第4話 【ブローカー】からの手紙―Sideカミラ―
『***』を見たら、「あ、場面変わったんだな。」と思って読み進めてください。
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「カミラさん!!カミラさん!!」
―――ガチャ
「カミラさん大変です!!あの【ブロ……うわっ!ぶへぇ。」
部屋に入って来てすぐに床のへこんだ部分に足を引っかけてしまい顔から床に突っ込んでしまったのは、ここでメイドまがいのことをしているエミリーである。
「はあ。エミリー、そこは床がへこんでいるから気を付けてと何回言ったら……」
「そ、それより、大変なんです!!あの【ブローカー】からお手紙です!もしかしたらもう私たち死ぬのかもしれません!大変です!!緊急事態です!!」
「ッ!あの【ブローカー】から……。」
【ブローカー】。汚れ仕事を専門とする組織に属していて、彼の機嫌を損ねた団体は一夜のうちに壊滅させられると噂される男。しかし、これは過大評価だという噂もある。組織が王家に協力しているとか、その規模は1000人を超えるとか、それゆえ彼単体はそこまで怖い存在ではないのだとか、そんな噂が存在するのである。
だけど、私は【ブローカー】のことを侮っていない。これといった根拠はないが、女の勘というものなのだろうか。
強いて根拠を挙げるなら、後者の噂は前者の噂の後に流れてきたものであるということだろうか。前者の噂が本当であるが、それを批判する者や誇張する者が現れ、次第に真実が遠のいていくといったことはよくある。
どちらにせよ、彼は危険な人物なのは間違いない。
「死んじゃうんです!!私たちは一夜のうちに消えてなくなるんです!!うわああー――ん!!」
「落ち着いてエミリー。彼もきっとそんな理不尽な人ではないはずよ。とりあえず、お手紙を見せてくれるかしら?」
「うぅ。これです。たった2文しか書いてないメモ書きのようなお手紙ですぅ。」
エミリーから手紙を受け取り見てみると、そこには本当にたった2文しか書かれていなかった。
『【下界の女神】へ
明日夜9時に北エリアにある八百屋の左隣の建物を訪ねてほしい。
その際門番とは「雲外蒼天の片時雨」というフレーズを入れて会話をすること。
【ブローカー】より』
「……これだけ?」
「そうですよぅ。うぅ。もう行かなくてもいいんじゃないですかぁ?絶対来てとか書かれてないですし、もう無視しましょうよお。会ったら殺されますよお。」
「だめよ。彼と会わないなんてありえないわ。もし会わなかったら、彼の機嫌を損ねることになる。それだと本当にみんなが一夜のうちに殺されてしまうかもしれないのよ?」
「でもぉ。カミラさん一人で行けば確実に殺されちゃいますよぉ。」
「大丈夫よ。あなたも知っているでしょ?私は男性には特に強いっていうこと。」
私は知能を持つ生物に対してめっぽう強い。そして対象が男ならなおさら強い。なぜなら、私の技能は『思考力低下』だから。対象の思考を少し鈍らせるだけの技能だと思っているが、その効果は絶大。
この技能があるから私の人生があるといっても過言ではない。
だって、これのおかげで、ここ下界に落とされたのだから。
***
この世界で技能というのは身分と同じくらい重要視されるもの。だからある程度高い地位に生まれると、その地位に見合うだけの技能が伴っていない場合簡単にいなかったことにされる。
私は男爵家の次女として生を得た。生まれた時第3階位精霊が同時に生まれたことから多くの人から祝福されたらしい。第3階位といえば、95%の方に入るとはいえ、その中の最上位である。男爵家の次女であれば十分な階位である。
しかし、大きくなって技能が発覚すると周りの人間の態度が変わった。なにせ思考能力の低下である。その技能名を聞いただけで、関わりを持とうと考える人間が減ってしまったのだ。
しかも悪いことに、この技能にそこまでの威力がなかった。具体的に言うと、1分間に問題を30問解ける人間が、1分間で29問しか解けなくなったという程度である。こんなのもはや誤差でしかない。だから、王家に存在するとされる暗部とかにスカウトされることもなかった。
だから捨てられた。周りの貴族から気味悪がられ、誰からも必要とされなかったから。
そして捨てられた場所が下界と呼ばれるスラム街。同じく地位と階位が見合わなかった人間や、食い扶持を減らすために捨てられた人間などが存在する、都の人間が見放しているエリア。
そんなエリアに貴族として手厚く育てられた綺麗な女が突如入れられたらどうなるか。ここからはご想像にお任せする。たくさんの悲惨な目にあったとだけ触れておく。
とにかく、そんなところで5年を過ごした現在。下界の中で1等地と呼ばれる場所の館の主として生きている。どうやって生き延びたのかと言われれば、技能を駆使してと言わざるをえない。
初めに下界を治める男のうちの1人に会った。下劣な笑みを浮かべて私を見ていたから、『私に発情しない男はいないものね。』と強気に煽った。そうすると負けん気の強い男は、私に我慢勝負を挑んできた。そして、私が30分間誘惑して男が誘惑にあらがえなかったら私の勝ちで、このエリアの自治権を私に譲ると言ってきた。
そしてその勝負に勝った。勝因は私の技能。たった1問解けなくするだけの技能は、理性という枷を外すのには物凄く効果的で、貴族時代に学んだ甘い言葉を巧みに使って、相手を洗脳までしてしまった。
***
「話は聞きやしたぜ!姉貴!!」
今部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたこの男がその誘惑に負けた男。そして。
「その喧嘩、俺も加わらせていただきやす!!」
話を一切理解しようとせず短絡的な発想しかできない問題児。
私の現在の悩みの種である。
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