第73話 俺も酒場でエルフ狩りに関する情報を集めてみるとしよう。

フックス男爵の領地。

男爵の屋敷のある街へと俺たちは辿り着いた。


宿の部屋にママさんエルちゃんを残して、俺は1人。

フックス男爵の屋敷を訪問、入口の門番に話しかける。


「すまない。アンドレ男爵に面会したいのだが?」


「は? いきなり誰だお前?」


「バニシュ砦で整備班として一緒に勤務したシューゾウだ」


「バニシュ砦え? で、面会の予約はあるの?」


「当然。ない」


「じゃあ予約してね」


「はい」


俺は面会予約をして宿に帰った。


「あなた。お帰りなさい」

「帰るのが早いのです。これは失敗なのです」


面会予約は出来たのだから失敗ではない。


「でも相手は男爵ですよね? この国であなたは一般人。予約しても面会してくれるかしら?」


アンドレと共にバニシュ砦で過ごした日々は短い。

それでも同じ釜の飯を食べ、同じ死地をくぐり抜けたのだ。

俺とアンドレの間には、友情とも呼ぶべき絆が芽生えていた。


「そのわりには、パパの装備を借りパクされたのです」


おのれ。痛いところを突くようになったものである。


「あらまあ……友達だと思っていたのは、あなただけ。本当は友達じゃなかったのかしら?」


……どうやら面会が駄目だった場合に備えて、別の手を考える必要があるようだ。


そもそもアンドレに面会するのは、エルフ狩りについての事実を確認するため。

別に借りパクされた装備を取り返すためではない。


エルフ狩りについて話を聞く相手は、アンドレでなくとも構わないのだ。


「ちょっと酒場に行ってくる」


確かヴァレンチンは酒場で情報を集めたと言っていた。

ゲームなどにおいても酒場での情報収集は基本である。

俺も酒場でエルフ狩りに関する情報を集めてみるとしよう。


「いらっしゃいませ。お1人でしたらこちらへどうぞ」


そんなわけで酒場に来たのは良いが……

周囲はグループで楽しく酒を酌み交わす中、俺は1人カウンターの隅でコソコソお酒を飲むだけ。


これでどうやって情報を集めろというのか……?

この状況下で俺が唯一話しかけることができる相手といえば。


「マスター。お代わりを頼む」


スイー


マスターはカウンターの遠くから無言で俺の前までグラスを滑らせる。


うむ。マスターの腕前は見事。

だが、これではマスターと話すことすら出来ないではないか……


「うふ。お兄さん。1人なのお?」


そんな1人ちびちびグラスを傾ける俺に、声がかけられた。


「私も1人なのお。田舎から出たばかりでえ、友達もいないのお」


見ればまだ年若い女性。これは噂に聞く逆ナンというやつであろうか?

やれやれ。今はそんな場合ではないのだがな……イケメンすぎるのも考え物である。


「良ければ私と一緒に飲まないですかあ?」


だが、女性が俺のイケメンマスクに見とれているなら、利用するまで。

この女性を相手に情報を集めるとしよう。


「マスター。お酒をお願いするわあ。お兄さんのおごりよお」


まあ、その程度の出費。情報料としては当然である。


「うふ。この高級酒。美味しいわあ」


「女性の方。少し聞きたいことがあるのだが?」


「うふ?」


「エルフにより住民が襲われたという話。聞いたことはあるか?」


「あー……あれねえ。もう少し飲めば思い出せそうだけどお……良いかしらあ?」


そういうことであれば、もちろんである。


「マスター。お酒とおつまみもお願いするわあ。お兄さんのおごりねえ」


この程度の出費。情報料としては当然である。


「それでだ。エルフに襲われた人物などの情報を知っていれば教えて欲しいのだが?」


「そうだわあ! 多分私の友達が知ってる。呼んでみるわあ」


いや。呼ぶといっても携帯もない異世界でどうやって……?


女性が手を上げると、奥の席から男が2人。俺の近くまで近寄って来た。


「みんなの分もお兄さんが奢ってくれるそうよお。注文すると良いわあ」


「マジっすか?」

「あざっす!」


女性さん。友達がいないと言っていたような気がするのだが……


「お客さん。大丈夫ですか? 結構な金額になりますが?」


俺の懐事情を心配したのだろう。マスターが確認する。


まあ、この程度の出費。情報料としては当然である。

俺はストレージから金貨を取り出しマスターに手渡した。


「全部使い切って構わない。もしも足りないならまた声をかけてくれ」


俺がマスターに金貨を渡す様子。見つめる3人の目が怪しく輝いていた。


「それにしてもお。エルフに襲われた住民ねえ。何か知ってるう?」

「おう。フックス男爵がエルフを捕えようと必死らしいぜ」

「以前の大失態を取り返そうと必死なんじゃないっすか?」


フックス男爵。アンドレか。にしても大失態とは何だ?


