第20話 クリスマスプレゼント

自宅に帰るのも大学に行くのも、本当は周りの目が怖かった。




でも愛のいうとおり自宅にも大学にもマスコミはいなくなっていた。




大学の人たちも最初は昔のようには接してくれない人もいた。




だけどいつもと変わらない自分でいたら、また昔のように接してくれるようになった。




巧とはクリスマスまで会うのはやめておこうということで毎日電話とラインをした。




会えなくてもテレビをつければ巧がいるし、ラジオをつければ巧の声が聞こえた。




だから思っていたよりは寂しさを感じなかった。




でもそれはきっとこの幸せがずっと続くと思っていたからだ――




クリスマス当日――




「メリークリスマス!」




愛がクラッカーをならした。




「びっくりした~クラッカー持ってるなんてわからなかった。」




今日は美優の家で、愛とヒロの三人でクリスマスのお祝いを昼間からしていた。




「いや~なんとかみんな楽しいクリスマスとお正月を迎えられそうでよかったじゃん!」




「本当、危なかった~今年は愛にもヒロにもご迷惑をおかけしました。」




「何言ってんのよ~そういうのやめてよ~ほら、ケーキ食べて!」




愛は美優にケーキをお皿に取り分けてくれた。




「今日巧に会うんでしょ?」




「…うん。」




「学祭から会ってないんでしょ?長かったよね~早く会いたいね!あ、クリスマスプレゼント何にしたの?」




「クリスマスプレゼント…あ!忘れてた!」




「え~ちゃんと用意してから会いにいきなよ~」




「何がいいかな…」




「ん~何でももってそうだもんね~」




「使えるものがいいんじゃないかな?今ならマフラーとか?」




「さすがヒロ!マフラーとかそういうのはたくさんあってもいいじゃん!」




「…よし!じゃああとで探してみる!」




「そういえば何時に会うの?」




「7時だよ~って今何時!?」




「三時だよ。でも巧君の家とかじゃないの?」




「初めて会った海で会うから電車で一時間はかかるかな。」




「だったらもうプレゼント選びに家でたほうがいいって!」




「でもまだクリスマスパーティー始まったばっかりだし…」




「いいから、いいから!久しぶりに会うんでしょ!私たちはいつでも会えるし、また明日パーティーやり直せばいいよ!」




「俺たちが片付けしておくから、行っておいでよ。」




「愛、ヒロ…ありがとう。じゃあ行ってくる!」




「はいはい、行ってらっしゃい。」




美優が玄関から出て行く姿をヒロが温かく見守る。




「…美優のこともういいんだ~」




「え?」




「普通クリスマスに他の男のところに好きな子がいったら嫌じゃない。」




「あの二人には適わないから…昔からずっと…」




「…昔からってどういうこと?」




「…愛には話しておこうと思うんだ。俺たち三人のこと。」




「三人って…知り合いだったの?」




「俺たち…俺と巧は…」




15年前のクリスマスの悲劇の扉が




少しづつ開かれてくる…




「よし、いいもの買えた~」




美優はマフラーと手袋を巧のクリスマスプレゼントにした。




「気に入ってくれるかな…」




美優はドキドキわくわくしながら最初に会った海へと駅から歩いて向かう。




“ザザァン…”




「さ、寒い!」




クリスマスの夜の海は思った以上に寒かった。




「まだ6時半か~缶コーヒーでも買って座っとこう。」




その頃巧は――




“ピンポーン”




「はい。」




「日向巧と申します。」




「はい、少々お待ちください。今開けます。」




“キィ…”




巧が腕時計に目をやると時刻は6時半だった。




(仕事が意外にもおしたな~早く用事済ませて美優のところに行かないと風邪引くだろうな…)




「二階の奥の部屋でございます。」




「これお見舞いの花です。」




「まぁ…キレイな花束…きっと奥様喜びますわ。」




巧はらせん状の階段を上り、二階の奥の部屋に行く。




“コンコン…”




「…はい。」




「日向です。」




「どうぞ、中へ入って…」




「失礼します。」




“ガチャッ…”




