第6話 【ブローカー】との接触―Sideクロエ―
通路を30mほど歩いただろうか。ようやく次の扉を見つける。
―――チリンチリン
扉を開けたときに鳴る鈴の音とともに部屋に入って行く。
(……なに、ここ?)
私は予想していた場所と違い過ぎて、一瞬の油断もしてはいけない場所であるとはわかっていても少しの間困惑してしまった。
(普通会うのって二人きりじゃないの!?なんでこんな大勢の人間がいる賭場で会うの?……もしかして、何か理由があるのかしら。この場にいる全員が組織の人間とか。いえ、それはないわね。見る限り私に見惚れてボーっとしている人間もいる。組織の人間ならそんなへまはしないはず。じゃあいったいどうして。)
「失礼、そこのお嬢さん。」
急に話しかけられて咄嗟に我に返る。そこには白いひげを蓄えた70歳くらいに見える老人がいた。
「え、ああ、申し訳ありません。お邪魔でしたね。」
自分が扉の前で突っ立っていたことに気づき、慌てて離れる。
「いえいえ。それでは。」
老人は扉を開けて帰って行った。
(……ん?もしかして、あれが【ブローカー】?扉を開けて帰らせてあげなかったら試験不合格だったとか?え、だとしたらもしかしてやらしかしてしまったの⁉)
そうして一人であわあわしていると、今度は執事服を着て頭に赤い狸を載せた小さな男性がこちらに向かって歩いてくる。
「失礼いたします。クロエ様でお間違いないでしょうか。」
腰の折り方は執事のそれ。服装も執事のそれ。だけど、若干の違和感がある。昔家にいた時に見た執事とは違う、なんというか醸し出す雰囲気が主を支える者のそれではない感じ。どちらかというと、彼は上に立つ人間の雰囲気をまとっている。
そして、現在精霊を出しているということは、私を警戒してのことだろう。もしかしたら運悪く私対策用の精霊なのかもしれない。それでも、やるしかないことは変わらないのだけど。
「ええそうです。……あなたがかの有名な【ブローカー】さんで、お間違いないでしょうか。」
核心はないが、あたかもこちらも分かっているぞという雰囲気で尋ね返す。上手くいけば心理的に優位に立てるはず。
「はい。私がその【ブローカー】で間違いありません。早速ですが、個室を用意してありますのでそちらの方に移動していただけますでしょうか。」
よし!先の老人が【ブローカー】ではなかったことと、心理的に優位に立てたことに対して、心の中でガッツポーズをとる。
しかし彼に驚いた様子はなく、知っていて当然かのごとく振舞ってくる。さすが仲買人と呼ばれるだけのことはある。交渉してきた場数が私とは違うのだろう。
でも、私には他にも武器があるし、どうやらそちらの方は耐性がないようだ。
「わかりました。それでは、エスコートよろしくお願いしますね。」
彼をまっすぐ見つめながら優しく微笑みかける。すると、彼は恥ずかしそうに視線を横にずらし、私が視界に入らないようにする。
(一夜にして組織を壊滅させる男と聞いていたけど、やっぱり男は男ね。)
私の胸やちらりと見える足を、この短時間の間に4回以上は見ていたことは分かっている。特に多かったのは胸の方。彼は胸の方が好きなのだろう。そして、私の顔を見て目をそらしたということは、少なからず負い目を感じているということだろう。
(となると、話術の方ではなく、女の武器で攻めていく方が良さそうね。目標は低くて好意を向けさせること、高くて篭絡といったところかしら。)
幸い彼の身長は低い。ちょうど私の胸の位置に彼の目があるのだから、目線の誘導と確認は簡単だし、ハグでもしたらぴったり顔をうずめさせることができるだろう。
……でもなんでこんなに小さいのかな。おそらく彼は160㎝ほどしかない。この国の男性の平均身長は190cm程だから、最も小さい部類に入るだろう。もしかして小人族の血でも入ってるのかな?でも、小人族は山から出てこないって聞くし、それはないか。
それに見た目だけで言うなら黒髪もまた珍しい。この辺りの地域は暖色系の髪色が多いはずだから黒はまったくといっていいほどいない。まあ彼の黒の混じった青い瞳とよく似合っているからすごくいい色だとは思うけどね。
というか、よく見てみると顔もかっこいい。目は少し切れ長で人によっては怖く見えるだろうけど、私はむしろ好印象を抱く。男らしいから!それにそれに、小さくてかわいいらしいところも高評価!襲われるより襲う側でいたい人間だからね、私は!
襲ったらどんな顔をしてくれるだろうか。切れ長の目をとろーんとさせて、その小さな体躯で私を抱きしめてくれるのだろうか。くうぅぅ!想像しただけで幸せな気分になって来た!かっこいい!かわいい!私の物にしたい!
……ってあれ。ちょっと待って!!これって、自分の技能が自分に効いてない⁉
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