第7話 物語の目線
翌日夕刻
裏山の小屋に俺の姿はあった。
「これが完成したプロットなんだけど……」
ダメ出しされるだろうか。また全然ダメだと言われてしまうのだろうか。そんなことを考えながら星川さんに渡す。
「うん、読ませてもらうね」
薄い紙一枚を、片手で受け取った。
「なるほど……」
それは1分も経たないうちに発せられた。
「どうかな?」
「うん、この前よりは格段に良くなった」
「ほんと!?」
「最初読んだ作品もだったけど、ストーリーはある程度読めるものにはなってるのよね。後はこのプロットから文章を生み出すこと。これが1番大切で難しいんだから」
その通りだ。プロットと実際の小説では全く違う。料理に例えるならプロットは素材で、小説は調理だ。いくら最上級の素材を使っていても料理人の腕がよくなければ、料理として成り立たない。
「因みに昨日言ってた小説2冊読むっていうのは、順調そう?」
「ん、バッチリ。気合い入れて読んでるよ」
「読んでるのはいいけど、もしかして本当に読んでるだけ?」
「え、読む以外に何かすることってあるっけ……?」
「例えばね、知らない単語が出てきたとするよ。その時ヒロはどうしてる?」
「……前後の文脈から大体の意味をつかんで読み続けるかな」
「普通の読書ならそれでいいんだけど、ヒロ。あなたは小説家を目指しているの。知らない単語が出てきたらむしろチャンスだと考える。その単語を辞書で調べて、自分の単語帳を作るのとかおススメね」
なるほど、知らない単語を集めた単語帳。それは俺の最大の武器にもなりえるというわけだ。
「分かった。確かにそうだね。今日から単語帳作るよ」
俺は素直にその提案を受け入れた。だが、ここまで話していて俺はとある疑問を覚えたのだ。
「そういえば星川さんって、小説に関して詳しいけどもしかしてプロの小説家だったりする?」
俺が、そう問いかけた瞬間、星川さんはハッとした様子を浮かべた。何かまずいことでも聞いてしまっただろうか。
「う~ん、小説家じゃないね。ただの小説の”ファン”かな」
「小説家じゃないんだ。それでここまで知識があるんだったら、星川さんが小説を書けば1発で賞を取れるんじゃない?」
「……そんなに甘くはないよ」
小さく、今にも消えてしまいそうな声でそうつぶやいた。
その日はそれ以上会話することなく、俺は家へと帰った。
そして翌日より、プロットをもとにして実際に小説を書き始めたのであった。
1週間後
俺は10話までの原稿用紙をカバンに入れ、星川さんのもとまで走っていた。締め切りまであと3週間。小説自体は完結してなくても大丈夫なものの、10万文字以上の規定がある。10万文字といえば大体ラノベ1冊分といわれている。そこにたどり着くためには、今のペースでは明らかに間に合わないのだ。
「星川さん! 10話まで改稿してきたから見てほしい!」
俺は小屋の前で地団駄を踏みながら言う。かく言う2日前、第1稿を書き上げたのだが綺麗に突き返された。100点満点中20点らしい。問題に上がった部分は、”演出”だ。どうもこの主人公に感情移入することができず、全くもって面白くない小説になっているから誰目線で見ているのか、分かりやすくしてほしいと言われた。
確かに客観的に読んでみればそうなのかもしれない。もともと魔力の量が低い女の子。その女の子に焦点を当てて物語を書き進めなければ、軸がブレてしまうのだ。
「はい、入っていいよ」
その声を待っていたかのように、俺は勢いよく扉を開けて中へと入る。初めこそ緊張していたが、今では何のその。むしろ鍵がかかっていなければ勝手に上がってしまうくらい、ここが居心地の良い場所となっていた。
「これを今すぐ見て、問題点があれば教えてほしい」
俺は半ば強引に星川さんに原稿を渡す。
「ん、ちょっと読むから5分時間頂戴」
そう言って原稿をパラパラと速読とも言えないほど速いスピードで読み進めていく。
結果、5分として時間はかからなかった。しかも読みながら同時に赤ペンで指摘事項に丸をしてくれている。
「演出はだいぶ良くなったかな。何て言うか、物語が読みやすくなった。それにこの女の子の魔法士に絶対なりたいって気持ちも伝わってきたからね。ただ、初歩的だけど誤字脱字が多すぎる。しっかり推敲してる?」
「うっ……時間がなかったから、してないです……」
痛いところを突かれた俺は、どうにもばつが悪かった。
「まぁ、少しの誤字脱字で落とされることなんてめったにないけど、少なくとも読み手にとってはものすごくマイナス評価になるね。私はそこまで気にしない方だと思うけど、気にする人だとストーリーどころじゃなくなるかも」
「今度からしっかり推敲までして持ってくる……!」
推敲は学校の作文や小論文でも習ったが、結局したことなどなかった。そのツケがここで回ってくるとは、真面目に授業を受けておくべきだった。
「じゃあ、次は10万文字全部書き上げてから持ってきて。一応期限としては1週間以内。いけるよね?」
いきなりそう言われたが、その時の俺に断るという選択肢はなく、1つ返事で受け入れた。
「分かった。必ず一週間以内に最高の小説を仕上げてくるよ!」
俺がそう返事をすると、心なしか星川さんも少し嬉しそうだった。
着実に前へと進んでいる。文章力は読書のおかげで以前とは比べ物にならないほど付いてきた。今なら万全の状態で自分の小説を書き上げられる、そんな気がするんだ。
こうして俺は、朝から晩までひたすらに小説を書き続ける日々が始まったのであった。
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