異世界に転生したので冒険者を目指そうと思ったが俺のクラスは生産系の修理工。これって戦闘に向かないのでは? だが、前世のある俺だけ2つ目のクラスがあった。やれやれ。これなら何とかなりそうだ。
第97話 「わしはシャドウトン。影の騎士団の団長よ」
第97話 「わしはシャドウトン。影の騎士団の団長よ」
「おまんらはドワーフを。他の者はわしと一緒に馬車を収納した男を追うぜよ」
影の騎士団50名のうちマルクス団長やドワーフたちを追う者は10名。その他の40名が俺を追って走り出していた。
「はあ。はあ。おにい。どうする?」
「ふう。ふう。あの連中。足が速いのです」
そんな俺の隣には剣と盾を手に走るカルフェの姿。
そして弓を携えて走るエルちゃんの姿。
ここは俺に任せろと言ったのだが……まあ良い。
冷静に考えれば、最強である俺の傍が最も安全。
であれば、俺は遅れて走るエルちゃんを抱え上げ、肩に乗せる。
「おう?」
いわゆる肩車。
いくらエルちゃんが強くなっていると言っても、それは弓に限った話。所詮はエルちゃん。まだまだ俺たちに着いて来れる体力はない。
「がはは。少女を肩車して、逃げられると思ったでござるか?」
「少女の体重。そして走りづらい態勢。とても無理でござるよ」
「間抜けな野郎が! そろそろ観念するでござる」
威勢よく声を上げる影の騎士団であったが……
「がはは……はあはあ……は、早すぎるでござる……」
「何故に人を肩車して、あれ程の速度で走れるの……」
「ありえぬ……拙者らが追いつけぬなど……」
俺はエルちゃんを肩車したまま走り続ける。
「パパはお馬さんなのです。はいどーはいどー」
パパはお馬さんではないが、俺にあるのは騎馬スキル。
そして手綱を引くがごとく俺の頭髪を引っ張るエルちゃんが持つのは騎乗スキル。
つまるところ俺とエルちゃんは人馬一体。影の騎士団だか何だか知らないが、多少が足の速い程度の人間。騎馬に追いつけるはずがない。
「はあ。はあ。おにい……ごめん。もう無理」
とは言ったものの、隣で走るカルフェも馬ではない。普通の人間。
俺の肩車における乗車定員は1人。まさかカルフェを置いて逃げるわけにもいかず、俺は停車する。
「がはあ、はあはあ……ようやく息が切れたでござるか!」
「はあ、はあ。い、田舎の賊軍騎士にしては、よくやったと褒めておくでござる」
「だが、これまでよ! 死にさらせー!」
剣を片手に迫る影の騎士団たちの姿。
俺の肩の上。エルちゃんは落ち着いた様子で矢を射ち放つ。
シュッ シュッ シュッ
ズブリ ズブリ ズブリ
「なあにい!?」
「まさか肩車した小娘が矢を放つなど」
「しかも、この威力……ぐわあー!」
顔面へと次々に突き刺さる矢雨。
お見事な腕前であるが……エルちゃん。俺が肩車をして走る間、追いかける敵を弓矢で射っておけば良かったのではないだろうか?
「言われてみればそうなのです。パパの操縦が楽しくて忘れていたのです」
娘が喜んでくれたならパパ冥利に尽きるというもの。許さざるを得ない。
「へっ……まっこと、やってくれるぜよ……」
矢が突き刺さり倒れていく男たちの中にあって、顔面。その目玉に矢が突き刺さっているにも、倒れない男が1人。
「まさかこげな娘っ子が、こない厳しか矢を放つたあ、油断したぜよ……」
吐き捨てる声と同時。
男は目玉ごと矢を引き抜くと、パクリ。その口に飲み干した。
……自身の目玉を食べたのか?
