第61話 満面の笑みを浮かべていた。

ニューデトロを敗走した教和国兵がサンフランの街に到着する。


城門前に到着。降伏した兵の数は1000。


ニューデトロでの敗残兵が4000。

残る3000の兵は落ち武者狩りにあったか、街に乱立するエルフの旗を見て、街を避け森を抜けて教和国へ帰るべく進路を変えたのか。


ひとまず降伏した兵の武器防具は全て没収。

大人しく捕虜となるようヴァレンチンから説得してもらう。


途中、上手い具合に騒ぐ将校がいたためイクシードに始末してもらった所、残る捕虜は大人しくなっていた。その後、エルフ兵を監視に付けて建物に閉じ込める。


とはいえ、1000もの兵。いつまでも閉じ込めておくわけにもいかない。

食糧も必要。時間が立てば騒ぐ者も出て来るだろう。


そのためにも神聖教和国との交渉が必要になるわけだが……


「無理だ。現状では教和国は交渉に応じない」


「ヴァレンチンの考えでは、教和国は捕虜を見捨てるというのか?」


「違う。予定は遅れているが、いずれ第2軍がエルフ侵攻のため派遣される。交渉など必要ない。第2軍が勝利すれば良いだけと考えるはずだ」


エルフの国。防衛の要であったリジェクション砦は、既に陥落。


その先にあるのは、まともな兵もまともな城壁もないエルフの街だけ。

第3軍はたまたま敗北しただけであって、第2軍であれば楽に勝てると。

そう考えているわけだ。


となるとやることは1つ。


「リジェクション砦にエルフの精鋭を配置。鉄壁要塞とする」


エルフの国、防衛の要であるリジェクション砦が復活したなら、教和国も攻め込むに二の足を踏む。交渉にも応じるだろう。


「そんなっ! シューゾウ殿! リジェクション砦は教和国に破壊され、今はただのガラクタ。修復しないととても使えませんっ!」


修復しなければ使えない。となれば修復すれば良かろうなのだ。




というわけで、俺たちはリジェクション砦。その跡地にやってきていた。


「おのれっ! 教和国どもがっ! 栄光あるリジェクション砦がこのようにガラクタとなるまで破壊するなどっ!」


エルフにしては珍しく石材で建造された砦。

それがリジェクション砦である。


それだけ人間を、神聖教和国を危険視しての備えであったわけだが……

積み上げられた石材の一部は溶け、ボロボロに崩れ落ちていた。


「その、シューゾウ殿のリペアの凄さは体感して知ってはおりますが……さすがにこれ程までに壊された砦は……」


まあ、ちゃっちゃと修復していくとしよう。


「リペアリペアリペアリペアリペアリペアリペアリペア」


石材に手を触れリペアを使用。

白光の後には、次々と砦の石材が修復されていく。


「んんああああっ! シューゾウ殿おおおっ!」


うるさい。修理の邪魔である。いつの間にか最大MP11万となった俺にかかれば、この程度。騒ぐほどのことではない。


とはいえ、さすがに即座に修復できるものでもない。

18時間、合計200万MPを消費して砦の修復は完了した。


これで終わりとしても良いわけだが……実は1つ試してみたいことがある。


それは砦の強化である。


「まさかっ! その、シューゾウ殿のリペアの凄さは今も目にしたばりではありますが……さすがに砦の強化までは……そのような話、聞いたことありません」


シュナイダーの言う通り。

これまで砦を強化したなどという者は存在しない。


砦自体の造りは石材。

材質的にはDランク鍛冶師であれば強化できる材質である。


だというのに誰も強化が出来ない理由。

それは、単純にMPが足りないのである。


修理にしろ強化にしろ、対象が大きくなればなるほど消費MPは増大する。

砦のように強大な代物。最大MP1000程度の常人に強化できるはずがない。


当然に俺は常人ではないわけで。


「強化リペア」


リジェクション砦+1。


「んんああああっ! シューゾウ殿おおおっ! シューゾウ殿になら拙者……」


ざっと消費MP10万。+1強化で防御力10%アップ。

前回は教和国の炎魔法で石材を溶かされたようだが、これなら多少は持つだろう。


「砦は形になったようだが、兵がいないのでは話にならんぞ」


とヴァレンチン。それもそうだ。


現在、砦にいるのは強化エルフ弓兵が300だけ。

いくら砦が固くなろうとも守り切れるはずがない。


人員。いやエルフ員が不足している。


