第3話 精霊と美女
彼女に話しかける前に準備をする。
まずは赤い宝石を握ってあいつを呼び出すとしよう。
「
呪文を唱えると赤い宝石が一瞬輝き、空中に赤いスターダストのような光景を描く。数秒の間俺の目の前で赤い微粒子がふわふわ舞っていたが、やがてイタチのような動物の姿を形成していく。召喚されたのは
この世界では生まれてくる人種のすべてが、生まれると同時に1匹の精霊を神様から授けられる、と言われている。
精霊とは超常的な力を有する非実体的な存在である。それだからであろうか、常にこちら側の世界に顕現していることができない。ゆえに彼らは主人が力を欲するとき以外は特殊な宝石の中で眠っているのだ。
では彼らの持つ力とは何か。彼らは特殊な技能を各々が一つだけ持ち、主人である人種にその力を使うことができるようにする存在なのである。
例えば、『火球』。呪文を唱えると術者の目の前に、直進する火の球を産み出す。術者の練度が高くなれば、サイズや数の変更はもちろん、温度や色合い、軌道の変更などアレンジをすることができるようになる。
他にも、『影渡』『熱探知』『透明化』など多様な技能が存在する。
また、精霊には位階というものがある。不定形の光のような存在の精霊が第1階位精霊。動物の姿をした精霊が第2階位精霊。言葉を話せない人型精霊が第3階位精霊。動物型だが人語を話す精霊が第4階位精霊。人型であり人語を話す精霊が第5階位となっている。
階位と技能の強さは比例すると言われている。ゆえに、地位の高い人間は高位の精霊を所有しているか否かで平気で差別してきたりする。
まあそんなことはさておき、今俺の前に浮かんでいるイタチのような精霊が第何階位かというと。
「ごしゅじ~ん!やっとぼくのでばんかな?かな?」
ご覧の通り、いやお聞きの通り、こいつは第4階位精霊である。俺のような平民が所有するにはもったいなすぎるレベルの精霊である。なにせ第3階位精霊以下が出現する確率は、95%を超えるのだから。
ではなぜ極端に第4階位精霊から少なくなるのか。それは第4階位以上の精霊が持つ特殊な力の存在が原因であると言われているのだが、今日はその力は使わない。
「ああ。今日も頼むぞ。」
「まかせておくのだ!」
「じゃあ早速、効果は薄くてもいいから30分ほど技能を反射できるようにしておいてくれるか?」
「わかったのだ!『霊力反射』!」
そうそう。人語を話すことができるということは、こいつ単体で呪文を唱えられるということで、その点でも第4階位以上の精霊は優れているといえる。
「よし。じゃあいつも通り、人前で話さないって約束できるなら、いつもの場所にいていいぞ。」
「わーい!」
そうして貂が上った場所は俺の頭の上。俺が歩き始めた頃くらいから、何故かこいつは俺の頭の上でべちょっとだらしない姿で寝転がっていたらしい。その癖がいまだに治っていないというわけだが、重さを感じるわけでもないので別に気にしていない。
「そろそろ行くとするか。」
赤い宝石でできたような実体のない貂を頭の上に載せながら、赤髪の美女のもとまで向かう。
「失礼いたします。クロエ様でお間違いないでしょうか。」
院で身に付けた執事の振る舞いで、丁寧に確認を取る。まあ本人だということは分かっているのだけど。
「ええそうです。……あなたがかの有名な【ブローカー】さんで、お間違いないでしょうか。」
こちらに体を向けて目線を合わせてくる。彼女の深い藍色の瞳は見惚れるほど大きくかつ綺麗で、こちらの思惑などすべてお見通しであるかのように錯覚させられそうになる。いや、もうすでに俺が【ブローカー】であると見抜かれている。俺の容姿を、彼女が知っているはずがないのに。……まあ彼女に話しかけるのは俺くらいしかいないから当たり前なのだが。
「はい。私がその【ブローカー】で間違いありません。早速ですが、個室を用意してありますのでそちらの方に移動していただけますでしょうか。」
綺麗な瞳はともかく、今現状注意すべきは2点である。
一つ目は彼女もまた精霊を顕現させているということである。精霊は顕現している間しか技能を使用することができない。つまり、顕現させているということは、技能を使える状況にあるということ、もしくは俺同様にすでに技能を使用しているということである。
彼女の顔の傍には青い人型の精霊がふよふよと浮いている。そしてこの精霊は第3階位で、技能は精神干渉系だと調べがついている。だから、この技能を跳ね返す完全反射の技能を事前に使ったのだ。だが、その調べがどこまで本当かわからないため、油断してはならないのである。
二つ目は、うん。二つ目はあまりにも彼女が妖艶だということである。漆黒のドレスを着ているが、胸元は隠されていないし、足の部分も長くスリットが入れられているため、長くて白くてきれいな生足がちらっとのぞくのである。むしろドレスがより彼女を蠱惑的に魅せているといっても過言ではない。ゆえにどぎまぎしてしまうのだ。こっちはまだ18で多感な時期なんだよ。仕方ないだろ!
「わかりました。それでは、エスコートよろしくお願いしますね。」
そう言って彼女は俺に微笑みかける。その表情と声は男を無条件に甘えさせるような母性すら感じさせるもので……って。もしかして精神干渉系って状態異常:魅了みたいなやつなのか⁉だとしたらすでにやばくないか⁉
俺の技能ちゃんと効いてるよな⁉
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