ドアなんて軽く押せば開けれるものだ。




だけどこの時なぜかドアが重く感じた。




それは開けてはならないドアを開けるからなのか、それとも――




「あの、用事って…ッ!!」




巧は先の言葉が出てこなくて言葉を失った。




「……………母さん?」




「…やっぱり…そうなのね…」




「どうして、あなたが…楓さんが母親?」




「私も普段あなたと同じでコンタクトをしているのよ。ずっと探していたのよ…よかった…」




楓も巧と同じで片目がブルーだった。




巧の記憶の中の母親も片目がブルーだった。




楓は巧に抱きつき何度も頭を撫でる。




「あなたにすぐ母親だって名乗れなくてごめんなさい…あなたがどんな反応をするか怖かったの…ごめんなさい。」




泣きじゃくる楓は普段大女優とは思えないぐらいグシャグシャの顔になっていた。



「でも毎年クリスマスがくるたび胸が締め付けられて…でも今年は素敵なクリスマスプレゼントだわ…」




「クリスマス…?」




「…覚えてないの?」




「俺は…母さんが俺と同じ片目がブルーで赤ちゃんを抱っこしていることしか…」




「赤ん坊?それは1歳の時の記憶ね…ヒロのことね。」




「ヒロが弟?」




「そうよ。あなたの弟。ヒロは両目とも茶色だけど…あなたの本当の名前はルイよ。」




「ルイ…?」




「15年前…クリスマスパーティーをうちでやることになっていたのよ。」




「クリスマス…」




「あなた達、クリスマスパーティーの前に秘密基地で遊ぶって…秘密基地を作っていたみたいで…それがフェンスを越えた場所で…流れの速い川のあるところだった…」




「川…そうだ、俺は川に流されて…記憶が…名前もわからなかった…」




「そうだったの…ごめんなさいね…」




楓がまた巧をギュッと抱きしめる。




「それで…何で川に落ちたんだ?」










「みゅうちゃんの大事なものが入ったバッグをとろうとして…」










「みゅう…?」




「近くに住んでいる女の子で、ヒロと同じ年の…ご両親がレストラン経営されていて、あなたも食べに行ったことがあるわ。」




巧は頭を抱えながら後ずさりをする。




いきなり色んなものがフラッシュバックしてきた。




「あなた達、美優ちゃんって言いにくかったみたいで…あなたはみゅう、ヒロはみーちゃんって呼んでたわ。」




「…そうだ…いつも三人で遊んで…みゅうだけ目が海みたいでキレイって言ってくれて…」




「そう、あの子は本当にいい子で…あなたの目をいつも気に入ってくれてた…」




「あの時、美優がバッグを取ろうとして…落ちそうになったから、俺がバッグを…」




巧は少しづつ記憶が戻ってきて思い出してきた。




「美優ちゃん、あなたがいなくなったのは自分のせいだって責めて責めて…ご飯も食べれなくなって…そしたらいきなりあなたのこと覚えてないって言い出して…」




「あれは俺が勝手に…」




「4歳の子にはショックだったと思うわ。私がちゃんと警察に届けてれば…」




「え…?」




「私まだその頃結婚したことさえ世間に隠してた。もちろん子供のことも…私も主人もまだ駆け出しだったの…ごめんなさい…ちゃんと警察に届けてればきっともっと早く見つけ出してあげれたかもしれないッ…」




楓は自分の力で立てなくなり、床に泣き崩れた。




「…でもまだ親子って実感が…」




「きっと親子よ。母親の勘があるもの。」




「いまさら母親面するんじゃねぇよ!!」




巧は今まで溜まっていた感情を表にだした。




「…なんだよ…お前にとっては俺が生きていたことがクリスマスプレゼントでも、俺にとっては母親に捨てられたっていう事実がクリスマスプレゼントかよ!!」




「ルイ…違う、そんなつもりは…」










「正真正銘の親子だよ。」








「ヒロ…?どういうことなの?」




ヒロが巧に封筒と帽子を投げる。




「これ、俺の…」




巧の中の封筒を開けると中にはDNA鑑定書が入っていた。




「巧の毛髪と母さんの毛髪からDNA鑑定したよ。親子だった…」




「ヒロ…あなたいつから知っていたの?」




「だいぶ前から…」




「どうして教えてくれなかったの?私がルイに会いたがってたのは知ってたでしょ?」









「母さんも美優もいつも兄さんしか見ていなかったから…」









「そんなこと…」




「母さんは自分の同じブルーの目をもつ兄さんのこといつも可愛がっていたよ!美優だって…いつも兄さんについて遊んでた…兄さんがいなくなって、母さんも美優もやせていって…美優だって兄さんのことが好きだから、だからいなくなったのは自分のせいだって責めて記憶を封印して…」




