異世界に転生したので冒険者を目指そうと思ったが俺のクラスは生産系の修理工。これって戦闘に向かないのでは? だが、前世のある俺だけ2つ目のクラスがあった。やれやれ。これなら何とかなりそうだ。
第98話 この状態からカルフェが勝利するには、チートでもなければ無理である。
第98話 この状態からカルフェが勝利するには、チートでもなければ無理である。
シャドウトンが顎で示す先。
そこには黒装束の男たちと剣を交えるカルフェの姿があった。
ズバーン
切り裂かれ血が舞うのは、カルフェの身体。
マルクス団長の訓練を受け、騎士としての実力は十分のカルフェであるが、敵は複数。さらには相手が悪かったというべきか。
「小娘。田舎騎士にしてはやるでござるが」
「拙者ら影の騎士団の相手やないでござる」
「めんこい女子やから後で犯すでござるよ」
「まずは死にさらせー!」
ズバーン
盾を構えるカルフェの左腕から血が迸る。
動脈が斬られたか流れる血は留まることを知らず、盾を取り落としていた。
トリプルクラスがもたらす異常性。
シューゾウは自身の強さ故に、相対する影の騎士団を過小評価してしまっていた。
帝国の暗部を担う暗殺集団にして、マルクス団長ですら恐れ震えるのが影の騎士団。その団員一人ひとりが一騎当千の精鋭ぞろい。一介の騎士が太刀打ちできる相手ではない。まともに剣を打ち合えるシューゾウが異常であり、カルフェが敵わないのは至極当然の流れであった。
カルフェの援護に向かおうとする先。
片腕となったシャドウトンがシャドーソードを構え立ちはだかる。
「殺人スラッシュ!」
カーン
「シューゾウ。焦っちゅうね? このままやと、あの娘っ子は死んでまうぜよ?」
なるほど。確かにカルフェを心配するあまり、焦る俺の剣筋は乱れ、威力も正確性も欠いている。肩車したエルちゃんはといえば……
「うぇうぇ」
車酔いの真っ最中。となれば、やはり俺が動くしかないわけで──
「スタースラッシュ!」
カーン
立ち塞がるシャドウトンを倒さなければカルフェは助けられない。
「スラッシュ!」
カーン
だが、片目を失い左腕を失い、それでもシャドウトンの実力は一級品。
ズバーン
あろうことか片腕のシャドウトンの反撃。逆に俺は胸を切り裂かれる。
「がははっ。焦りは天才を凡人に変えるぜよ。おんしの剣、まるで当初のキレがなくなっちょるぜよ?」
なるほど……つまるところ俺が焦る理由。それはカルフェが心配だからである。
カルフェを心配するがあまり俺の剣筋が乱れるというなら……
カルフェの心配をしなければ良い。俺の焦りは消えてなくなり、シャドウトンごとき一息に切り刻むことが可能となるだろう。
「娘っ子を見捨てるっちゅーか? そりゃあ薄情っちゅうもんぜよ?」
確かにカルフェを見捨てれば勝てる。
だが、それは好きな女性を寝取られるにも等しい行為。この俺が哀れな陰キャ野郎へと成り下がる行為でもあるわけだが……
「いったい誰が見捨てると言ったか?」
陽キャである俺にそのような選択肢はない。
単純にカルフェが1人で影の騎士団に勝利すれば良いのである。
「おんし、そりゃあ無理ぜよ? 時間が経てば経つほど、あん娘っ子がピンチになるだけや。おんしの焦りも大きくなるだけぜよ?」
左腕を切り裂かれ盾を取り落としたカルフェ。それでも右腕の剣と、俺が強化した装備のおかげもあって耐えてはいるが、さすがに限界。
「田舎騎士にしては良い鎧を着てるでござる」
「拙者らの剣を受けてまだ息があるのだから」
「おなごの装備は脱がせて後で使うでござる」
「そろそろ往生せえやー!」
仮にこの状態からカルフェが勝利するには、チートでもなければ無理である。
「うん? おんし、なんじゃその槍は? ストレージから出しよったんか?」
そもそもがチートという言葉のはしりは、いかさま、ごまかし、詐欺、などといった不正行為。本来は褒められた行為ではない行い。
人間相手に使うのは卑怯であるが……寝取られ回避のためであれば
「カルフェ。受け取れ!」
ストレージから取り出した光る槍。俺はカルフェに向けて投げ渡す。
パシリ。
片手で受け取るカルフェの姿。
今さら、そのような槍を持ったところで何になろう?
