第34話 始まりと終わりの海

巧と沙織のことは気になっても、目の前の出来事で、隠し事をされたわけでもないから、胸をはって堂々としていたかった。




だから大学にいる間は全く気にしてませんと演技していた。




だからなのか、大学を出た瞬間疲れがどっときた。




巧が迎えにきてくれて、車に乗った瞬間会話もせずに寝てしまった…




「美優、着いたよ。」




「…んッ」




“ザザァン…”




波の音に磯の香りが窓の外から匂ってきた…




「この海…お母さん達とよくきた海…」




美優にとっては両親の思い出しか覚えてない。




巧とこの海で出会い、クリスマスは離婚届を渡した、始まりと終わりの海なのだーー




「巧もこの海好きなの?」




「俺は…」




クリスマス、美優が何時間も暗くて寒い中、缶コーヒーを買い続けながら自分のことを待っていたことを思い出す…




そのことを思い出すと今でも胸が張り裂けそうだった。




「どうしてそんな悲しそうな顔するの?」




巧のブルーの目が寂しそうで今にも泣き出しそうだった。




「美優のほうが泣いてるよ。」




「え?」




美優が自分の頬を指で触れると涙で濡れていた。
















「ここの海大好きなんだけど、でもここの夜の海は何だか切ない….」













巧が美優をギュッと折れそうなぐらい力強く抱きしめてきた。




「ごめん、ごめん…」




何度も泣きそうなか細い声でごめんと謝りながら…




「…」




きっとこの海で何かがあったんだろう…だけどそれさえ覚えていない…




ただ巧がこんなにも謝ってくるぐらいの大きなことが二人の間にあったことは間違いない。




「巧、大丈夫だよ。」




美優が今度は力強く巧の背中にしがみつき抱きしめる。













「私たち、今こうやってココに二人でいるのが答えだよ。」











巧―ー




こうやって海で二人きり




キスを交わしているときは、これからが始まりだって思っていたんだ…




まさかまたこの海で今の二人の関係に終わりがくるなんて




これっぽっちも思っていなかったよ?













あの時と同じように巧から別れを告げられるなんて――










「待って、巧…」




「どうした?」




「…初めてじゃないってわかってるけど、今の私には初めてなのッ…」




ベッドの上で美優の上に覆いかぶさる巧に本音を吐いた。




「怖い…?」




「…少し怖い。」




巧は美優をギュッと抱きしめ、目を見つめる。




「大丈夫。」




“ドキッ…”




うぬぼれかもしれないけど、巧の表情は何か愛おしいものを見ているような表情で、巧の瞳に自分が今映っているのが嬉しくて…




「…きて…」




巧の首に自分の腕を絡めて巧の体を引き寄せた。




「アッ!…ッ…」




久しぶりに巧とひとつになった――




痛みが少しはあったけど




巧の自分を見つめる目が




髪の毛を撫でる手が




首筋にキスしてくる唇が





全部愛おしかった――




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