第82話 神技! アルティメット・ガード・リペア!

「シューゾウ! メテオがもう1つ来るぞ!」


ナディーンの声に空を見上げれば、頭上に見えるメテオが1つ。

敵の包囲を脱しようとする味方を狙っているのか?


メテオが落ちようとする先を見る限り、味方の数はわずか500程。たかが500の兵を潰すのにメテオを落とすとは、メテオの無駄遣いも良い所である。


メテオに潰される味方には残念だが、敵のメテオを1つ無駄撃ちさせてくれたのだ。

最後に手だけでも合わせておこうと味方に目をやれば──


「ダミアン騎士団が騎士。カルフェが道を切り開く! みんな我に続け! あと一息だ! 頑張れ!」


味方を率いて敵陣を突破する。その先頭に立つ騎士が発する声は、どこか聞き覚えのある声。見覚えのある姿。


あれは──カルフェ!


「ママさん……俺に炎魔法を打ち込んでくれ」


俺は装甲馬車の中。隙間から矢を放っているママさんに声をかける。


「あなた……はい。ファイア!」


切羽詰まる俺の声に、ママさんが炎魔法を詠唱する。


火事場の馬鹿力を発揮するには、火災が必要。

だが、俺が引く装甲馬車は鋼鉄製。炎魔法だろうが燃えることはない。

周囲に燃える物がないというのであれば……俺の身体を燃やせば良い。


-------------

※※ 火事場の馬鹿力(S)全力発動中!    ※※

※※ 全スキルが一時的に1ランクアップします ※※

※※ 全ステータスが一時的に1.5倍となります※※


スキル:リペア  (S)→(SS)限界突破中!

スキル:ストレージ(S)→(SS)限界突破中!

スキル:デストラクション(A)→(S)


スキル:消費成長 (S)→(SS)限界突破中!

スキル:自動回復 (S)→(SS)限界突破中!


スキル:剣術(A)→(S)

    槌術(A)→(S)

    盾術(A)→(S)

    投擲(B)→(A)

    採掘(A)→(S)

    拷問(F)→(E)

  騎馬(E)→(D)

    毒耐性(F)→(E)


魔法:水魔法 (C)→(B)

  :火魔法 (C)→(B)

  :風魔法 (C)→(B)

  :土魔法 (C)→(B)

-------------


火事場の非常時に力を発揮するのが俺のスキル。火事場の馬鹿力。

ならば今。カルフェの頭上にメテオが迫る今がその非常時である!


俺の身体が炎に包まれると同時。

全ステータスが上昇。そして全スキルが1ランク上昇。

ランクの上昇した騎馬スキルを全開に、俺は装甲馬車を加速させる。


何とか御者席にしがみつくナディーンに対して、暗殺者は馬車から転げ落ちていた。


「お前は賢者を探し暗殺しろ!」


馬車を離れる暗殺者に最後の命令を与える。

荷台のエルフたちは大丈夫だろうか? 今は気にしている場合でない。


「シューゾウ! どうするつもりだ! メテオが落ちるぞ!」


炎をまとい加速する俺の身体だが、まだ速度が足りていない。

すでにメテオは落着寸前。もっと速度が! もっとパワーが必要!


もっと。もっと燃えてくれ。俺の火事場の馬鹿力。

今、燃えなくてどうする。今が非常時。ここで燃えずにいつ燃える!


「ママさん! ナディーン! モアパワー!」


「はい! ファイア・ボール!」

「よし! 鞭打てば良いのだな!」


ナディーンの鞭が俺の身体を鞭打ち、ママさんのファイア・ボールが直撃する。


九死一生は底力。窮地に追い込まれれば追い込まれるほどに増す力。

ファイア・ボールの炎は俺の頭髪から足先まで全身全てを包み込み、鞭で破れた皮膚の下、身体の奥底にまで達した炎が俺のHPを極限まで削り切る。


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※※ 全スキルが一時的に2ランクアップします ※※

※※ 全ステータスが一時的に2倍となります! ※※

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全身から炎を吹き上げる俺の身体が装甲馬車を超加速。


「カルフェエエエェェェ!」


進路を邪魔する敵兵を根こそぎ跳ね飛ばし、装甲馬車はカルフェの元まで辿り着く。


「!? おにい!」


すでにカルフェの、味方の周囲に敵兵の姿はない。

メテオの落着に備えて、敵はいち早く撤退したようだ。


俺はバビロンの盾を手に、装甲馬車の屋根へ飛び乗る。

頭上に迫るメテオ。

左腕のバビロンの盾を空中に。両手でもってメテオへと突き出した。


「神技! アルティメット・ガード・リペア!」


ズドカーン!


