異世界に転生したので冒険者を目指そうと思ったが俺のクラスは生産系の修理工。これって戦闘に向かないのでは? だが、前世のある俺だけ2つ目のクラスがあった。やれやれ。これなら何とかなりそうだ。
第81話 古代における戦車とは、戦闘用馬車のこと。
第81話 古代における戦車とは、戦闘用馬車のこと。
2頭の馬に引かせた装甲馬車が街道をひた走る。
「シューゾウ! 前を見ろ!」
ナディーンの声に見つめる先。イグノース城のあるだろう空に黒い塊が4つ。
空気を切り裂き、白い糸を引いた隕石が地面へ落ちていく様が見えていた。
「メテオか……しかも4発」
バニシュ砦では3発だった隕石が1発増えている。
帝国賢者も成長しているというわけだ。
「ナディーン。馬を切り離してくれ」
ここまで休みなく駆けて来たのだ。
いくら装甲馬車のために用意されたエリート騎馬であっても体力の限界。
「馬を逃がしてどうするつもりだ? 徒歩で行くのか?」
当然、違う。
「ここからは俺が馬車を引く」
俺は以前に教和国兵から奪った白銀鋼の鎧を全身に荷台を降りる。
ここまでの道中。馬に馬車を引かせる間、強化した白銀鋼の鎧+10。
「いや……伯爵であるシューゾウに馬車を引かせるのは、さすがによくないぞ?」
「伯爵だろうが何だろうが関係ない。今は一刻も早く戦場におもむき味方を援護する。そうだろう?」
俺のLVは43。トリプルクラスの恩恵もあって身体能力は馬を優に上回る。
さらには騎馬スキルもあるのだから、馬車を引くに俺以上の適任はいない。
「シューゾウ。お前という男は……うおおおお! 分かった。お前は私が守る。だから行くぞ!」
そう言うとナディーンは俺の身体に鞭を入れる。
全速力で駆ける装甲馬車。
やがて森を飛び出し、戦場が一望できる場所まで辿り着く。
前方に見えるイグノース城は無事。ならばメテオは何処に落ちたのだ?
「見ろ! イグノース城から出た騎士団が壊走している!」
城の前に出来たクレーター跡には無数の兵士が倒れる。
「イグノース城を出たところをメテオにやられたようだぞ!」
先程のメテオ。城ではなく兵士を狙ったというわけか。
だとするとカルフェは? ダミアン騎士団は無事だろうか? 何処だ?
「敵の本陣に乱れがある。味方は左右から敵本陣へ奇襲しているようだぞ」
なるほど。左右から奇襲。敵が混乱したところで正面から本体が突撃する。
そういう作戦だったのだろうが、城を出た所でメテオを落とされ本体は壊滅。
さらには敵兵の追撃を受け、城へ逃げ込もうと壊走していた。
このままでは敵本陣を奇襲した味方は敵陣に取り残され、殲滅される。
「ナディーン。俺達はこのまま正面から突っ込むぞ!」
装甲馬車はイグノース城の前を通り過ぎる。
メテオにより壊滅。イグノース城へと壊走する味方とすれ違うと敵兵の集団。
その只中へと、俺はバビロンの盾を構え突っ込んだ。
「シールド・チャージ!」
ドカーン
シールドチャージは盾を正面に突撃するスキル。
進路に立ち塞がる敵兵を跳ね飛ばし装甲馬車は突進する。
「なんだ! この馬車は!」
「どこから迷い込んだのだ?」
「これは皇室が使用する装甲馬車ではないか!」
御者席ではナディーンが槍を振り回し、馬車の窓からエルフたちが群がる敵兵へと矢を射かける。
「ぐあーっ!」
「なんだ? 馬車で戦うつもりか!?」
当然。そもそも古代における戦車とは、戦闘用馬車のこと。
馬に引かせたチャリオットで戦闘を行ったというのだから、馬車でもって戦うのに不思議はない。
「この馬車! なぜ人間が馬車を引いているのだ?」
「馬でもないのに、なんだこの馬車のスピードは!」
「慌てるな! 馬車を引く人間を狙え! 矢を射かけよ!」
馬車の弱点。それは何より馬車を引く馬にある。
馬がいなくなっては、その機動力を失っては馬車などただの標的でしかない。
敵兵が一斉に馬車を引く俺を狙って矢を放つが。
カーン カーン
俺が全身にまとうのは白銀鋼の鎧+10。半端な矢は受け付けない。さらには鎧のない箇所に多少の矢が突き刺さろうとも、俺のHP的には何の問題もないわけで。
「くっ。まるで止まらん!」
「ええい! こうなっては馬車だ! 馬車を狙え!」
勇敢にも馬車を破壊しようと、敵の魔導兵が足を止め魔法を詠唱する。
「馬車如きワシの魔法で粉みじんよ。ファイア・ボール!」
ドーン
ファイア・ボールが直撃するも、装甲馬車はビクともしない。
俺がリペアするのだから当然。
さらには普通の馬車とは異なり、車体全面に鉄板が張られているのだ。
炎で延焼することもない。
「なっ?! 魔法が直撃したはずが……ぎゃあーっ!」
「あの馬車。まるで針ネズミの如き矢を放って……ぐあー!」
もちろん弱点はある。
馬車内からエルフたちが敵を射るには、窓を開かねばならない。
開いた窓を狙われては、装甲も意味を成さない。
だからこそ開く窓は最小限。
