第76話 馬車での新婚旅行も、ロマンチックで良いものですよね

拷問の結果。俺はオイゲン侯爵と共に神聖教和国へ寝返ろうとする派閥貴族。

その全員の名前を聞き出した。


そして、アンドレの屋敷地下に奴隷エルフが捕えられていることも。


気絶したアンドレを縛り上げた俺は、アンドレを担いだまま屋敷地下へと足を踏み入れる。地下入口に立ちふさがる兵士を排除して辿り着いた牢屋には、6人の男女エルフが囚われていた。


ただ、教和国とは異なり腕を切り落とされてはいない。

傷つき衰弱しているだけのようである。


「囚われたエルフだな? 救助に来た。安心して欲しい」


「ひいいっ……」

「お助けを……」


俺の姿にもエルフたちは怯えたまま。

それも当然。俺もまたエルフを捕えた者たちと同じ。人間なのだから。


「俺は森林の四つ葉。ユーカリのシューゾウ。女王からの依頼により救助に来た。安心して欲しい」


俺の掲げるメダルを見たエルフたちは落ち着きを見せる。


「デストラクション」


エルフを縛る鎖。閉じ込める檻を破壊する。

その後、囚われたエルフ。その奴隷の首輪に手を添えた。


「HPはいくつある?」


「? 600だ」


「2万デストラクション」


パリーン


MP2万を消費して奴隷の首輪を破壊する。


「な、なんと! まさか首輪が外れるなんて! あ、ありがとう!」


HPが500を越えるという他の3人についても同様に破壊。

残る2人のうち1人のHPは300。3万デストラクションで破壊する。


「ほ、本当に森林の四つ葉なのね! こんな真似が出来るなんて!」

「女王様が私たちのために! ありがたいです!」


そして最後に残る1人だが……男の首には赤い宝石の付いた首輪。


「そ、その男どうにも様子がおかしいんだ……」

「俺達を守って最後まで戦ってくれた腕利きのエルフなんだが」

「奴隷の首輪をはめられてからは、まるで廃人になったようで……」


洗脳の首輪。神聖教和国が開発したという首輪がここにあった。

これこそアンドレたちオイゲン侯爵派貴族と神聖教和国が共謀している証拠そのもの。


「5万デストラクション」


腕利きだというからHPは多いだろうが、念を入れてMPを5万消費。

洗脳の首輪を破壊する。


「はっ! お、俺はいったい……?」


「良かった。俺たち全員助かったんだ!」

「シューゾウさま。ありがとうございます!」

「噂に聞く森林の四つ葉。さすがです……ぽっ」


合計消費MP15万。それでもまだMPは2万近く残る。

これもEXクラス エルフ特性によるMP1.5倍の恩恵。


砕け散った洗脳の首輪。その破片を拾い集めてストレージに収納する。


さて……奴隷エルフを解放したは良いが、どうしたものか……


領主は敵。兵士も敵。衛兵も敵。街中全部が敵である今。

6人ものエルフを連れて、フックス男爵領からどう脱出するか。


徒歩は無理。

6人もゾロゾロとエルフを連れ歩いては、目立ち即座に衛兵に囲まれる。


馬車か何かが必要。

仮にも領主の屋敷。馬車の1台や2台はあるはずだ。となれば。


「この中で馬車を運転できる者はいるか?」


「俺が出来る」


俺の渡す薬草で電流の怪我を癒したエルフたち。

ここまでの道中で始末した兵士の武器を手に武装させる。


その後、エルフを引き連れて1階へ。

時刻は早朝。起きだして来たメイドを捕まえ、馬車の場所を聞き出し移動する。


「全員、馬車に乗ってくれ」


気絶するアンドレを荷台に放り込んだ俺は、運転手と共に御者席へ。

他の5人が荷台に乗り込んだ所で馬車を走らせる。


「おい! なんだその馬車!」

「おい! 止まれ! 止まらんか!」


突然に飛び出した馬車に驚き制止する兵士を無視して、馬車はフックス男爵の屋敷を飛び出した。


「まずは宿屋に寄ってくれ」


早朝。人通りのない街路を馬車が疾走する。

俺の案内に従いエルフが操る馬車は、ママさんエルちゃんの宿屋前に停車した。


屋敷を飛び出したばかりの今、追いかける兵士の姿は見当たらない。

俺は馬車を飛び降り、部屋へと走り込む。


「ママさん。エルちゃん。街を出るぞ」


こうなることを予想していたのだろう。


「はいなのです」

「ふふ。馬車での新婚旅行も、ロマンチックで良いものですよね」


すっかり準備を整えていたママさん。エルちゃんが馬車に乗り込んだ所で、再び馬車を走らせる。


その頃には、フックス男爵邸の兵士から連絡が入ったのだろう。

馬車を遮るよう衛兵が道の先に現れる。


突っ切れ。と言うまでもなく馬車は直進。

慌てて飛び避ける衛兵を他所に、馬車は街路を駆け抜ける。


「シューゾウ様。どちらへ向かえば?」


御者を務めるエルフの問いかけに。


「南へ向かってくれ。正統帝国の首都、正統帝都を目指す」


「え? 北へ。エルフの国へ逃げるんじゃないのか?」


逃げる必要などない。


馬車に乗るのは、アンドレとエルフたち。

オイゲン侯爵と派閥貴族による離反の生き証人。

このまま正統帝都へ。皇帝陛下へ直接に報告する。


逆に北へ。エルフの国へ逃げては、エルフの国へと攻め込む口実を与えるだけ。

連れ去られたアンドレの奪還を口実に、オイゲン侯爵はエルフの国へ騎士団を派遣するだろう。


オイゲン侯爵が抱える騎士団は、ダミアン村への貴重な援軍。

正統帝国とエルフの国が衝突して、無駄に兵を損耗させる訳にはいかない。


「だが、街の出口が! 封鎖されてしまう!」


街の南門を目指して疾走する馬車。その様子に気づいたのだろう。

衛兵の手によって南門が閉じられようとしていた。


動きが速い。アンドレはともかく、フックス領兵の練度は高いか。


馬車の到着前に門が閉じる。

馬車を飛び降りた俺は、ツルハシ+40を手に門へと走り寄る。


「止まれ! 貴様! 何者だ!」

「馬車で街路を暴走するなど!」

「取り押さえろー!」


俺を取り押さえようと詰所から衛兵がパラパラと出て来るが。


「夫を守るのは妻の役割ですのよ」

「敵……敵なのですよ!」


エルフに結婚はないため、俺は夫ではない。

とにかくママさんエルちゃん。その他エルフさんが弓矢で援護する。その隙に。


「採掘・デストロイ・クラッシュ・デストラクション!」


ドカーン


デストロイ・クラッシュはAランク槌術アーツ。

さらには採掘、デストラクションもAランクとパワーアップしている。


ツルハシに掘られた門扉は、一撃で粉々となり吹き飛んだ。


素早く走り出す馬車へと飛び乗り、門を抜ける。


「待て! 逃がすな! 撃て撃てー!」


走り去る馬車を目掛けて、矢や魔法が飛ぶが。


「リペア」


その程度、いくら直撃しようが馬車が壊れることはない。

唯一の懸念点は馬車を引く馬だが、今のところは元気いっぱい。


駆ける馬は馬車を引いて街道を南へ。正統帝都へ向けて走り出した。

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