余裕の笑みでその様を眺める影の騎士団の兵士たちであったが。
「んな!? なんや? お前のその槍は!」
「光ってる。眩しい位光ってるでござる!」
「何か魔法の武器でござるか? それは!」
カルフェが槍の石突で地面を一突き。
ズシーン グラグラグラ
「な、なんやあ!? この揺れはあ!!」
「地面が、地面が揺れているなりよ!?」
「地震や! 震度3はあるでござるぞ!」
地面の揺れに思わず態勢を崩した影の騎士団の兵士たち。
その隙を逃さずカルフェは槍を一突き。二突き。三突き。
瞬間。走る衝撃。光る閃光。轟く雷鳴。
ズドブ ズドブ ズドブッシャーン!
影の騎士団 兵士たちの身体は、焼け焦げ燃え落ち千切れ飛んでいた。
「な、なんぜよ!? 娘っ子の持つその槍……たまげた威力ぜよ……」
さすがは神槍グングニル。まさにチート級の武器。
あれで本来の1割だというのだから、卑怯としか言い様のないその威力。
「まさか……その槍。いや、じゃけん、ありゃあ錆びついているけえ……じゃけんどその装飾は……」
カルフェの持つ槍を見て何やらぶつぶつ呟くシャドウトン。
どうせここで死ぬのだ。考えるだけ無駄である。
「殺人スラッシュ!」
ズバーン
「ぎゃああああ!」
迷いのない俺の剣技。
回避の暇もなくシャドウトンの身体を一刀両断。肉片へと変換する。
「あああああ!? おんしゃあ!!!」
だが、俺が切り捨てたのはシャドウトンではない。
散らばる肉片はシャドウトンとは別人。切り捨てる寸前。シャドウトンを押しのけ、入れ替わった者がいた。
「変わり身の術でござる」
「団長! ここは拙者たちに任せて」
「団長は逃げるでござる」
影の騎士団。シャドウトンの配下である兵士が、まだ居たのか?
元々は伏兵として俺たちの隙を狙うつもりだったのだろう。茂みに伏せていた兵が姿を現すと、俺がシャドウトンを斬り捨てる寸前。
「殺人スラッシュ!」
ズバーン
「変わり身の術でござる」
ドロン
「ぎゃああああ!」
シャドウトンと入れ替わり、死んでいく。
「お、おんしら!? わ、わしの身代わりになるっちゅうか?」
自分の命を身代わりとすることで、俺の殺人スラッシュを防いでいる。シャドウトンを攻撃するには、やつら全員を切り捨てなければ届かないというわけだ。
「なんや分からんが、小娘が持つ光る槍を見てると」
「拙者らの身体が、DNAがぶるってくるでござる」
「こんなんありえんよ。もしも、ありえるなら……」
なかなかに見上げた忠誠心。だからこそ危険というもの。
「殺人スラッシュ!」
ズバーン
「変わり身の術でござる」
ドロン
「ぎゃああああ!」
任務のためであれば自身の命すら容易く投げ出す。
敵となれば、これほど危険な連中もそうはいない。
「あれは……あれこそが神槍グングニル!!!」
「団長。どうかこの事実を!」
「我らに代わり皇女殿下へお伝えするでござる」
後顧の憂いを断つためにも残る3人。
影の騎士団。ここで根絶やしとする!
「殺人スラッシュ! 連続殺人斬り!」
ズバズバズバーン
「変わり」「身の術」「でござる」
ドロドロドロン
「アウギュスト」「帝国」「ばんざーい」
身代わりとなった兵士を全て切り伏せた俺の前には、すでに無人となった景色が映るだけ。シャドウトンの姿はどこにも見当たらなかった。
「おにい。追撃はどうする?」
聞き返すカルフェだが、その左腕は重症。流れる血が地面に血だまりとなっていく。
「いや。必要ない」
シャドウトンが得意とするのは闇の術。
影に潜み逃げられては、俺に探す術はない。
何より今はカルフェの治療が優先。
「エルちゃん。カルフェの傷を」
「うぇうぇ」
肩車するエルちゃん。いつまで酔っているのか?
治療魔法が必要なのだから、いい加減に回復して貰いたいところである。
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