猛将の逸話として似たような話を読んだ覚えがあるが……まさか本当にそのような真似をする男がいようとは。
「……ヤバイ相手なのです」
肩車で跨るエルちゃん。怯えなのか、その太ももが震える。
つまりはこの男……油断して良い相手でないということだ。
「娘っ子の放つ矢あに気いつけえ。取り囲むぜよ!」
「にん。承知したでござる」
「おう。いくでござるよ!」
片目となったこの男が連中の大将なのだろう。
隻眼団長の指示に従い、俺の周囲を取り囲もうと動き出す男たち。
続けて放つエルちゃんの矢であるが、当たらない。
「にん。さっきは油断しただけでござる」
「矢が来ると事前に分かっているのなら」
「避けるくらいは拙者たち可能でござる」
そうこうするうち、俺の周囲は黒装束の男たち。影の騎士団に包囲されていた。
いかに俺が達人とはいえ背中に目があるわけではない。取り囲んだ後、死角からの一斉攻撃で俺を仕留めようというのだろうが……
「無駄である。竜巻スラッシュ!」
俺は独楽が回るがごとく2本の剣を手に回転。
周囲の黒装束たちを斬りつける。
「なあにい!?」
「奴の背後、完全に死角に入ったはずが」
「どういうことでござるかー!?」
これが竜巻スラッシュ。
暴風のトルコが得意としたこの技を習得した今。
「俺に死角はない。竜巻スラッシュ大回転斬り!」
ズバズバズバズバズバーン
「ぎゃあー!」
360度。周囲を取り囲む敵兵を一網打尽に切り刻む。
影の騎士団だか何だか知らないが、俺の前では回転ノコギリに斬り倒される樹木でしかない。
「馬鹿な。これほどに回転して」
「奴の三半規管はどうなっている?」
「なぜに酔わないでござるかー!?」
令和の日本。VRゲームで鍛えた俺の三半規管。
多少が回転した程度で音を上げるほど柔でない。
「パパ……酔ったのです……うぇうぇ」
……うむ。
俺に肩車されたエルちゃん。
俺が回転するということは、当然エルちゃんも回転するわけだが……
急ハンドルや急ブレーキなどの強引な運転。ドライバー本人は平気でも、いつ振動が来るか分からない助手席の人間が酔いやすいという。
つまりは、いきなり回転した俺が悪いわけであるが……
だとしても残る敵は後1人。もう1回転だけ我慢して欲しい。
「これがラストの竜巻スラッシュ! 死ねー!」
カーン
そんな俺の竜巻スラッシュを剣で弾き受け取める1人の男。隻眼の団長。
「わしはシャドウトン。影の騎士団の団長よ。おんしは?」
いちいち名乗らないで結構。
「野郎の名前に興味はない」
どうせ即死するだけの間柄。覚えるだけ脳の無駄である。
「必殺殺人スラッシュ!」
回転を停止。俺は頭上に振りかぶるユーカリの剣を一刀両断に振り降ろす。
生意気にも隻眼団長は剣を滑りこませ受け止めようとするが……
俺が振るうのはミスリルで作られたユーカリの剣。
さらには破壊の力デストラクションをも併用した一撃。
決して受け止めることの叶わぬ一撃。必殺にして殺人の一撃を──
カーン
影の騎士団 団長シャドウトンは、黒く輝く剣で受け止めていた。
「貴様……シャドウトンと言ったか。その黒い剣は何だ?」
「おんしゃあ必殺と殺人で意味が被っちゅうやん。アホぜよ?」
誰がアホか? そもそもが俺の質問に答えるどころかアホ呼ばわり。許さん。
「殺人スラッシュ連続殺人斬り!」
カンカンカンカーン
必殺の意思を込めて放たれる殺人の刃が、ことごとく弾かれる。
「隻眼野郎が……貴様、何者だ?」
俺の剣が、デストラクションとあわせて無敵の剣技を自負していた剣が防がれる。
「他人の話は聞くぜよ。わしはシャドウトン。アルカディア帝国第13騎士団 影の騎士団の団長つったぜよ? で、おんしは?」
「俺は正統帝国が誇る最強のトリプルクラス。シューゾウ伯爵。お前のその黒い剣は何だ?」
影の騎士団 団長シャドウトン。
道理で腕が立つわけである……が、問題はそこではない。
所詮は俺の剣術はAランク。俺以上に剣の腕が立つ者などざらにいるだろう。
それでも俺が最強である所以。
それが、生産スキルのデストラクションを剣術に組み込んだ点にある。
相手の武器や防具と打ち合う瞬間。
デストラクション スキルで相手の装備を破壊する。
これにより、俺の振るう剣を、相手が受け止めることは敵わず。
相手の振るう武器は、俺の盾を破ることは敵わず。
俺は最強無敵の剣士となっていたのだが……
カーン
俺の振るう剣。ユーカリの剣のことごとくが、シャドウトンが持つ黒い剣に受け止められていた。
「シャドウトン。貴様の持つ黒い剣……普通の剣ではないな?」
黒く光るその刀身。まるで影のようにも見える。
「おんしの剣こそ何ぜよ? この硬度はミスリルでも使っちゅーか?」
カーン
シャドウトンが振るう剣。俺は右手のユーカリの剣で受け止める。
「わしのシャドーソードを受け止めよるかあ。じゃが……もう片方の剣はどうぜよ?」
シャドウトンが振るう剣。俺の左半身を狙ったその剣を。
カーン
俺は左手の白銀鋼の剣で受け止める。
今の俺は2刀流。竜巻スラッシュを放つため、右手にミスリル製のユーカリの剣。左手に白銀鋼の剣を握っている。
「そりゃあ白銀鋼の剣。そん程度の剣。わしのシャドーソードで真っ二つぜよ」
シャドウトンが力を込める。
ミシ ミシミシミシ
白銀鋼の剣が軋みを上げるが……それだけである。
「なんぜよ!? なんで折れんぜよ?」
何故も何も当然の話。
俺は修理工。俺が手にする剣には、常にリペアの魔力を流しているのだ。
折れるはずがない。
「かー。まいっとうね。アルカディア帝国の諜報を受け持つ影の騎士団が初めて聞く名前たあ……シューゾウ伯爵。お前はいったい誰ぜよ?」
「誰も何もシューゾウと言ったであろう?」
「名前じゃねえぜよ。ストレージを使うってこたあ、おんしは生産クラス。じゃけん、その剣術はおかしいぜよ?」
「貴様のようなむさい男が相手。俺が説明するはずがない」
それにしても野郎の剣。シャドーソードと言ったか?
