第31話 初デート

“ピリリリリリッ…”




「あ…もしもし?」




「記者会見見てくれた?」




「うん…大学のカフェテリアで見てた。」




「美優は今日大学なの?」




「うん、だけどもう授業は終わったよ。」




「俺もあと一時間ぐらいで仕事終わるから、三時ぐらいどう?」




「え?」











「初デートしよう。」










「う、うん///」




「じゃあ、三時に○駅で待ち合わせな?」




「三時ね。わかった。」




電話を切ると大学のカフェテリアにいる皆が美優を見ていた。




「え…みんなどうしたの?」




「巧君からなんでしょ~羨ましい!デートするんでしょう~」




「う、うん…でも芸能人とデートてなんか緊張するっていうか…」




「まぁ確かに人だかりとかできそうだよね…」




「どうやってデートするんだろう…前はどうやってしたんだろう…」




「いいじゃん!前なんて関係ないよ!今日が初デートでしょ?ね?」




愛がニコニコと微笑みながら言ってくれた。




「そう…だよね。うん、初デート…どうしよう、服着替えたほうがいいよね?」




美優はジーンズに髪の毛もひとつに結んだだけだった。




「うん、初デートだったらさ、やっぱ可愛くしたほうがいいんじゃない?」




「愛、服コーディネートして~」




「美優の家に帰って、ヘアメイクもしてあげる!!」




二人は初デートの準備をしに家に急いで帰った。




「わぁ、自分じゃないみたい!愛すごいね!!」




「うん!すごく可愛い!」




美優の長い髪の毛を軽く巻き、服装はさくら色のワンピースを着た。




「普段こんな格好しないから、なんか私が緊張しちゃう。」




「巧君だって、いつもと違う美優見てびっくりするよ!すっごい可愛いから自信持って!」




「うん…わかった。ありがとう。」




「三時に待ち合わせでしょ!?じゃあもう出よう。」




「うん!」




美優は電車に乗って巧と待ち合わせの場所へ向かう。




(15分前か…よかった。)




「ねぇ、あれって日向巧じゃない?似てるよね。」




「確かに似てるけど…こんなところで待ち合わせするかな?」




女性たちが話しているのを聞き、目線の先を見ると確かに帽子はかぶっているが背格好や雰囲気が巧に似ていた。




美優が近づくと帽子の隙間からブルーの目と目が合った。




「え!?もう来てたの?ごめんね、待たせちゃった?」




「…一時間前にきた。」




「え!?ごめんね、私時間間違っちゃった?」




「三時であってる。」




「…?」




「憧れてたんだよ。こうやってデートで待ち合わせするの。」




巧は美優のふわふわに巻かれた髪の毛に触れる。




「どんな格好で来るかなとか…何話そうかなとか…そういうの考えて待ってみたかった。」




美優の手をとり、ギュッと握ってきた。




巧は美優との今までのことを思い出しながら、もう一度手をギュッと握ってきた。












「来てくれてよかった。」











帽子の隙間から見えるブルーの瞳は、今にも泣き出しそうで、どうしてこんなに悲しそうな表情をするのか美優にはわからなかった。




「行こうか。」




「うん///」




胸が高鳴るのは巧が泣き出しそうだったから?




それとも手を強く握られているからなの?




「どこ行く?」




「えっと…」




美優が迷いながら立ち止まると周りの通行人が巧をみてヒソヒソ話をしているのに気づいた。




「サングラス買いに行かない?」




「何で?」




「ほら、やっぱり顔隠したほうがいいっていうか…」




「サングラスしたらもっと目立つよ。それにもうお前のことは周りにも知られているから隠したりとかはもうしない。」




「そうだけど…なんか周りの人に見られると緊張するっていうか…」




美優が周りの人に目をやりながら答えた。




巧は微笑みながら両手で美優の頬を包み目を見つめながら言う。










「俺とデートしてるんだから、俺を見とけばいいんだよ。」






「う、うん///」










(は、恥ずかしい///でも確かに巧はさっきから私しか見てない…)




「あ、じゃあ私映画観たい。」




「映画…?」




巧は以前美優とデートしたときのことを思い出した。




「じゃあ、俺が何を見るか決めていい?」




「…え…ホラーとかそういうのはやめてね。」




巧が携帯で映画の時間を調べる。




「あ~今ホラーしかやってない。じゃあホラーで。」




「え!?ホラーは嫌だってーー」




巧に若干引きずられながら映画館に入った。




「やっぱ映画はやめて違うとこいかない?」




「怖いの?」




「ホラーとか苦手だよ~お風呂入るときとか、夜中目が覚めたとき怖いし…」




美優は昔からホラーが苦手だった。




「…だからだよ。」




「え?」




「美優がホラー苦手なの知ってるから。」




「じゃあ、他ので…」










「怖いから今夜泊まってって美優が言うの待ってんの。」










「え…///あの、それは、まだ、心の準備が…」




「とりあえず映画観よう、映画。」




「ちょっと、待って…」



結局二人はホラー映画の映画にした。




映画が始まっても隣の美優は何のリアクションもなかった。




「…?」




美優を見ると見えないように目をつぶっていた。




「映画見ないように目瞑ってんの?」




巧が小声で聞くと美優は首を縦に振った。




“チュッ…”




唇に生暖かい感触で美優は目を見開いた。




「え…今…」




「目瞑っているからキスしてほしいのかなと思って♪」




巧がニヤリと微笑みながら言った。




「///」




美優は不意打ちのキスに耳まで赤くなった。




記憶をなくした美優にとってはこれが巧との初キスだった。




美優はそのあと怖いはずのホラー映画の内容も、キスの余韻で頭に入らなかった。




おかげさまなのかまったく恐怖がなかった。




「はぁ~意外と美優が怖がらなかったな~」




「え!?そんなことないよ…」(まさかキスの余韻に浸っていたなんて言えない)




「でも俺もそんな怖くなかったかな~ん~」




巧は背伸びをし、目がトロンとして眠そうだった。




「眠い?」




「昨日打ち合わせを遅くまでやってたから…」




「じゃあそこの公園で一休みしよう。」




二人は小さな公園に行き、草むらの上に座った。




公園には天気がいいからか、平日というのもあって若いカップルが多かった。




「気持ちいい~」




そういって巧は美優の太ももの上に頭を乗せる。




「え!?」




巧が自然に甘えてくるのに驚きつつも可愛くて愛しかった。




巧はそのまますぅっと寝てしまった。




「疲れているんだね…」




巧は美優の腰に手を回し甘えてきた。




「寝顔写真に撮られちゃうよ?」




「だからこっち見てんの。」










「俺の寝顔は美優だけのものだから。」










“ギュッ…”




可愛らしいことをいう巧を急に抱きしめたくなった。




巧は驚いたのか目を開け、すぐ美優の腰に回していた腕に力をいれさらに強く抱きついた。




【さっき巧君、彼女と映画館でキスしてた!】




【駅で友達を待ってたら俳優の日向巧が誰を待っていた!そしたら噂の彼女が登場!!デートかな?】




【彼氏と公園きたら日向巧が彼女とラブラブしてる!!隣の彼氏じゃなくて二人をついつい見ちゃう!】




ツイッターでは次々二人の情報や写真がアップされた。




「あ…この公園…もしかしてたくちゃん近くにいるのかな?」




巧の記者会見のテレビの前に立っていたショートカットの女性もツイッターをチェックしていた。




女性はガラガラとトランクを引きずりながら、公園へと向かいだした。




「ん…」




「起きた?」




「俺寝ちゃってた…」




「うん、気持ちよさそうに寝てたよ。」




「…腹減った~」




「じゃあご飯作ろうか?」




「オムライスがいい。」




「じゃあスーパーに行かないとだね。」










「そのまま俺んちに泊まれよ。」










「え…」




美優が返事に困っていた時――




「たくちゃ~ん!!」




「「え?」」




巧と美優は声が聞こえてきた方向へ同時に向いた。




「会いたかったよ!!」




女性は座っている巧に抱きつき、芝生の上に押し倒された。





「…沙織?」




「やっぱ、たくちゃんなんだね!忘れられてたらどうしようかと思った!」




沙織はまた巧に強く抱きついた。




「わかったから、離れろよ。」




巧は沙織の腕を自分の体から引き離す。




「昔はよくこうやって抱き合ってたじゃん。」




「…え?」




「美優、誤解するなよ。子供の頃の話だから。」




「子供の頃って…」




「私たち施設仲間なの。ね?」




「俺が施設に入ったあと沙織が入ってきて…同い年だからよく遊んでたな。」




「そう…なんだ。」




「たくちゃん、急にいなくなるんだもん。だけどまさか芸能人になっているなんて、びっくりしちゃった!施設の頃は苗字がなかったよね?」




「あぁ…そういわれてみればそうだな。」




「そういえばね、同じ施設だった裕也覚えてる?ひとつ下だった…もう結婚して子供もいるんだよ!」




「裕也って…泥遊びが好きだった?」




「そうそう特技が鼻から牛乳!」




「アハハハ、だっただった!今思い出しても笑える!」




美優は二人の会話に入っていけず聞いているだけだった。




美優と巧は本当は幼馴染だったと聞いていたが、もしかしたらこういう風に話しているのは自分だったのかなと思った。




「ねぇ、たくちゃん、お願いがあるんだけど――」




「今日泊めてほしいの。」




「は?どうして?」




「部屋の契約が明日からで、今日どこにも泊まるとこがないの。友達もいないしお金もないし――だからお願い!」




「じゃあホテルとろうか?」




「ホテルはお金かかるから!ソファでいいから、お願い!」




(泊めちゃうのかな…なんでこんなに胸がモヤモヤするんだろう…)




美優の表情がどんどん暗くなっていく――














「わかった、じゃあ俺のとこに泊まれよ。ベッド使っていいし。」











「本当!?やった!久しぶりにたくさん話したいこともあるし、すっごく楽しみ!」




「沙織…俺は泊まらないよ。お前だけ俺の家に泊まっていいから。」




「たくちゃんはどこに行くの?」




「俺は美優のとこに泊まるよ。」




「え…」(急に泊まりの展開になるの!?)




「…ダメ?」




「…大丈夫。」(沙織さんと二人でいられるよりは…)




「別に久しぶりに色んなこと話したいだけだし…男女の仲っていうわけじゃないんだし、友達と一晩話すのもダメなの?」




沙織は美優に話を振った。




「え…私?」




「ネットで読んだけど二人は今付き合っているわけじゃないんでしょ?」




「沙織、美優がいいっていっても、俺はひとつ屋根の下に男女二人はやめておくよ。いくらお前でもな。」




「なんで!?だって8年ぶりぐらいの再会だよ!?お風呂だって一緒に入っていた仲じゃん。」




「美優が少しでも疑うような行動は控えたい。」




「ふ~ん…それだけ彼女のことが好きなんだね。わかった。じゃあホテルに泊まる。」




「お金ないって…」




「お金ならある。本当はたくちゃんと話がしたかっただけ。じゃあ、またね。」




そういって沙織は颯爽と去っていった。




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