第70話 久しぶりの家族団らんの時。

その夜。父さん、母さん、兄さん夫妻、カルフェ。そして俺。

久しぶりの家族団らんの時。に追加することママさん、エルちゃん。


「シューゾウ。無事だったか」

「シューちゃん。ああ、良かった良かったわあ」

「僕たちみんなシューゾウが死んだって聞いてたから。でも良かった」


「不肖シューゾウ。兵役を終え、ただいま戻りましたであります!」


ビシリ。俺は軍隊仕込みの敬礼を披露する。


「シューちゃん? 後ろのお2人の方は?」

「……気になる。誰?」


気になるのは当然。俺は家族に2人を紹介しようとする。その前に──


「はじめまして。お義父さまお義母さま。私はエルフで、マーマレットと申します」

「エルちゃんです。おじいちゃん。おばあちゃん。よろしくなのです」


「お義父さま……おじいちゃん……」

「お義母さま……おばあちゃん……」


ママさんエルちゃんが挨拶していた。


「うふ。シューゾウさまとはエルフの国で親しくなりまして。ね。あなた」

「パパが里帰りするので、ママとエルちゃんも付いて来たのです」


うむむ……親しくなったのは事実である。


「あなた……パパ……シューちゃん?」

「シューゾウ……その子はお前の娘か?」

「おにいが浮気。しかも隠し子まで……」


どうすればそのような発想が出るのか?


俺が実家を出てまだ2年。エルちゃんはどう見ても、もっと年上。

まるで計算が合わないではないか。


「でもねえ……エルフさんの年齢は外見では分からないからねえ」


いやいや。それは大人の話で子供のうちは見た目通りで問題ない。はずである。


「エルちゃんは前の人との間に生まれた子なの。でも、新しいパパにもすっかり懐いていて。ね」

「はいです。シューゾウパパには助けていただいた恩があるのです」


そもそも、あなたでもパパでもない。


「まさか死んだと思っていたシューちゃんが、こんな可愛いお嫁さんと孫を連れて帰って来るなんて……およよ」

「シューゾウ……良い人だ。大事にしろ」

「おにい。殺す」


良い人だし大事にはするが、妻でも孫でもないので、殺さないで欲しい。


「あの。父さん母さん。2人はただの友人で、別に結婚しているわけでもないんだ。まあ、その親しくしているのは事実だけど……」


「シューゾウ……お前、まさか遊びで一夜をともにしたとでも言うのか!」

「シューちゃん! そんな無責任な子に育てた覚えはありません!」

「おにい最低。死んで」


うむむ。親父世代の頭は固い。

令和のご時世。一夜限りの恋など世間の常識だというのに。


「うふ。すみません。エルフは結婚しないのですよ。それに私が一方的に慕っているだけですので、今のままで十分です。ね。あなた」

「結婚しなくても、パパはパパなのです」


こともなげに言うママさんエルちゃんの姿に。


「まあ……ママさんがそうおっしゃるなら無理強いは出来ないわねえ」

「……俺は納得いかん……が、エルフの流儀には従わねばならん」


やれやれ。結婚しては他の女性といたせなくなる。危ない所であった。

ではなくて、エルフの国は戦争の真っ最中。俺もいつ死ぬか分からない。

残された家族のことを考えれば、今はまだ家庭を持つべき時期ではない。


その後、食事は進み父さん母さん兄さんにお酌して回るママさんの姿。

俺はカルフェ、エルちゃんと一緒に並んで座り食事を楽しむわけだが……


「おにい。今まで何やってたの? 生きてたのに何ですぐ帰って来なかったの? 何でエルフの人と一緒なの? やっぱり浮気なの?」


うむむ。カルフェも好奇心旺盛な年頃。

色々と知りたいだろう気持ちは分かるが、何だか耳に痛い内容ばかり。

こういった時は可愛いもので気を逸らせるのが一番と聞く。


「カルフェ。この子はエルちゃん。エルフの国で知り合ったんだ」


俺はエルちゃんを抱き上げ、カルフェの前に差し出した。


「エルちゃんなのです。カルフェお姉ちゃん。よろしくなのです」


子供の成長は早い。一時のおどおどした姿は影を潜めて、すっかり社交的に成長したエルちゃん。パパは嬉しい。いや、パパではないが。


「……お姉ちゃん。カルフェに妹……可愛い」


さらに後一押し。エルちゃん。頼むぞ?


「うう……パパは奴隷だったエルちゃんを助けてくれたのです……パパを怒らないであげて……うう」


おどおと申し訳なさそうに伝えるエルちゃんの姿はまるで小動物。


「おにい。そうなんだ……うん。エルちゃん食べたいものある? お姉ちゃんが、おかず取ってあげる」


やれやれ。どうやらカルフェとも仲良くやっていけそうで何よりである。




夕食の後。俺は久しぶりに我が家のお風呂に入る。


「おにい。約束だから背中を流します」


ガラリ。引き戸が開けられカルフェの声がする。


どうやら出征前の約束を覚えていてくれたようだ。

思えば2年前。帰って来たら背中を流して欲しいと、悲壮感をにじませつつカルフェにお願いした甲斐があったというもの。


はたしてカルフェの成長やいかに……?


振り返る俺が見たのは、湯あみ着を身に着けたカルフェの姿。


マジかよ……


「だって……恥ずかしい」


成長したカルフェは羞恥心を覚えていた。


ぐぬぬ……兄としてカルフェの成長を喜ぶべきか悲しむべきか……


そんな成長したカルフェは、俺から目をそらして顔を赤らめていた。


「おにいの……成長してる」


おにいちゃんも男。当然に成長する。


「すまない。カルフェ。おにいちゃん兵隊生活が……男ばかりの禁欲生活だったもので……つい……妹を相手に恥ずかしいおにいちゃんでごめん……」


「おにい……可哀そう。あれ? でも、エルフの人と?」


「いや。それは誤解だ。そもそも別に結婚したわけでもない。ただの旅の連れというか仲良くなっただけというか最近はエルちゃんがなかなか寝つかないので、できていないというか何というか……ううっ。奴隷生活での古傷が……いたた」


「おにい大丈夫? カルフェ、どうすれば?」


俺とカルフェは兄妹。

しかし、2年にもおよぶ兵役を終えたのだ。

少しくらは、洗ってもらうくらいはセーフではないだろうか?


「その……すまないが、このあたりをさすってくれると……」


「でも、そこは……ううん。分かった」


んほおおお! 偽物ではない。やはり本物は最高だった……

おにいちゃん。帰ってきて良かったよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る