「ヤメロ…」




「…え?」




「ヤメロ!!!!!!」




巧はDNA鑑定書を破いて部屋から立ち去る。




「待って、待って、ルイ!話を聞いて!」





“ザザァン…”




「ふぅ~寒い…まだかな…」




美優は堤防に座りながら手をこすり合わせる。




時刻は20時




寒いから巧へと買った缶コーヒーがもう冷めていた――




“ザザァン…”




朝日が眩しかった。




美優の隣には冷え切った缶コーヒーが12本転がっていた…




“ジャリッ…”




「…遅いよ…」




「…ずっとここにいたのか?」




「…だってクリスマス絶対来いって言ってたじゃない…もう26日になっちゃったよ…」




「美優、あのさ――」




「これ、クリスマスプレゼント!寒いから早く開けてみて!」




美優が巧にプレゼントを渡そうとしたら、隣に置いていた缶コーヒーが手に当たり下に数本転がった。




「あ…ちょっと待って~」




美優は堤防からおり、缶コーヒーを拾い始める。




「美優…」




巧は缶コーヒーをひとつ握ると、氷のように冷たかった。




こんなに冷たくなるまで自分を待っていたのか…そう思うと胸が締め付けられた。




「お待たせ~」




美優が缶コーヒーを拾い終わり戻ってきた。




「美優にプレゼントがあるんだ…」




そういって巧が美優にキレイな箱を差し出す。




美優が開けると中にはダイヤがたくさんついてネックレスとイヤリングだった。




「こんなの貰えないよ!借金だって返してもらって、生活費だって…」




美優は箱を閉じて巧に返そうとした。









「美優、これを売って金にしろ。」










「………え?」




「本当のクリスマスプレゼントはこっちだ。」



「これは…」











「自由だ。」











「お前も俺も自由になるんだ。」










「…どう…して?」




巧は一度目をつぶり、自分に何か言い聞かせるかのようにもう一度目を開けた。




「もともと契約結婚で、お前は家事とかする約束で、俺はお前に金を用意する約束だったけど、今マスコミにお前のことバレて全然家事とかできてねぇし…」




「そうだけど…でも!」




「お前が好きになったら面白いって思ったんだけど、ゲーム感覚で恋愛したら結構意外に早くお前俺に惚れたから飽きたっつーか…」




「…」










「金で結婚したんだから、金で離婚しよう。」










美優――




俺を嫌いになれ




顔もみたくないくらい嫌いになれ




このまま一緒にいて




優しいお前が記憶が戻って自分のせいだって苦しむ姿みたくないんだ…




たとえ思い出したとしても俺のことを嫌いになれば




きっと苦しまないですむはず




俺のために悩む姿より俺と離れて笑っていてほしい




離婚したら最初はまた色々言われると思うけど




きっとすぐまた日常の生活に戻る




俺が選んだ女が誰かに非難されるのはもう嫌だ













――離婚届が俺の愛の形なのかもしれない――











美優のほうへ振り向き、どんな表情をしているか伺った。




美優はただただ静かに涙を流していた。




“ズキン…”




朝日にあたってキラキラと光る涙を流す美優と握っている缶コーヒーの冷たさに、一日かけて悩んだ答えが揺らいだ。




巧は缶コーヒーを潰れるぐらいにギュッと握り、自分の今の感情を必死に抑えた。




「…じゃあ。」




巧は美優のほうを一度見ず、そのまま美優のところから去った…




“ザザァン…”




さっきまで隣にいた巧はあっという間にいなくなってしまった。




どうせなら波と一緒に私の涙もさらっていってほしい…




そう思いながら美優はひたすら涙を流した…




「美優!」




ヒロが走って美優のところへやってきた。




「ずっと…あれからずっとここにいたの?」




ヒロは自分が着ていたコートを脱ぎ、美優の肩にかけてあげた。




「巧は?巧は来てないの?」




美優は何も答えず涙を流していた。




「…どうして泣いてるの?何があった?」




ヒロは美優が握っている封筒に目をやる。




「離婚届…」




「ヒロ…どうしてここに?」




美優がやっと口を開いた。




「家の鍵のことがあったから、愛と交代で家で待ってたんだけど帰ってこないし、連絡もつかないし、心配できたんだ。」




「そっか…鍵渡すの忘れてた…」




「美優…」




「三人でクリスマスパーティーしてた時間に戻れればいいのに…」




美優は今度は声をあげて泣き出した。





「帰ろう。」




ヒロは美優を自分の車に乗せて家へ送っていった。


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