第32話 初泊まり

「美優のご飯久しぶりだな~」




「なんか緊張するな~」




巧と美優は二人で家に帰り、美優は材料と道具を用意し、お米をとぐ。




「…」




巧は後ろからジッと美優を見ている。




「巧…緊張するからテレビでも見ておいて。」




「イヤだ。」




「巧…危ないッ」




「俺のために料理している姿っていいな…」




巧は後ろからギュッと美優を抱きしめた。




「俺のために料理をしてくれる人いなかったし…」




美優は自分の顔の周りを囲っている巧の腕にそっと触れた――




「美優…」










“ピンポーン”











「あ、はーい。」




美優は巧の腕からすり抜け玄関へ行ってしまった。




「せっかくいい雰囲気だったのに…」




巧はふてくされて、ソファで寝てしまった…




「ごめん、宅配便だった…あれ?」




巧の返事がない。




「スースー」




「え!?もう寝てるの?」




「疲れているんだろうな…」




美優は巧にそっと毛布をかけ、顔を眺める。




(さっきこの唇とキスしたんだよね…)




「もう一回したいなぁ…」




(え!?今自分で恥ずかしいこと言っちゃった?巧が起きているときじゃなくてよかった…)




「さ、ご飯作っておこう。」




美優はご飯の支度に取り掛かった。




「ん…」




「あ、起きた?」




「え!?今何時!?」




「10時だよ~」




「もしかして風呂…」




「うん、今あがったとこ~」




美優はタオルで濡れた髪の毛を拭いていた。




「一緒に入りたかったのに…」




「え?」




「何でもない。やるよ。」




そういって巧は美優が持っていたタオルで髪の毛を拭いてくれた。




「ドライヤーは?」




「ドライヤーやってくれるの?ありがとう…」




“ブオオオォ…”




巧の手は大きくて、温かくて…




もっと力強く引っ張られるかと思いきや優しく触れてきて…




眠ってしまいそうなぐらい気持ちがよかった。





「ドライヤーすっごく上手だね。美容師さんみたい。」




「沙織のずっとしていたからかな。」




「沙織さんってさっきの…」




「施設の頃はずっと長かったから俺が毎日乾かしていたんだ。」




「そうなんだ…」




「はい、終わり。」




「…じゃあご飯食べよう。」




「待っててくれたの?」




「当たり前じゃん!」




二人で仲良くご飯を二人で食べ、お風呂は巧一人で入り(笑)、いざ寝ようとなった時――




(あれ?なんかこれって泊まる流れになってる!?)




美優は今頃泊まる流れになっていることに気づいた。




(一応戸籍上夫婦だし、一緒のベッドに寝るのかな…でもなんか…えーー!)




一人でアタフタしていると当たり前のように巧が布団に入ってきた。




「私、ソファで寝るね。シングルで二人ってきついし…」




美優が立ち上がろうとすると巧は後ろから腕を回し美優が立ち上がれないようにした。




「ダメ。」「夫婦なんだから一緒に寝ようよ。」




「そう…だけどさ…」




「はい、ここ。」




巧は自分の隣を叩いて美優にくるように促した。




“ギシッ…”




美優は無言で巧の隣で横になった。




「…」




「…あのさ。」




「え?」




「何でそっち向くの?」




「…私左向きのほうが寝やすいの。」




「ふ~ん。」




「お休み。」




「お休み…」




美優は巧とは逆の方向を体を向けて目を瞑る。




自分の体には触れられていないが、巧の体温が布団の中で伝わってきた。




(ドキドキ過ぎて寝れない…)




「…」




「…」




「…スゥ…」




「!?」




後ろから巧の寝息が聞こえた。




(もしかして寝たのかな…?)




そっと後ろを振り向くと――




「ワァッ!びっくりした…起きてたの?」




巧はおきていて美優を見つめていた。




「寝たと思っただろ?」




「うん…」




「これでも俳優なんで。」




「騙されたよ~」




巧が美優の頬に手を添えて、親指で唇をなぞった。




“ピクッ…”




自分の体が巧の指によって自然に反応した。




「何でこっち向いたの?」




「何でって…」











「エッチなこと…期待してた?」










「え///」




確かに期待していたのかもしれない。




だけどまだ少し不安で、本当にこれでいいのか疑問もあった。




「ワァッ…」




巧は美優の腕を引っ張り、自分の胸板に美優の頭を乗せた。




“トクトクトクトクトク…”




(この音どこかで…巧の心臓も早い…)




「いいよ、美優がしたくなった時で。待つよ。」




巧の心臓の音に、体温、そっと頭をなでる大きな手…すべてが気持ちがよくて、緊張が溶けて眠くなってしまった。




「…美優?」




「…スゥ…」




「本当は我慢できなくて眠れないなんて言えねぇよ…///」




巧は美優の頭をそのままなで続けた――

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