しでも油断すれば、途端に寝首をかかれるだろう。だってここは犯罪者まがいの人間が多いんだから。
「そ、そこまで言うなら仕方ありませんね!!私は屋敷の警備をすることにしましょう!ほかならぬクロエさんのお願いですからね!!」
「分かったぜ!姉貴がそこまで言うなら俺がここを守ってやる!なあに心配するこたあねえ。俺は姉貴以外の人間に負けたことねえんだからな!」
ふふっ。単純な子たち。でも、私は君たちのことが大好きよ。今も私が精神的に病むことなく健康に生きられているのは、君たちのお陰。君たちがいなかったら私は今頃絶望のうちに死んでいたかもしれない。
だから。だから私も頑張るわ!せっかく勝ち得たこの平穏を守るために!
「ええお願いね。それじゃあ、明日の準備を始めるとしましょう!」
***
「それではクロエさん!気を付けていってらっしゃいませ!!」
「ええ、行ってくるわ。」
元気いっぱいのエミリーの見送りを受けて家を出る。指定された場所までは一人では行けないから、護衛を6人付けている。まとまりのない彼らだけど、その実力は都にいる騎士以上の者ばかり。
そんな彼らを引き連れて歩いていると下界では誰も襲ってこない。下界という狭い世界であるがゆえに顔見知りが多く、護衛の男たちが自分では到底かなわない相手だと知っているから。私が一人では行けないと言ったのはこれが理由である。
通常であれば、下界を女一人で歩けば、5分後には裸で牢屋の鎖に繋がれていることだろう。私なら技能で何とかできるが、着くまでに無駄な労力を使っていられない。
そして幸い誰にも襲われることなく下界を通り抜け、目的の場所に着くことができた。まあ、今着ているフード付きのローブを外していれば、確実に襲われていたでしょうけど。このローブさまさまね。
「あなた方は私が帰るまでこの辺りで待機していて。それと、この件の報酬は何がいい?」
彼らは私の部下であるが、私に忠誠を誓っているわけではなく、あの悩みの種である男に忠誠を誓っている者たちである。別に報酬を与えなくてもいいが、彼らとこれからも仲良くやっていくためには小さな報酬を与える必要があると個人的には思うのよ。
「お、俺は、ほ、頬にキスを!」
「俺は耳元で好きって言ってほしいっ!」
「俺は5分間1対1で話す時間が欲しいです!」
「お、おでもそれがいい。」
「僕はハグがいい!」
「儂はその綺麗な生足で踏まれたいのお。」
うん。まあ、いつも通りね。
彼らは自分の主に遠慮してよっぽどのことは私に頼んでこない。それに、私が絶対にしてあげないないところの限度が分かっているから、その範囲で自分の欲望をぶつけてくる。
だから私も毎回彼らに頼まれたことをしてあげる。彼らがいないと私も自分の平穏を守ることができないから、持ちつ持たれつなのである。……まあ、最後のだけは少し不愉快になるのだけど。
「いいわ。じゃあ少しの間待っててね。」
そう彼らに言い残して、今度は門番に話しかける。
「こんばんは門番さん。」
「おおすごい別嬪さんじゃあないか。こんな夜遅くにどうしたんだい?」
「私山登りが好きなんです。登り切った後の爽快感が堪らないんですよ。この前は頂上で神秘的な光景を見つけまして、まさに『雲外蒼天の片時雨』という感じで!門番さんも暇なときは山登りしてみてはいかがです?」
「そうか。それはさぞ綺麗な景色だろうなあ。俺も休日にやってみることにするよ。……合格です。中にお入りください。」
最後の方を小声でつぶやき終わった後に、後ろの門の扉を開けてくれる門番さん。
そんな彼に促され扉をくぐると、そこは人が横に4人ぎりぎり通れるくらいの狭めの通路があった。その通路は時折下に向かう階段がある程度で他には明かり以外に何もない。
(ここからはより気を引き締めていかないと!頑張れ!私!)
そうやって自分に無理矢理活を入れて、少し震えている足に鞭打って、気丈にふるまいながら通路を歩くことにした。
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