「うふ。帝国賢者のメテオから砦を守った英雄だってことでえ。男爵になったのお」

「それで皇帝の命令で、大勢の修理工を率いて前線の砦に行ったは良いが」

「メテオでボコボコ。連れて行った修理工は全員死んだっす」


修理工は生産クラス。戦闘力は皆無なのだから、戦場のど真ん中で修理しようとするなら当然に死ぬ。アンドレ自身が修理工なのだから分かるだろうに。


「それでえ。皇帝の信頼を失っちゃったみたいなのお」

「フックス男爵を推薦したオイゲン侯爵にも、恥をかかせたと怒られたらしいぜ」

「それからっすよ。エルフに住民が襲われたって噂が流れだしたのは」


つまり正統帝国におけるアンドレの立場は悪いわけか。

その後。金貨1枚分を飲み食いした3人。


「そうだわあ。エルフに襲われたって友達がいるのよお」

「おう。そうそう。お兄さんを連れて行ってやるか」

「そっすね」


「そうか。では案内を頼む」


店を出た俺は3人に付いて暗くなった夜道を歩く。

街灯のある道路を外れ、明かりのない細道へ入ったところで。


ドカリ


俺の首筋に棒状の物が叩き込まれていた。


「ぎゃはあ。こいつ馬鹿だわあ」

「こんな所までノコノコ付いて来てよお」

「有り金を全部出すっすよ」


痛い。前世なら死んでいた衝撃だが。


「あらあ? まだ死んでないみたいよお?」

「けっ。頑丈な野郎だぜ。おら! もう1発いくぜ!」

「やってやるっすよ」


続けて男が降り降ろす鉄棒。俺は片手で受け止める。


「お? う、動かねえ」


異世界転生した俺は超人。

チンピラ相手に力負けするはずがない。


「もう! どうなってるのよお?」

「お前らも見てねえで、やれって!」

「うい。やるっすよ」


やれやれ。俺の身ぐるみを剥ごうというのだろうが……


「シューゾウ流パンチ。マッパ・デストラクション」


ドカドカドカーン


あいにく俺に体術の心得はない。

それでもLV43。ステータスの暴力があれば殴り合いで負けることはない。


「いやあー。暴力反対よお」

「ぐおっ。なんだこいつ」

「いたいっす」


3人まとめて地面に吹き飛び、倒れ込む。


「仲間を呼び集めるのよお!」

「俺たちはここらの半グレのリーダーだぜ?」

「後悔しても遅いっすよ」


「仲間を呼んでいいのか? お前たちの恥ずかしい姿を見せることになるが?」


「え?」「は?」「す?」


パラリパラリ。3人の衣服はビリビリに破け散る。

都合。3人は真っ裸となっていた。


「いやー」「きゃー」「っすー」


俺のデストラクションはAランク。

衣服程度など指先1つでバラバラである。


「さて。エルフに関する情報。洗いざらい吐いてもらおうか?」


「エルフに襲われた友達がいるってのは、嘘なのよお」

「噂は聞くけど、実際に襲われたなんて人は見たことないの」

「これ以上のエルフ襲撃に関する詳しい情報は、詰所で衛兵に聞くと良い」


なるほど。言われてみればそうである。


「服、服を返すのよお」

「こんな街中で裸なんて……」

「恥ずかしいっすよ」


「デストラクションは破壊スキル。完全破壊した装備は、Sランク リペアであっても修復は不可能である」


「いきなり長文で何を語ってるのよお」

「服を、お願い……」

「これじゃ帰れないっすよ」


残念ながら服を返そうにも返せないというわけだ。


まあ、元はといえば俺を害しようとしたお前たちが悪いのだ。

それを考えれば裸で街中を歩いて帰る程度の罰で済ますのだから、俺ほど博愛精神に優れた人間、そうはいない。


今日は時間も遅い。衛兵に話を聞くのは明日とし、俺は宿屋へと帰還する。

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