第101話 煌びやかな兵士の列がイグノース城へと入城していく。

帝国との前線に位置するイグノース城。

その城門が開かれると、煌びやかな兵士の列がイグノース城へと入城していく。


遅まきながら到着した内地からの援軍。

華やかな軍楽隊の演奏と共に出迎えるのは、城主代理であるナディーン騎士爵。


「お疲れ様です。わざわざ遠くまでご足労下さり、ありがとうございます」


最大限の丁重さでもって、うやうやしく頭を下げるナディーン。


「うむ。帝国の動きはどうなっておる?」


豪華な馬車の車内。窓を細く開けて聞き返すのは、正統アウギュスト帝国 初代皇帝 ディートリヒその人である。


「は。イグノース城近くに陣を構える帝国軍ですが、突如、陣幕を撤去。全軍がメントス城まで後退しております」


メントス城はここより東。

かつては正統帝国の城塞であったが、3年前、帝国賢者ライナルトにより陥落。以降は帝国軍の最前線となっていた。


「一度はメントス城に入城した帝国軍ですが、その後、2万の兵が城を出て帝都方面へ移動しております」


「ふむ。となるとメントス城の帝国軍は……?」


「は。敵の守備軍はおおよそ1万となります」


ナディーンの返答にしばし小考するディートリヒだったが。


「よし。明朝よりメントス城へ進軍する。今宵はイグノース城で休息ぞ」


指示を受けて将校たちが動き出す。

その様子を横目に、ナディーンは皇帝陛下に確認する。


「陛下。南部への援軍はよろしいので?」


現在、正統帝国へ進軍する帝国軍の部隊は2つ。

北と南からの同時侵攻にして、特に南部の被害が拡大している。


そのため、正統皇帝ディートリヒが直々に指揮する此度の援軍1万。うち5千をこのイグノース城へ配置。その後、ディートリヒは残り5千を率いて、より戦況が不利となる南部の戦線に合流する予定であったが……


「帝国軍はメントス城に退いたのであろう? ならば好機ではないか」


正統皇帝ディートリヒのクラスは賢者。

賢者が得意とするメテオが最も効果を発揮するのは、城攻めである。


それに対して、南部の戦線は城にこもっての籠城戦。動き回る敵軍を相手にメテオは回避されやすく打ちづらい。


「余が帝国賢者のように、メテオを5発も打てるなら話は別だがな」


ディートリヒが1度に打てるメテオは2発が限界。

以前は3発は打てたが、年と共にMPは衰えていた。


「しかしイグノース子爵が亡くなったのは残念であるな。子爵とその息子の突撃によりメテオの防衛に成功、帝国軍を追い払ったというではないか」


実際にはメテオから城を守ったのはシューゾウ伯爵の功績。

ただし、シューゾウ伯爵との協議により、その功績はイグノース子爵親子のものとなっていた。


「で、新しく伯爵を任命したあの男はどうなっておる?」


「シューゾウ伯爵ですか? 彼もまた大活躍です」


装甲馬車でもって帝国軍へ突撃。縦横無尽の活躍について陛下に報告する。


「しかもですよ。何とあの帝国賢者を……」


そこまで話した所で、ナディーンははたと思い出す。

そういえば捕獲した帝国賢者……どうしたであろうか? と。


城主代行となったことに忙殺され忘れていたが……帝国賢者は装甲馬車に捕獲したまま。そして装甲馬車はエルフ王国へ移動したのではなかったか?


「なんだ? 帝国賢者がどうした?」


「……いえ。それもこれもイグノース子爵親子の犠牲あってのものです」


「うむ。しかし修理工だと聞いていたが、装甲馬車で突撃するとはな……わざわざ伯爵とした甲斐があったようだ」


シューゾウがトリプルクラスであると知らないディートリヒ。

シューゾウの価値は、エルフ女王からの信任が厚いという点だけ。

エルフ王国との同盟が成るまでは死なれるわけにはいかず、伯爵という地位に付け、装甲馬車も貸し与えたのである。


それが、装甲馬車で戦場に出るほど勇敢な将であったとは嬉しい誤算というもの。

まさか馬に成り代わって馬車を引き、文字通り敵陣を走り回ったなどとは思うはずもないのであった。


「シューゾウ伯爵の活躍もあって我が軍の士気は高く、明日からの戦いにも良い成果が期待できるでしょう」


「うむ。士気が高いのは良いことであるが……そうだな」


ふと何かを思いついたのか、ディートリヒはナディーンを呼び寄せる。


「ナディーン卿。先の戦闘で捕らえた帝国の捕虜はどうなっておる?」







帝国軍の補給部隊を襲撃。

多数の物資を入手。さらには武器職人を10名味方に引き入れた俺たちは、補給部隊から奪った馬車に乗りイグノース城へと帰り着く。


元々馬車を引いていた馬は亡くなっているため、俺と、手伝おうというのかドワーフどもとで馬車を引いているわけだが……


「随分と慌ただしいな?」


城内の中庭。物珍し気に俺たちを見る兵士に問い質す。


「ああ。帝国の陣に動きがあった」

「丘に陣を構える帝国軍およそ3万の兵だが」

「突如、陣地を引き払いメントス城へ退いた」


ふむ。


「これは占領されたメントス城を奪回するチャンスである」

「城に到着された正統皇帝ディートリヒ陛下の援軍1万と」

「イグノース城の兵1万。あわせて2万の兵で出陣されるそうだ」


なるほど。正統帝国を裏切ろうと画策するオイゲン侯爵の件が片付き次第、陛下も援軍に来てくださると聞いていたが……


援軍どころか、早くも先の戦場。メントス城へ向けて出陣されるという。


メントス城は、かつての正統帝国の最東端。ダミアン村よりもさらに東に位置する城。つまりはメントス城を奪回できたならダミアン村も安全となり、俺もエルフ王国へ戻れるというわけだ。


陛下にはぜひ頑張っていただきたい所であるわけだが……


「あちらに集まっているのは何だ?」


城内の中庭。何やらステージが設置。

その周囲に大勢の兵士が集まり盛り上がっているようだが?


「あれはギロチンだ」


いつの間にか俺の近くにはナディーン卿。

城主代行が、わざわざ出迎えに来てくれるとは恐縮であるが……


「明日メントス城へ出陣する。その景気づけだ」


なるほど。ステージには随分と多くの捕虜たちの姿。

将校だけではない。どう見ても一般の雑兵までもが含まれているが……

まさか捕虜となった敵兵、全員を処刑するというのだろうか?


「……ディートリヒ陛下は、特に帝国への恨みがお強いからな」


元は同じ国民だというのに嘆かわしいことである。

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