第6話 恋に落ちる
美優はエレベーターに乗り、ホテルの人がボタンを押してくれた7。
「あ!あの!」
「はい、美優様。」
「ここから近いスーパーってどこですか?」
「ホテルの中に食品を買えるところがございます。」
「すいません、そこに行きたいんですけど…」
「かしこまりました。」
そういってエレベーターのボタンを押しなおす。
「あ!でもお金がないんだった!バッグ落としたんだった!」
「申し遅れました。先ほどそのバッグを預かっております。」
「え!?」
「日向様が警察に届けられたようで…」
「届けてくれたんだ…アイツ。」
「美優様にとって大事なものが入っていたらいけないからとおっしゃってました。」
「…ッ」
確かにバッグには両親の写真が入っていた。
「日向…さんって何者なんですか?」
“チン…”
エレベーターがついた。
ホテルの人はにっこりと微笑んでいるだけで何も答えなかった。
(答えれないってことか…)
美優はバッグを受け取りスーパーで買い物をした。
それから部屋に戻り料理をし始めた。
昨日約束したメニューを作り始めた。
「誕生日といったらケーキか…でもパーティー会場でもおいしいご飯食べて、この大量のご飯も食べて、ケーキまで…」
そう思うとケーキを作るのを辞めようと思った。
「でも誕生日にケーキがないのって…」
美優はいつも両親に手作りのケーキを作ってもらってお祝いしてもらった。
今日巧にしてもらったことを考えるとケーキを作りたくなった。
「オーブン機能…ないかぁ~あ、じゃあ炊飯器で作ってみよう!」
美優は色々と準備にとりかかりながら肝心なものがないことを気づいた。
「チョコペンがない!!どうやって文字を書こう…」
“ガサガサガサ…”
棚を漁ってみたがチョコペンはなかった。
「ん~どうしよう…あ!…これでいっか。」
美優はあるものをみつけてチョコペンの代わりにすることを決めた。
「喜んでくれるかな…こんな食えねぇ~って怒るかな…」
口ではブツブツ言いながらも、今日してもらったことを思い出しながらケーキを作った。
口は冷たくて、態度もでかくて、俺様だけど…人の話はちゃんと聞いていてくれて、やさしい所もあって…
そんなアイツに…巧に…感謝の気持ちをこめてケーキを作った。
「美優…いるか?遅くなった。俺今からまた別のとこで夕食食べるんだけど…ッ」
巧が部屋に入ると美優はテーブルで寝ていた。
テーブルにはたくさんの料理とケーキがあった。
「これ…全部美優が?」
昨日リクエストした料理にケーキもあった。
「ん?ハハハハハッ…」
ケーキの文字はよくみたら海苔をちぎってかいたものだった。
「誕生日に手作りケーキなんて初めてだな…」
“カシャッ…”
ケーキと美優を一緒に携帯のカメラで写真を撮った。
それを待ち受けに設定した。
(あれ?なんで俺待ち受けにしているんだ?)
そう巧は思いながらも美優の頭に手をおき、ゆっくりと頭を撫でる。
「美優…美優…起きろ。」
「ん…」
美優は寝ぼけていた。
この声…どこかで聞いたことがあるような…
『みゅう…みゅう…』
「みゅう…?」
「え?」
「あ…帰ってたんだ。おかえり…寝ちゃってた。」
「今なんて言った?」
「あ~みゅう?なんか誰かに呼ばれている気がして…夢だね、きっと。」
「みゅう…?」
巧は聞き覚えがあるようで思い出そうとしているが思い出せないでいた。
「あ、昨日のリクエスト作ったんだけどご飯食べる?」
「あぁ…」
「じゃあ温めるから座っておいてよ。」
美優は料理を温めなおした。
その間巧の携帯が鳴ったが巧は出なかった。
「…電話でなくていいの?」
「別にいい。」
そういってご飯を食べ始めた。
美味しい美味しいと子供が好きそうなメニューを口に頬張っている姿をみると、とても今日20歳になった人ではないようだった。
「…今日本当に色々ありがとう。バッグも戻ってきたし…」
「…帰るのか?」
「うん…お世話になりました。」
「…」
「日向さんが食べ終わったら帰るよ。一人で食べたら寂しいでしょ?」
「…」
巧はいつもご飯は一人か大勢かのどちらかだった。
母親とでさえ一緒に食べたことはない。
自分のつかれたくないところをつかれる、そして解かってくれる、優しく包み込んでくれる美優に恋に落ちた。
※続きはエブリスタで公開中
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