第90話 帝国軍の補給ルート

自宅で一夜を過ごした翌日。

俺たちはダミアン村 領主の館へとやって来た。


「シューゾウ伯爵に着いてダミアン村に来ることが出来て良かったよ。おかげで父さんの屋敷を取り戻すことが出来たからね」


領主の屋敷で待つのはマルクス団長。

村に住みつく野盗を退治したことで、気分良さげであった。


とはいえ、かつて綺麗であった領主の屋敷はボロボロ。野盗に荒らされたことに変わりはなく、室内の調度品のほとんどが消えてなくなっていた。


「それがね。村を荒らしたのは野盗じゃないそうなんだ。野盗の首領を退治する時に聞きだしたんだけど、先に帝国軍に荒らされた後だったそうだよ」


まあ、仕方のない話。

敵国に占領された街や村がどうなるかは自明の理。調度品が持ち去られた程度で済んだのだから、帝国軍もなかなか品が良いとというべきか。


「でも、野盗は略奪が目当てで村に来たんだから、それじゃ困るよね? それで今度は帝国軍を襲おうと計画していたそうだよ」


うーむ。略奪のために軍隊を襲おうという勇気は買うが、さすがに無謀というもの。たかが野盗が倒せるほど帝国軍は甘い相手ではない。


「それがね。何でもダミアン村の街道は帝国軍の補給ルートになってるそうなんだ」


ほう?


「建物に潜んで、補給部隊がダミアン村を通り抜ける所を襲うと。そう計画していたそうなんだ」


この地は帝国軍の占領地。本来なら敵の出ない安全地帯。

補給部隊を護衛する兵士も少数なら、油断もしているだろう。

建物に隠れて奇襲するなら勝機は十分にある。


すでに略奪、めぼしい物は持ち去られた後だというのに、野盗がダミアン村に住みついていたのはそれが理由。


……ということは、俺たちがダミアン村に潜んでいれば、いずれ帝国軍の補給部隊が通りかかるというわけだが……


「シューゾウ伯爵。どうしようか? せっかく取り戻した村だけど、このまま留まっているのは危険だよね?」


どうするも何も当然に決まっている。


「ダミアン村は俺たちの村。帝国の補給部隊が通るというなら、連中から通行税をいただくとしよう」


今回の行軍はあくまで偵察。

ダミアン村とその近辺の様子を覗いて帰るつもりであったが、予定を変更。

野盗に代わり、帝国軍の補給物資を頂く。


「いや。前線への補給部隊だから、そんな柔な相手じゃないよ。野盗も凄腕の傭兵を雇って準備していたそうなんだ」


ほう?


「暴風のトルコ。僕も噂は聞いたことがある。二本の刀を操るという有名な傭兵。彼の振る剣は盾で受け止めることが出来ないって聞くよ」


まあ、確かにそこそこの腕を持つ相手であった。


「でも、暴風のトルコの姿が見えないね? 契約がまとまらなかったのかな?」


「暴風のトルコなら、俺が倒した」


「えっ?! シューゾウ伯爵が?」


驚いたように俺の顔を見るマルクス団長。


「でも……シューゾウ伯爵って確か生産クラスだったよね? それで凄腕の傭兵を倒したの?」


そういえば先の戦場。マルクス団長は片腕を失う大怪我で気絶。俺の大活躍については知らないままであるため、3年前の貧弱な俺しか知らないわけだ。


「俺は教和国の鉱山ダンジョンで3年間修行した。その成果だ」


「でも……生産クラスがいくら修行しても、無理に思えるんだけど……」


「大丈夫。おにいは強い。暴風のトルコを倒すところはカルフェも見た」


カルフェのその言葉にマルクス団長は納得する。


「そっか。カルフェちゃんが言うなら本当だね」


……まあ俺よりカルフェを信用するのも当然。

ぽっと出の俺とは異なり、2人は長年同じダミアン騎士団で活動した仲。

お互いの強さを知っているだろうから。


「分かりました。それではシューゾウ伯爵。僕たちダミアン騎士団に指示を」


そう言って俺の前に片膝をつくマルクス団長。


「その、マルクス団長。あまりかしこまらないで欲しい。伯爵といっても元の俺はダミアン村の村人。マルクス団長のお父さん、ダミアン男爵にはお世話になった身なのだから、今まで通りフランクにして貰いたい」


マルクス団長は領主の息子でありながら、村人の俺にも優しくしていただいた相手。立場が逆になった途端に横柄に接したのでは、俺の人間性が疑われるというもの。


「いえ、でも伯爵ですから」


「問題ない。それよりだ、マルクス団長。補給部隊の襲撃について指揮をお願いする」


何せ俺に部隊を指揮した経験はない。エルフの国で教和国と戦った時も、兵士の指揮はイクシードに任せていたのだから。


「それなら……うん。分かったよ」


その後、部隊はマルクス団長の指示により、村内各地の建物に分散。

補給部隊がダミアン村を通過する日を、身を潜めて待つことにした。




数日後。偵察に出た団員により、帝国軍補給部隊の接近が知らされる。


「荷馬車が5台。護衛する兵士は200人ほどだそうだよ」


対するダミアン騎士団は俺をふくめて20名。

馬車が5台にしては護衛する兵士が多いようにも思えるが……


「まあ、トリプルクラスの俺がいるのだ。何人いようが楽勝である」


「いや……僕たちの10倍だよ? どう考えても楽勝じゃないよね? 襲撃はやめておこうか?」


チラリ。マルクス団長はカルフェの顔を覗き見る。

何故に俺ではなく、カルフェに確認するのか?


「大丈夫……たぶん」


そして何故にカルフェの返事も自信無さげなのか?


凄腕と恐れられる傭兵を一刀両断にした俺の力。今一度示すためにも。

イグノスース城で壊滅したダミアン騎士団。今一度再建するためにも。


「マルクス団長。襲撃の指揮を頼む」


俺はあらためてマルクス団長に指示を告げる。


「……分かったよ。シューゾウ伯爵を信じるよ」


信じる者は救われる。

後はその判断が間違いではないことを証明するだけである。


────────────────────────

すみません。お久しぶりです。作者のくろげぶたです。

更新が止まっていましたが、続きを書きましたので更新します。

ストックが切れるまで(水)(土)更新予定。

近況ノートも更新、人物紹介コーナーもありますので、よろしければご覧ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る