俺はシャドーソードと打ち合う度、野郎の剣を破壊するべくデストラクションの魔力を流し込んでいる。だが……固いでも抵抗が大きいでもない。流し込むデストラクションにまるで手ごたえがない。
デストラクションは装備を、物質を破壊するスキル。
そのデストラクションに手ごたえがないということは……
「シャドウトン。貴様の剣、物質ではないな? 闇のように黒く揺らめく刀身……魔力で作られた剣とでも言うわけか?」
「闇の魔力を固めて剣とする。そいがわしのスキル シャドーソードぜよ」
純粋な魔力で作られた剣。だからこそデストラクションの効果がないわけか。
「知っちゅーか? わしのシャドーソード。こんな使い方も出来るっちゅうね」
シャドウトンが剣を振る。大口を叩くだけあってその剣速は高速。
相手が並みの人間であれば、瞬きする間もなくなます切りとなるのだろうが……
「ふん!」
俺はユーカリの剣でもって、シャドーソードを受け止め払い退ける。
剣を弾かれた衝撃。野郎が態勢を崩した所を逃さず叩き斬る。これにて勝負あり。
俺の脳内シミュレーションは完璧。
小便をまき散らして命乞いするシャドウトン。その哀れな姿までもが、俺の脳裏にはっきりと予測できるのだが──
「影剣術・シャドースラッシュぜよ!」
シャドウトンの剣を弾き飛ばすべく構える俺の剣。
受け止めたと思った瞬間、シャドーソードは影のように俺の剣をすり抜ける。
「!?」
ズバーン
その直後、俺の身体がバッサリ切り裂かれていた。
「おんしに見えたぜよ? こいがシャドースラッシュぜよ」
受け止めようとした俺の剣、触れる事もできず影のようにすり抜ける。
その反面、俺の身体はしっかり切り裂くという、卑怯すぎるその剣技。
「うん? 今ので仕留めたと思ったんじゃが……まだ息があるぜよ?」
常人であれば死んでいたかもしれないが、俺のHPは異次元の域にある。
多少がぶち斬られた程度で死ぬことはないが……受け止めることのできない影の剣術。回避するしか防ぐ術はないというわけか。
「まあ良いぜよ。わしが最も得意とするんが暗殺。本気を出したわしのシャドースラッシュは、誰にも回避できんぜよ?」
喋るシャドウトンの身体から漆黒の闇が吹き出していく。
「闇魔法ダーク・カーテン。暗闇の中で死ぬぜよ。シャドースラッシュ!」
暗闇の中、空気を切り裂きシャドーソードの迫る音がする。
なるほど……回避するしか防ぐ術のないシャドーソード。
漆黒の闇に周囲を覆われたのでは、回避することもままならない。
盾も鎧も意味はない。暗闇の中、無抵抗に切り刻まれるしかないわけだが……
俺は漆黒の闇を破る方法を、すでに知っている。
「闇を払うは光。リペアの光!」
物質を修復するその魔力。リペアの属性は光である。
ピカーン
剣先を発するリペアの聖光が周囲の闇を照らし払うその先。
浮かび上がるはシャドーソードを振るうシャドウトンの姿。
「丸見えである。スタースラッシュ殺人斬り!」
ズバズバズバズバズバーン
野郎のシャドースラッシュを回避すると同時、星光殺人斬りがその四肢を切り裂き、引き千切る。
シャドウトン。貴様が最も得意とするのが暗殺だと言うが、逆をいえば初手で俺を暗殺できなかった時点。貴様の勝機は失われたということ。
「わしの闇魔法を……おんしゃ、暗殺者と戦った経験がありようか?」
バラバラとなったはずのシャドウトン。
ゆらゆら宙を漂う黒い身体から、今も声が漏れ聞こえていた。
「分身か……」
剣を発するリペアの光に飲まれ、徐々に薄れ消えていく黒い身体。
それ以上に見向きすることなく、俺は背後を振り返る。
そこには腕から血を流したシャドウトンの姿。
咄嗟に影分身でスタースラッシュをかわしはしたが、完全ではない。
野郎の左腕。肩から先は切断、失われていた。
「シャドウトン。貴様の暗殺術など俺の前では児戯同然。次で殺す」
「かははっ。シューゾウ。おんしは大した奴じゃが……おんしの仲間はそうでもないようぜよ?」
シャドウトンが顎で示す先。それはカルフェが黒装束の男たちと剣を交える姿。
ズバーン
切り裂かれ血が舞うカルフェの姿であった。
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