装甲馬車の屋根の上。

両足から馬車へと。両手から盾へとリペアを全開。

俺は誰よりも高い位置で、メテオを受け止める。


瞬間。周囲一面に発生する衝撃波。


それだけで致命傷となりえるソニックウェーブが発生するが、アルティメット・ガードはSランクアーツ。周囲の味方への遠距離攻撃を防ぐという効能により、味方の兵に被害はない。


だが……重い。

受け止めたは良いが隕石の勢いはまだ死んでいない。

当たり前である。成層圏から飛来する隕石を受け止めようというのだ。


リペアする盾と装甲馬車は壊れずとも、その落下重力は自動回復を越えて盾を支える俺の腕を砕き、俺の身体を破壊していく。


九死一生を最大限に発揮させるべくHPを低下させていた俺にHPの余裕はない。

このまま押しつぶされては俺の命は終わる危険状態。


「シューゾウ!」

「おにい!」


駆け出す2人が装甲馬車へと飛び乗り俺の元へ。

隕石を受け止めるバビロンの盾へと手を伸ばす。


「私も助太刀するぞ! フルメタル・ガード!」

「カルフェも! シールド・ガード!」


3人のスキルにより輝くバビロンの盾。

拮抗するメテオの力。俺たち3人の力。


そういえば有名な格言があった。

戦国時代、毛利家であったか……1本の矢は容易く折れるが──


「3本の矢は折れない! アルティメット・フルメタル・シールド・デストラクション!」


パカーン!


デストラクションは破壊の力。

モーリ家の力をあわせた3人のスキル。

受け止める隕石は打ち砕かれ、細かな破片となり周囲へ崩れ落ちて行った。


「おにい!」

「やった! やったぞ! シューゾウ! 私たちがメテオを! メテオを防いだのだ!」


やったは良いが、あまり俺に抱き着かないで欲しい。

今も俺の身体は燃えているのだ。火傷する。

というわけで2人の身体を引き離して水魔法で消火する。


「おにい! 領主様とマルクス団長が!」


カルフェが指さす先は、敵本陣。

2人と団員は脱出するカルフェたちの囮となるべく、敵本陣へ突撃したという。


だが……見える敵本陣は静かなもの。争う音は何もない。

つまりは突撃した者、全員既に……


「っ! カルフェが! カルフェが助けに行く!」


「俺が行く! カルフェは残る兵を率いてイグノース城へ向かってくれ!」


せっかく敵の包囲を抜けたのだ。

領主様とマルクス団長、団員たちが身を挺して守った兵士たち。

彼ら生き残った兵だけでも、避難させねばならない。


「ナディーン。ママさん。みんなもうひと働きしてくれるか?」


「当然だ。私はまだまだ元気だぞ!」

「ふふ。どこまでも一緒ですよ」

「うひ。敵……もっと、もっと!」


力強い返事に俺は再び装甲馬車を引き、帝国本陣を目指して走り出す。



「賢者殿……メテオが……メテオが防がれたようです」


「まさかね……普通は盾で受け止めるなんて不可能なんだけどなあ……」


あまりの光景に緑茶を飲む賢者の手が止まっていた。

さて。どうしたものかと思案する間、周囲一面が暗闇に包まれる。


「これは……闇魔法?」


「賢者殿。用心してください! 光よ。闇を払え。ライト」


お付きの兵が照らす光。だが、その光は闇に飲み込まれる。


「くっ。私のライトが通じない? この闇。かなりの使い手です!」


暗闇の中。剣戟の音だけが響き渡る。

しばらく後。暗闇の晴れた後には、賢者の周囲に倒れる多数の兵。

そして漆黒の外套を身にまとう男。片腕の男が地面に倒れていた。


「はあ。はあ。夜目スキルのおかげで……何とか倒しましたが……ごふっ」


お付きの兵は吐血した後、地面に倒れ伏す。


「猛毒? この外套はノワールの人間だね。だとするなら解毒剤を身体のどこかに仕込んでいるはずなんだけど……」


暗殺者の身体を探ろうと人力車を降りる賢者。

その目の前に、周囲の兵士を吹き飛ばして1台の馬車が滑り込んでいた。


「暗殺者がやられたか。だが、お前が賢者だな?」


全身が炎に包まれた男。炎に包まれ何故に動けるのか?

そもそも何故に男が馬車を引いているのか?

鋼鉄の装甲で覆われた馬車。とても1人の人間が引ける重量ではないはずが。


だが、それ以上の思考は停止する。


ドカリ。


賢者の腹にパンチを1発。気を失った賢者の身体を男は荷台に放り込む。

暗殺者の死体から首輪を抜き取ると、男は馬車を引いてその場を走り去る。


「け、賢者殿がさらわれた! 馬車を、馬車を逃がすな!」


慌てたように周囲の兵が弓を、魔法を放つが、命中する矢にも魔法にも装甲馬車はビクともせず、帝国兵の囲みを突破。イグノース城へと走り去っていた。

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