第66話 永遠緑花の都

リジェクション砦を出た俺たち3人。

ママさんの先導により、無事にエルフの国の首都、永遠緑花の都エターナルグリーンシティに辿り着いた。


石で組まれた城壁の全面に蔦が生い茂る。

まさに森の秘境と呼ぶに相応しい都市である。


「止まれ! 見ない顔だがどこのエルフだ?」

「というより、隣の男は人間ではないのか?」

「しかも男の着ている服は、精霊服ではないか!」

「どういうことだ? アグニス様に報告を!」


城門で待たされること、しばらく。


「……」


エルフにしてはがっちりした体格。

アスリートのような女性が俺の前に立っていた。


無言で見つめる女性。凄まじいプレッシャー。

着ている服は俺と同じ。白の服。

もしかするとイクシードの言っていた森林の四つ葉。最後の1人か?


「アグニス様。私たち東のニューデトロの街から参りました。私はマーマレット。娘のエル。そして私たちの英雄、シューゾウさまです」


ママさんはイクシードから預かった親書を差し出した。


アグニスということは、やはり彼女が森林の四つ葉のリーダー格。

クローバーのアグニス。


ママさんの差し出す親書を無言で受け取り無言で読み進めるアグニス。


「……来い」


それだけを言うと、背中を向けて歩き出す。


後に付いて歩く俺たちは宮殿の中。玉座の間らしき場所まで案内される。


「アリステレサ様。こちらを」


アグニスから親書を受け取った女性。

豪華な玉座に座るということは、彼女がエルフの女王アリステレサ。

俺たち3人は女王の前だけに、床に伏せて待つ。


「貴様がイクシード、テュテュスが認めた人間じゃとな?」


親書を読み終えた女王が俺に顔を向ける。


「じゃが、貴様。正統アウギュスト帝国の人間、それも兵士じゃというではないか。本当なのかえ?」


「はい。ですが、俺が徴兵されたのは2年前。すでに兵役は終えていますので、今はただの村人です」


「ほう。それなら汝はエルフの国と敵対するつもりはないと、そういう事かのう?」


そもそも正統帝国はエルフの国とは敵対していない。


「わらわもそう思っておったがのう。ここ半年。正統帝国の国境でエルフ狩りが横行しておるのじゃ」


なんと。


「そのため正統帝国との国境に兵を増員したのじゃが、その隙を神聖教和国に突かれて、もうにっちもさっちもじゃわい」


むむ……それは大層なご迷惑をおかけしたようで……申し訳ない。


「俺の故郷は正統帝国。実家へ帰るついでにエルフ狩りについて調べてみます」


そのためにも通行許可証が必要。


「うむ。アグニスよ。シューゾウを精霊の間へ案内してやるのじゃ」


「……よろしいので?」


「うむ。イクシードとテュテュス。あの堅物と高慢ちきを手懐けたのじゃ。わらわがどうこう言う必要もないじゃろう」


「……かしこまりました」


俺は通行許可証が欲しいだけなのだが……


「シューゾウさま。頑張ってくださいね」

「シューゾウパパ。頑張るのです」


2人に応援されたのでは男として頑張らざるをえない。


「アリステレサ様。精霊の間というのは何なのでしょうか?」


「うむ。この都市の中心にして、わらわ達エルフの加護の源。精霊樹のある部屋じゃ」


永遠緑花の都エターナルグリーンシティを守るのがエルフの使命だとイクシードは言っていた。サンフランの街、ニューデトロの街を。何を捨てても守らねばならないのが、精霊樹ということか。


「わらわたちエルフは10歳となった時、精霊の儀にて加護を授かるのじゃが、その時、稀に精霊の声を聞く者が現れるのじゃ」


精霊の声を聞く者が精霊樹に触れると、精霊樹の御力を授かるという。


その結果、イクシード、テュテュスは森林の四つ葉フォレストフォーリーフを名乗る資格を得たという。


アグニスに連れられ、王宮のさらに奥。

建物の中にもかかわらず、樹木が幾重にも連なる部屋へと案内される。


「精霊樹だ……触れてみろ」


広大な部屋の中央。床を突き抜け天井を突き抜けて、その巨樹は生えていた。


アグニスの勧めるままに俺はその巨樹へと、精霊樹へと手を触れる。


途端にまばゆい光が部屋を埋めつくす。

その光の中で、俺は何者かの声を聞いた。


【よくばりな……だが、面白い……エルフを守る者に、我の加護を】


-------------

名前:シューゾウ・モーリ(17歳)

LV:42


クラス   :修理工

      :リペア (S)成長限界

      :ストレージ(S)成長限界

      :デストラクション(B)


EXクラス :九死一生

      :火事場の馬鹿力(S)成長限界

      :消費成長   (S)成長限界

      :自動回復   (S)成長限界


EXクラス :エルフ特性 【NEW!】


スキル   :剣術(B)

      :槌術(B)

      :盾術(B)

      :投擲(B)

      :採掘(B)


HP  :2万240【-5060】

MP  :19万5000【+6.5万】


攻撃  :440(↑ 168 UP)

防御  :650(↑ 168 UP)

敏捷  :440(↑ 210 UP)


魔法攻撃:482(↑ 210 UP)

魔法防御:618(↑ 168 UP)


魔法:水魔法

  :火魔法

  :風魔法

  :土魔法

-------------


どのくらいの時間、俺は精霊樹に触れていたのだろう。

意識を取り戻した俺は、自身に新たな力が宿っていることを感じた。


EXクラス:エルフ特性

・エルフの寿命を得る。

・訓練により全てのスキルを習得可能。

・全てのスキルが、Sランクまで成長可能。

・【デメリット】スキルランクが上がりづらくなる。

・LVアップ時、ステータスにエルフ補正が追加。

・最大HP0.8倍。最大MP1.5倍となる。


まさか……新たなEXクラス……3つ目のクラスを獲得したというわけか。


これまではBランクで成長限界となっていたスキル。

剣術や盾術、デストラクションなど、その全てをSランクまで上げることが可能。

それは魔法についても同様。DランクからSランクまでに上限が解放されていた。


そして、全てのスキルを習得可能。もちろん訓練次第ではあるのだが。


デメリットであるスキルランクが上がりづらくなるだが、俺には大したデメリットでもない。九死一生の効能、危険状態となれば習得済みスキルの熟練度を獲得するがあるからだ。


ステータスについては、LV42分のエルフ補正が追加されたため、大幅アップ。


エルフ特性のデメリットである最大HP0.8倍についても、俺にとっては無視できる内容。それよりも最大MP1.5倍の恩恵が大きすぎる。


「精霊樹が光った……お前は認められた……お言葉……聞いたのか?」


「ああ。俺はエルフだ」


「?」


意味不明だろうが、事実である。

もはや俺は二重職業ダブルクラスのシューゾウではない。

三重職業トリプルクラスのシューゾウである。


その後、アグニスに連れられ女王の間へと戻る。


「うむ。精霊に認められた汝に、森林の四つ葉。ユーカリの称号を与える」


「ですが……俺は兵士ではありませんが、今も正統帝国の国民。正統帝国の人間です。エルフの国民になったわけでもない俺が、称号をいただくわけにも……」


「構わん。精霊が認めたのじゃ。エルフの民が認めたのじゃ。お主の行動に口は挟まん。思うように行動すれば良い。それが精霊の意思じゃ」


女王の言葉に、俺はアグニスから四つ葉の描かれたメダルを受け取った。

俺は正式に森林の四つ葉。ユーカリのシューゾウとなったのだ。


「そのメダルがあればエルフの国内。どこでも兵に止められることはない」


これでエルフの国境を越え、正統帝国へと帰郷できるわけだ。


「アグニス。兵を1千。リジェクション砦へ追加で手配しておくのじゃ」


「……首都の守り。大丈夫ですか?」


「構わん。わらわの判断の誤りにより、多数のエルフに被害を出したのじゃ。これ以上やらせぬぞよ」


リジェクション砦に増援。それも兵が1千とは、ありがたい話である。

これなら俺が居なくとも、教和国方面の防衛はかなり整ったといえる。

反面、永遠緑花の都エターナルグリーンシティの守りが薄くなったわけだ。


となれば、俺は何をすれば良いかといえば──


「女王陛下ありがとうございます。正統帝国方面におけるエルフ狩りの件、私にお任せください」


正統アウギュスト帝国の問題。同じ正統アウギュスト帝国国民である俺が解決する。


そのためにも、まずは実家へ。

国を離れて2年。今の国内状況について領主様や家族に聞かねばならない。


「ママさん。エルちゃんは国境までの案内で十分だ。エルフ狩りの危険もある。そこから先は俺だけで行く」


「ふふ。私たちも実家まで行きますよ。ご両親にご挨拶しませんと失礼ですからね」


「エルちゃんも、おじいさん、おばあさんにご挨拶するのです」


……いや。待って欲しい。

例え実家に付いてきたとしても、俺のご両親であってママさんのご両親ではないし、エルちゃんの祖父母でもない。


「シューゾウパパ……ママとのことは遊びだったのです……?」


「うう……そんなシューゾウさま……ひどい……」


あの……エルフの世界ではハーレム婚は可能でしょうか?


「なんて。ふふ。大丈夫ですよ。エルフは結婚しませんから」


そうなのか?


「お互い寿命が長いですもの。人間のように結婚だ離婚だとはしないの。気に入ったら一緒に住んで、飽きたら別れる。それだけですよ」


いつでもやり捨て可能な愛人。それなら両親へ紹介するに何の問題もない。


「分かった。それじゃあ2人も一緒に来てくれるか?」


「はい」


「……シューゾウパパは心が腐っているですの。前のパパの方がイケメンだったのです」

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