エルフたちは僅かな隙間から矢先だけを覗かせ、次々と敵を射抜いていく。
もしも車内に被害が生じた場合も、エルちゃんをはじめとしたヒールを使えるエルフが待機しているため、不安はない。
そして。ナディーン。
こちらは御者席に座るのだから、俺と同じく狙われるわけだが。
「ナディーン。危ないようなら車内へ避難してくれ」
「舐めるなよ! 私は騎士。多少の矢や魔法など恐れるものではない!」
御者席から槍を振り回して馬車左右の敵を叩き飛ばすナディーン。
その全身には親衛隊の鎧+10。ここまでの道中。ナディーンの装備一式。
そして馬車内のエルフの弓を全て+10まで強化済みである。
そしてナディーンと同じく御者席に座る暗殺者であるが。
「闇よ。我らの周囲に暗黒の幕を下ろしたまえ」
闇魔法にて、俺達の馬車周辺は闇に閉ざされる。
「なんだ? まだ昼だと言うのに周囲が暗く?」
「これでは敵の馬車を狙えんぞ!」
「うろたえるな! これは闇魔法だ」
「ライトで照らせ! 恐れるな!」
だが、暗殺者の闇魔法はSランク。
一般兵の使うライトで晴らせるほど甘い闇ではない。
そして不思議なもので、俺達からはいつもと変わらず見通すことができる。
普通の闇ではない。魔法の闇とはそういうものなのだろう。
暗闇に混乱する敵陣を突破。
兵士を跳ね飛ばして、俺の引く装甲馬車は敵の本陣を目指して突撃する。
「シールド・チャージ!」
ドカーン
「ぐわあー!」
「装甲馬車を引いてチャージするのだ。とうにMPが尽きるはずが」
「さっきからこの男。スキルを使いっぱなしではないか?」
「まるで止まらん! どうすれば……ぐわあー!」
ダミアン騎士団。カルフェが何処にいるかは分からない。
となれば敵本陣を落とす。
本陣を落とされた敵が退却するなら、カルフェも味方も助かるというわけだ。
・
・
・
「父さん。これ以上は」
「父さんではない。領主と呼べと言ったじゃろうが」
メテオの落ちる様子に、2人はイグノース城を出た味方主力の壊滅を予感していた。
それを裏付けるように、ダミアン騎士団が率いる兵1千に押されていたと見える敵軍は、息を吹き返したかのように反転。反撃に転じていた。
「この兵。先程まで逃げ腰一辺倒だったのに……強い」
「どうやら壊走したように見えたのは敵の芝居。ワシらは引き込まれたようじゃ」
すでにダミアン騎士団と兵1千は、敵に包囲されていた。
「ダミアン騎士団。撤退するぞ! 包囲を突破し脱出する!」
マルクス団長の号令に杖を構える兵士が1人。
「ファイア・トルネード」
壁となる敵兵を炎の竜巻で吹き飛ばす。
できた間隙を縫って小柄な騎士が1人飛び出すと。
ズバズバズバーン
騎士の振る白銀の煌めきは敵兵の鎧を兜を盾を切り裂き、道を切り開く。
「おお! ハンブル、カルフェちゃん。2人ともお見事じゃ」
「父さん」
「うむ。わしらは死んでも構わん。じゃがカルフェちゃんは、若い騎士たちは何としても助けねばならん」
「はい。そのためにも僕たちは敵将を、敵本陣へ突撃しましょう!」
敵はダミアン騎士団を誘いこむのに成功した反面、今の位置。
ダミアン騎士団にとっては逃げるより、敵本陣の方が近い位置にある。
「カルフェちゃん。ハンブルはそのまま兵を率いて敵を突破! 脱出を! ダミアン騎士団。古参の兵たちは、すまないが敵本陣へ付いて来てくれ!」
敵本陣を脅かすとなれば、包囲する敵兵は本陣の守りに回る。
味方が脱出する隙が生まれるというものである。
「うむ。ここが我らの死に場よ」
「まだ俺らの奇襲は終わっちゃいないぜ」
「2人は俺らの家族によろしく伝えてくれ」
「2人とも。達者でな!」
ダミアン領主。マルクス団長。古参の団員たちは、脱出を目指す兵とは逆方向。
敵の中心。本陣を目指して突撃する。
「領主様……マルクス様……」
「カルフェさん。僕たちは兵を守らなければ、兵を脱出させなければ。それが僕たちの任務です」
「……うん。我はダミアン騎士団が騎士。カルフェ。兵たちは我に続け! このまま脱出する!」
ダミアン領主たちと別れたカルフェ。味方兵に先立ち敵陣へと切り込んで行った。
・
・
・
「うーん。どうにも左翼の包囲を突破されそうだねえ」
「はい。ダミアン騎士団を名乗る敵ですが、どうも腕利きがいるようでして……」
「まあ。それならそれで良いかな。ちょうどメテオが1発、余っているしね」
「過剰では? 包囲を突破するといっても敵兵は500程ですよ」
「駄目だよ。手ごわい敵を逃がしたら次にやられるのは私たちだからね」
賢者が再び両手を天に掲げる。
「火よ。土よ。2つの力を1つに。今、天から裁きの鉄槌を。メテオ」
賢者が詠唱を終えると、天より飛来する隕石が1つ。
逃走を図ろうとするダミアン騎士団。カルフェたちの頭上を目指して落下していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます