第59話 鉄の門扉を備えてはいるが、その程度の城門……

休む事なく全速力で走った俺たちは、逃げ出し敗走する教和国兵を切り伏せ、森へと追い散らし、サンフランの街が見える所までやって来た。


俺に着いてきているのはイクシード、シュナイダー、兵士が200人のみ。


これだけの速度で駆けたのだ。

敗戦の報は届いたとしても、防備を固めるには間に合うまい。


「このまま突っ込むぞ!」


「ですがっ! シューゾウ殿! 我々の接近に気づいたのか、街を囲む城門が閉じようとしていますっ!」


シュナイダーが危惧するのも無理はない。


エルフは弓兵。城門を破壊するハンマーもなければ、槌術スキルを使える者がいるのかどうかも分からない。


このまま突撃したのでは城門前で立往生。

城壁からの矢と魔法により、壊滅した第3軍の二の舞である。


「城門は俺が叩き壊す」


ストレージからツルハシ+30を取り出した俺は、手早く+40まで強化リペアする。


「おおっ! そのような備えが! でしたらシューゾウ殿! 兵にも同様の破壊装備をっ!」


「その必要はない。俺1人で十分だ」


勢いのままに突き進む俺たちを目掛けて、城壁の敵弓兵から矢が射かけられるが。


「風よ。我らを守る風の壁となれ。ウインド・カーテン」


イクシードが風魔法で矢をそらす。

城壁の魔法士からファイア・アローが飛ぶが、鋼鉄の盾を前に走り城門へと到達する。


一度は教和国が破壊した城門だが、今はエルフの反抗に備えて修復されていた。

とはいえ、所詮は付け焼刃のやっつけ仕事。

鉄の門扉を備えてはいるが、その程度の城門……


「採掘・ヘビー・クラッシュ・デストラクション!」


ズドーン


一撃。鉄の門扉がヘコみ固定する蝶番が弾け飛ぶ。


ズドーン


二撃。ついには門扉が吹き飛び、城門は全開放。


「なんとっ! シューゾウ殿! わずか2撃で城門を?!」


驚いている場合ではない。

サンフランの街攻め。ここからが本番である。


打ち壊れた門扉を越えてエルフ兵は続々と内部へ走り込んで行く。


「イクシード。街の中心となる建物はどこだ? 守備を任された隊長はそこに居るはずだ!」


「こちらです!」


教和国に荒らされたとはいえ、元はエルフの街。

重要な建物の位置は今も変わらない。


城門を入った俺たちを阻もうと剣を手に立ちはだかる教和国兵。

それらを薙ぎ倒し先導するイクシードに続いて移動する。


エルフの街にしては大きな建物が目に入る。

建物のドアが開き教和国の人間が6人、その姿を現した。


「なっ! エルフ共がもうこんな場所まで?!」

「城門が突破されたのか? 城門の兵は何をやっている!」

「くっ! 防衛隊長をお守りしなければ!」


どうやら正解。

建物を出た兵士6人は剣と盾を手に俺たちに迫る。

6人が持つ剣と盾はいずれも白銀鋼。


教和国兵の中でも白銀鋼を装備する者は上位に位置する兵士。

防衛隊長の親衛隊か何かだろう。


俺はユーカリの剣+12を右手に。


「Bランク剣術アーツ・ソニック・スラッシュ!」


敵を目掛けて振り抜いた剣先から迸る衝撃波。


「ぐあわー!」


衝撃波を受け止めんと白銀鋼の盾を構える男。

その白銀の盾を切り裂き、白銀の鎧を切り裂き、男の身体を両断する。


ただでさえ最強の金属ミスリル鉱石を使用したユーカリの剣。

さらに+12強化。攻撃力は元の2.2倍となるのだから、白銀鋼装備ですら両断する。


「うおー! 死ねえ!」


俺の身体を狙い振り降ろされる剣。


「ガード・デストラクション」


パリーン


盾で弾くと同時にデストラクション。

白銀鋼の剣は破壊される。


「んなっ?! け、剣が! 白銀鋼の剣があああ?!」


白銀鋼の剣は高級装備。

壊れて嘆くのは分かるが、容赦はない。


ズバーン


ユーカリの剣+12で切り捨てる。

この程度の相手、もはやアーツすら必要ない。


6人の兵を倒した俺たちは建物へ乗り込む。

サンフランの街。その防衛隊長を探すべく部屋を開けて確認していく。


2階の1室。開けた部屋には3人の奴隷エルフがいた。


豪華な室内には似つかわしくない。異様な光景。

奴隷の首輪から延びた鎖は、部屋の柱につながれている。


「なっ!? 誰だ! ここは司令室だぞ! 静かに……」


室内には3人の男。

うちの1人はこんな時だというのに、奴隷エルフに抱き着いていた。


「エ、エルフだと!? なぜこんな場所まで入り込んでいる?」


その様子を見て取ったイクシードが即座に駆け入り室内の1人を斬り倒す。

続いてエルフに抱き着く男を仕留めるべく動くが……


「う、動くな! エルフどもが、これが目に入らんか!」


エルフに抱き着く男は、奴隷エルフの首輪に手を触れていた。


「イクシード! 止まるな! 全員やれ!」


俺は怯む様子を見せるイクシードに告げると同時、ストレージから取り出した雪玉を投げつける。


速度を重視したストレート。


雪玉が奴隷エルフを抱える男の顔面にぶち当たり吹き飛ばすと、イクシードは即座に倒れた男を突き刺し止めを刺す。


「お、おのれ。エルフめ! 死ねえ! せめて道連れに」


椅子に腰かける小太りの男。

右手をエルフ奴隷へと向けていた。


イクシードが駆けるが間に合わない。


男の手から放たれた魔力が、奴隷の首輪。その高圧電流を作動させる。


「うひひ。神聖教和国ばんざーい! 電流!」


ズバーン


一拍遅れてイクシードが男を両断。男は息絶えた。


防衛隊長を仕留めたというのに、イクシードの顔は沈痛に沈んだまま。


同じ奴隷であったイクシードには分かるのだ。

これまで教和国に捕らわれ、虐待を受けて来たエルフの気持ち。

きっと助けが来る。それだけを心の支えにこれまで生きてきた。


だが、助けられなかった。

最後の最後。もう目の前だったというのに……


ズバーン


奴隷エルフを縛り付ける鎖を叩き斬る。


それでも、せめて彼女たちを縛り付けていた鎖だけでも……


「あ、ありがとうございます!」

「た、助かりました!」

「イクシード様、感謝します!」


3人の声に思わずイクシードは顔を上げる。


高圧電流により黒焦げとなったエルフ3人。

いや、黒焦げとはなっていない。奴隷の首輪は作動していなかった。


彼女たちの身体は雪に塗れ、キラキラと輝いていた。


【絶縁魔防雪】。その効能は、微小な魔力を遮断する。

俺が投げた雪玉は、ストレージに保管していた【絶縁魔防雪】を固めた物。


防衛隊長が最後に発した魔力、奴隷の首輪を作動させるべく放たれた魔力は、【絶縁魔防雪】に遮断され、奴隷の首輪まで届かなかったのだ。


魔力の供給を失った雪が溶ける。

溶け落ちる雪の中、奴隷エルフ3人の顔は、流す涙に濡れて輝いていた。

そして、イクシードの顔もまた濡れ輝いていた。

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