「ご主人様。首都から連絡が来ております。奴隷となったエルフの治療も含めて、首都から増援が派遣されるそうです。近いうちに到着するかと」


それは朗報。

だが、いつ来るか分からない者を待つだけではない。

足りないエルフ。不足しているなら増やせば良かろうというわけで。


「エルちゃん。LVとHPはいくつになったのだ?」


「うひ……うひひ」


「うふふ。エルちゃんはLV11、HPは110になったんですよ。ね」


とりあえずの目標であった100は越えたが、ギリギリか……まあ問題ない。


何せ俺のMPは11万にまで増えている。

デストラクション Aランクで奴隷の首輪の破壊に必要なMPは5千。


MP10万を消費するなら、本来、破壊に必要なMPの20倍。

受けるダメージは、1000ダメージの1/20で50となる。


つまり、HP50あれば死ぬことはない。110あるなら余裕で安全圏。


となれば、やることは1つ。火事場の馬鹿力でデストラクションをAランクとした状態で、奴隷の首輪を破壊する。


奴隷となったエルフ300人を解放すれば、戦力は300アップ。

砦の防衛も少しはマシになるというものだ。


幸いにもリジェクション砦は石造り。

中庭で多少の火を燃やした程度では、砦に燃え移ることもない。


とはいえ……イクシードに森を伐採。木材を中庭に集めてくれと言うのもな……

森林を神聖視するエルフ。毎度毎度、森林破壊するというのもはばかられる。


となると、他に燃える物といえば……


「イクシード。サンフランの街で討ち取った教和国の兵。その死体はどうしている?」


「はい。ニューデトロの郊外。ちょうど森を切り開いた場所がございますので、ストレージで運びました後、そちらで火葬に」


「すまないがその死体。リジェクション砦まで運んでくれないか?」


燃やすものは何でも構わない。

俺の火事場の馬鹿力スキルが火事だと錯覚さえすれば、何でも良いのだ。


イクシードの指示により、砦の中庭に可燃物が山積みとなる。


「火よ。燃え盛る炎となれ。ファイア」


炎魔法で着火。

適度に炎が燃え上がるころ、俺の火事場の馬鹿力が反応する。


-------------

※※ 火事場の馬鹿力(S)全力発動中!    ※※

※※ 全スキルが一時的に1ランクアップします ※※


スキル:リペア  (S)→(SS)限界突破中!

スキル:デストラクション(B)→(A)

スキル:自動回復 (S)→(SS)限界突破中!

-------------


「というわけで、今からエルちゃんの首輪を破壊する」


「待て! 奴隷の首輪を破壊するだと!? 下手をすればその子供は死ぬぞ」


俺の言葉にヴァレンチンは懸念を述べるが……


「エルちゃん。良いか?」


「うひ……うひひ?」


「シューゾウさま……エルちゃん……ああ、シューゾウさま……お願いします」


覚悟を決めた。ように見えるエルちゃん。

ママさんはエルちゃんの手に薬草を握らせると、手を組み必死にお祈りする。


万が一にも失敗しましたでは済まされない重大局面。

その緊張に俺の指先は……などと怯えるはずがない。


俺はシューゾウにして修造。前人未踏のダブルクラスを持つ男。

炎の燃え盛る今。失敗などあろうはずがない。


「デストラクション」


奴隷の首輪への破壊を検知。首輪から高圧電流が流れ出す。

流れる電流はエルちゃんの身体、そして俺の身体を痺れさせるが……それだけだ。


パリーン


奴隷の首輪が崩壊。電流は停止する。


プスプスと身体を焦がす煙は、エルちゃんが手に持つ薬草により癒されていく。


「ああ! エルちゃん! エルちゃん! ああ……」


「うひ……ママ……ただいま……エルちゃんただいまですの!」


機能を停止。砕け落ちる奴隷の首輪を踏みしめて、エルちゃんはその顔に満面の笑みを浮かべていた。


「これは……奇跡なのか? 奴隷の首輪を少女に怪我なく外すなど……シューゾウ。貴様はいったい?」

「んんああああっ! シューゾウ殿おおおっ! 抱いて、抱いてくだされえ!」

「さすがはご主人様。ご主人様でしたらきっと精霊のご加護も……」



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お時間のある方は近況ノートも読んでいただけると、嬉しいです。

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