異世界に転生したので冒険者を目指そうと思ったが俺のクラスは生産系の修理工。これって戦闘に向かないのでは? だが、前世のある俺だけ2つ目のクラスがあった。やれやれ。これなら何とかなりそうだ。
第63話 おほほっ。本日もわたくしが治療に来て差し上げましたですわよ。
第63話 おほほっ。本日もわたくしが治療に来て差し上げましたですわよ。
その翌日。
「おほほっ。本日もわたくしが治療に来て差し上げましたですわよ」
再び輿に乗り砦を訪れたテュテュス。
「精霊の加護よ。彼の者の傷を癒したまえ。ロスト・ヒール」
エルフを1人と半分治療すると。
「ぜーぜー。おほほっご機嫌あそばせ」
お供の担ぐ輿に乗り砦を去って行った。
……しかし何故に輿なのか?
移動するだけなら馬車で良いだろうに、輿を担ぐエルフも大変である。
「単にテュテュスの趣味でしょう」
だとするなら、なかなか興味深い趣味をお持ちである。
300人全員の奴隷の首輪を外し終えた俺は、続いてエルフの治療を開始する。
その間、シュナイダーはエルフ兵と共に教和国残党が残っていないか捜索へ。
イクシードとヴァレンチンは、今後の教和国に備えた対応の相談、兵の訓練を行っていた。
ヴァレンチンは教和国の正規軍で副官を務めた男。
軍の情報に詳しいのはもちろん、兵の訓練にも長けている。さらにはAランクまでの治療魔法も使えるとあって、訓練で負傷した兵の治療など、すでに砦の防衛に欠かせない人員となっていた。
俺は兵を訓練するヴァレンチンを捕まえ、手に入れた奴隷の首輪を全て渡す。捕虜の数は1千人。全員の首に付けるには足りないが、反抗を抑えるには十分だろう。
「おほほっ。本日もわたくしが治療に来て差し上げましたですわよ」
昼過ぎになって、ようやくテュテュスが輿に乗ってのご到着。
「精霊の加護よ。彼の者の傷を癒したまえ。ロスト・ヒール」
だが、重役出勤にも当然の内容。
ヴァレンチンが言うには教皇であっても1日に2回のロスト・ヒールが限界だという。それを1日に3回も使えるのだから破格のMPといえる。
「ぜーぜー……それにしましても、なぜ怪我人を砦に残したままにしてますの? わたくしが砦まで来るのが面倒、いえ、街で休んでいただいた方がよろしくなくてですわよ」
「治療を終えた方は、リジェクション砦で兵士としての訓練があります」
「あら? 兵士ならわたくしが連れて来ました1千名がおりますわよ?」
「それでは足りません。ヴァレンチン様によりますと、次に来るであろう第2軍の兵は1万5千です」
イクシードの言葉に、おほほっとしていたテュテュスの顔が青ざめる。
「い、1万5千……あの、リジェクション砦に兵は何名いるのでしたかしら?」
「兵が300。奴隷から解放された者が300。ニューデトロの街や近隣の村から集まる住民が3千。テュテュスの連れて来た兵1千とあわせて、最大4600です」
「……無理ですわ。わたくし首都に帰ります。ごきげんようですわ」
「テュテュス。待ちなさい」
踵を返そうとするテュテュスの腕をガシリとつかむ。
「だってどう考えても無理ですわ! 敵兵が1万5千ですわよ? リジェクション砦なんて最近、落とされたばかりでどこもボロボロ……」
そう言って砦を見回すテュテュスであったが……
「あら? ボロボロじゃないですわ? それどころか何だか随分と頑丈そうに見えるのですわ?」
それも当然。全て修復。ピカピカの新品である上に+1強化されているのだ。
「ご主人様に修復、強化していただいたお陰です」
「おほほっ。こんな人間1人に何が出来るというのですわ。といいますか、コイツまた勝手に精霊服を着て! いい加減に脱ぎなさいですわ!」
毎回毎回、俺の服を脱がそうとするのは何なのだ。
まさか噂に聞く痴女ではないだろうな?
「精霊服は精霊に認められたエルフだけが着る衣服ですわ。薄汚い人間が着て良い物ではありませんのですわよ」
どうやら痴女というわけではない。
理由があっての事のようだが……これはイクシードから貰った服。
テュテュスに言われたからといって、脱ぐわけにもいかない。
「ご主人様は特別です。精霊にも認められるでしょうから何の問題もありません」
「おほほっ。こんな品のない人間が認められるはずがないのですわ」
さて前回の治療から30分が経過。俺のMPは100%回復した。
俺が立ち上がったところで腕を失ったエルフが1人、俺たちの元まで歩み寄る。
「おほほっ。あら、駄目ですわよ? もう今日の治療は終わりですわよ」
「俺が治療する。テュテュスは下がっていてくれ」
テュテュスを遮り、俺はエルフの前まで進むと右手をかざす。
「はあ? 俺が治療する……俺が治療するぅうう? あのねえ人間。四肢欠損の治療にはSランク ヒールのロスト・ヒールが必要なの。Sランクですわよ? Sランク。その間抜け面でどうやって治療するのかですわ」
「神の御業にて彼の者の傷を癒したまえ。治療リペア。治療リペア」
白光の後。両腕を負傷したエルフの治療が完了する。
「シューゾウ様。ありがとうございます!」
最大MP11万の今なら30分に2回の治療リペアが可能。
つまり、30分に1人の治療が可能である。
「おほほ……ほぉおおおお!? う、腕ええ、腕が治ってええ?! ロスト……ロスト・ヒールを……人間が2回連続でえええ!?」
どうでも良いが、ロスト・ヒールではなく治療リペアである。
次のMP回復まで30分。俺は再び地面に腰を降ろした。
「この人間なんですのですわ! 人間のMPでロスト・ヒールをどうやって2回も使えるのですかですわ! 詐欺? イカサマ? トリック? 白状しなさいですわ!」
痛い。首を締めるかのごとく、テュテュスは俺の首に手を添えぶんぶん振り回す。
「ちょっと! イクシード。こいつ何なのですかですわ!」
「ですからご主人様は特別。精霊も認めるお方だと申したでしょう」
「ですが人間ですわ! 人間が精霊に認められるはずがないのですわ!」
「そうでしょうか? 少なくともこの場にいるエルフは、全員がご主人様を認めております」
「シューゾウ様はタブリス様の生まれ変わりです」
「
「私たちを奴隷から解放してくださったのよ!」
「その上、両腕の治療まで……シューゾウ様のためなら死ねます」
「シューゾウ! シューゾウ! シューゾウ!」
しかし……エルフたちは名前を連呼するのが好きなようで困ったものである。
「……勝負ですわ」
俺の首を締めるテュテュスが間近で俺を睨みつける。
「わたくしとエルフ伝統の魔力訓練で勝負するのですわ!」
俺の首を離したテュテュス手が両手指を開くと、俺に向けて突き出した。
手を組み合わせろということだろうか?
美少女エルフが手を差し出すのなら、握らないわけにはいかない。
俺とテュテュスは正面からお互いの手と手を合わせる力比べの態勢。
手四つとなる。
「魔力訓練が何かは知らないが、テュテュスはロスト・ヒールを2回使ったばかりだろう? 大丈夫なのか?」
「お互いのMP量を比べあう決闘ですわ。それにロスト・ヒールを2回使ったのはお前も同じですわ」
美少女エルフとお互いの指を絡ませるのだ。なかなかに役得である。
「無駄な事にMPを使って良いのか? 今は1人でも多くのエルフを治療するべき時だと思うのだが?」
「治療が1日くらい遅れても平気ですわよ」
テュテュスは平気かもしれないが、治療を待つエルフ達にとっては平気でない。
「おほほっ。
お互いが魔法をイメージした魔力を相手の体内へと流し込む。
先にMPが尽きて押し負けた方が敗北だという。
「おほほっ。わたくしが負けましたら、お前を認めて差し上げますわ。いきますわよ!」
別に認めてもらう必要はないのだが……
テュテュスの合図に、俺たちは互いの手を通して、相手の体内を目掛けて魔力を流し込む。
直後、俺の体内に荒れ狂う魔力が流れ込む。
これは風魔法。Aランク魔法。ウインド・トルネードの魔力。
俺はMP量を競う魔力比べで、押し負けたのであった。
「おほほっ。なんですのなんですの! やっぱり人間。この程度ですわよ!」
俺の体内で暴風が巻き起こる。その臓腑をかき回す魔力の奔流に俺は口から血を吐き、地面に両手をついて崩れ落ちる。
「おほほっ。これで分かったかしら。ご自分の立場というものがですわ」
ゲスッ ゲスッ
地面に伏せる俺の頭を踏みつける。輿に乗って移動するテュテュスを見て予想はしていたが、他者の上に立つのが好きなようである。
……んほおお。ではなくて、実のところ俺は魔力を流していないのだから、負けて当然。治療を待つエルフがいる今、俺のMPは1ポイントだろうが無駄には使えない。
そして、見るからにエルフとしてのプライドが高いと思われるテュテュス。
ただでさえ敵兵の数にビビって首都へ逃げ帰ろうとしていたのだ。
ここで俺に負けたとなれば、機嫌を損ねて本当に首都へ帰ってしまう恐れがある。
となれば、ここは負けるしかない。今も治療を待つエルフたちのため、俺はあえて敗北の恥辱を飲むのであった…………んほ。
「おほほっ。勝利の後の紅茶は格別に美味しいですわ」
テュテュスは上機嫌のまま四つん這いとなる俺の背中に座り込み、ティータイムと洒落込んでいた。
……んほおっと、そろそろ前回の治療から30分。
ガバリ。俺は立ち上がる。
「きゃっ! ちょっと! 人間、急に立ち上がらないでくださる? わたくしの精霊服に染みが出来たらどうしますのですわ」
それはすまない。
俺が立ち上がるのを待っていたのか、治療待ちをしていた次のエルフが進み出る。
「あら、治療ですか? 駄目ですわ。もう今日の治療は終わりですわよ」
俺のMPは既に100%回復。
「神の御業にて彼の者の傷を癒したまえ。治療リペア。治療リペア」
白光の後。エルフの両腕の治療が完了する。
「シューゾウ様。ありがとうございます!」
治療を終えた俺は、再びテュテュスの前へと戻る。
「おほほ……ほぉおおおお!?」
俺を指さし目を見開きながら、意味不明の言葉を発するテュテュス。
「ほぉおおおおっ!? ほぉおおおおっ!? ほぉおおおおっ!?」
ウグイスになったかのようなテュテュスの姿に、お付きの兵が慌てて回収。
輿に乗せると運び去って行った。
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